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47:隊長テサ

午後からはテサの要望通り、実技の訓練となった。兵士達の利用する食堂で昼食を済ませた勇生とメルルはクシドに案内され稽古場へと向かう。


『我が国の部隊は五つに分けられ、お二方の所属する一番隊は戦いにおいて常に先頭を行く、退陣の際は殿しんがりを務める精鋭部隊・・・・なのです。』


道すがら、クシドは隊についても詳しく説明をしてくれた。


『もっとも、最近では大きな戦いは少なく部隊毎の活動も多い様ですが。』


『そういえば・・・”バディス”って人知ってる?』


勇生はクシドに気になっていたことを聞いてみた。


ーラウルの父はここで戦っていたのだろうか?


『勿論です。』


クシドは勇生がその名を知っていることに少し驚きを見せながら答える。


『4年前の大戦に於いて、その弓術をもって敵を一掃したと言われる英雄ですぞ。』


『その・・・英雄って、今何してんの??』


『むぐ。』


クシドはあからさまに口ごもり、勇生は歩く足を止めた。見上げたクシドの顔色は悪く表情は曇っている。


『バディースは・・・戦いが終わった後、謀反・・行為により・・・”国外追放”となりました。』


『追放って、どこへ。』


『勇者殿。興味をお持ちになるのは良いことです。ですがテサ殿をお待たせしていますので本日のところは・・・。』


歯切れも悪くクシドが逃げるように去り、その後ろを見るとテサが稽古場の前に立ってこちらを睨みつけていた。


『ひぇー。』


メルルはそのテサの出で立ちに小さく悲鳴を漏らす。テサは、武人という言葉がよく似合う人間だった。茶色い髪を獅子のようにぼうぼうに逆立て、その厳つい体幹部を国旗と同じ紋章の入った防具で覆っている。背丈も大きく、剥き出しの腕や脚は勇生やメルルの3倍はありそうであった。


そのテサが、両手に木の棒を持ち・・・もしやあれは”棍棒”だろうか?その棒でゴツゴツと床を突き苛立ちもあらわにこちらを見ている。


『遅い!!』


目が合うなり、テサは不機嫌に声を発した。その声は空気をビリビリと震わせる程の音量で、弱い魔物ならその声だけでも逃げ出していきそうだった。


『スミマセン。』


ひとまず勇生はペコリと頭を下げる。


テサは舌打ちすると、入れ。と2人を促した。


稽古場といってもそこには床も屋根も無く足下には剥き出しの地面、上には空が見えている。見たことは無いが”闘技場”のような壁に囲まれた空間だった。


『あらゆる属性の魔法が”使える”ように作られてる。』


テサは簡単に稽古場について説明し、持っていた棒を勇生とメルルに渡した。


『コレが剣の代わりだ。構えてみろ。』


構えろと言われても構えを知らないのだ。勇生は何となく両手に棒を握ってみるが思ったよりもずっしりと重く振り回すのは難しい。メルルにいたっては棒を持ち上げることもままならない。


テサは首を振った。


『火竜の剣は”片手”で扱う剣だ。』


勇生は言われた通りに棒を利き手に持ち直すが、片手では棒の重さに耐えられそうにない。持ち上げ続けるのすら辛いのだ。


棒を地面に付いた勇生とメルルを見て、テサはもう一度首を振り、ぼやいた。


『ったく・・。まあいい。とにかく今日は素振りだ!!』


テサに言われるまま、勇生とメルルは少し間を開けて立ち、棒を何度も振り下ろす。


『手首で振るな。手首を痛める。』


テサは時折ぶっきらぼうに言葉を発しては、その握る位置や振り下ろす姿勢を正す。


『握るのはここ・・だ。”振り”に合わせて足を踏み込め。』


『いち、にい、さん・・・。』


勇生とメルルはひたすら数えながら棒を振る。

百も数えた頃、テサが大きな声でようやく休憩だ。と言った。


『うわぁー疲れた。』


メルルがどっと床に手を付き座り込む。勇生もその隣に大の字になり倒れた。


その2人を見てテサは懐から袋のようなものを取り、差し出した。


『飲め。水だ。』


『・・・え?』


・・・おばばより、優しいかもしれない。勇生は驚きながらも慌ててその袋を受け取り、先にメルルに渡す。水袋は一つしかない。メルルは嬉しそうに水を飲むと、少し申し訳無さそうにその袋を勇生に渡した。


『ゴメン、先に飲んじゃって。』


いや、全然。勇生は心の中で返事をして黙って袋から水を飲んだ。


2人が水を飲み終わるのを見届けるとテサは言った。


『身体は休めていい。次は"魔力訓練"だ。』


メルルと勇生は顔を見合わせた。・・・前言撤回する必要がありそうだ。


その日の訓練は夜まで続き、最後に”各自素振り100回”の宿題が出されテサの訓練は終わった。


明日からは同じように午前はクシド、午後はテサもしくはテサ隊の誰かとの訓練になるらしい。


2人はその日死んだように眠った。






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