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43:碧の国の王

 勇生は伝説の剣を握りしめ、その城内を歩いた。剣の握りは不思議なことに、勇生の手のサイズにピタリと合い、その重さもさほど苦ではない。長さは勇生の腕の長さとさほど変わらないが、”ザガース武具店”で見たどの剣よりも刀身が太かった。剣のガード部分には炎を象る模様が彫ってあり柄の根本には石が埋め込まれている。


ーこの”剣”のどこが伝説なんだ。


勇生は、そのどちらかというと”持ちやすい”小ぶりな剣をしげしげと眺める。燃える炎の中で見た時とは全然違う剣に見えるのだ。


 『あの、あの・・・、ソレ、持ってみてもいい?』


隣を歩くメルルがおずおずと聞くので勇生は簡単にその剣を渡した。メルルはおっかなびっくり、という様子で嬉しそうに両手でその剣を受け取る。そして・・・そのまま床に落とした。


キンという高い音がしてその剣が床に刺さる。衛兵2人が振り返り、メルルは慌ててそれを抜こうとするが抜けず、後ろにこけた。勇生も少し慌てて剣の柄を掴みそれを床から一気に引き抜く。


 『うわゴメン!ごめんなさい・・でもあの、ソレ・・・不思議だね、すっごく重い?』


メルルは床に尻もちをついたまま驚いて勇生を見上げる。その瞳に見つめられ勇生はこそばゆい気分で答える。


 『いや、重くはない・・。』


それは本当だった。軽くは無いが、普通に持てる。メルルにとっては重いのかもしれない。いつの間にか筋力が付いていたんだろうか?勇生は首を傾げてメルルを助け起こし、ヒソヒソとこちらを見て話す衛兵に向かって、ゴメン、床。とだけ伝えた。


衛兵は特に気に留めた様子も無く、また廊下を歩いていく。城というだけあって、とにかくその中は広かった。廊下を進み、いくつも階段を登りながらメルルは城の形状を想像してみた。どちらかというと、西洋の城というよりも日本の城のように上に行くにつれて面積が狭くなってきているように感じる。外から見た時には城壁が高すぎて全体がよく見えなかったけど・・・メルルはぼんやりと考えながら歩く。


 『・・ラウルはおばばのところに帰るのかな?』


不意にメルルが呟き、勇生はドキッとしてメルルを見た。


 『どうだろ。戻らないと思うけど。』


勇生は何となくそう感じて答えた。ラウルはすぐ森に戻らずヨザとまた、どこかへ旅するのではないか?そんな気がする。


 『おばば、心配してたから、ここ・・・(アオ)の王国にいる間は、ラウルと離れてよかったよね。』


メルルは自分に言い聞かせるように呟く。そのおばばが言っていた国の国王に今から会うのだ。


 『うん。』


勇生は短く返事をして、前を行く衛兵が大きな扉の前で立ち止まったのに気づき少し身体を緊張させた。


 『国王陛下、勇者殿をお連れしました!』


扉の前で衛兵が気を付けの姿勢で叫ぶと、その重そうな扉が中からゆっくりと開けられ、部屋の様子が見える。


部屋は応接間のようだった。こちらに向いたソファに深々と座るその人物が、国王ー?


勇生はその人物ーいや、その人物の膝にまたがりこちらを見ているその女性の顔を見て目を見張った。緩やかに流れた長い金髪と、碧い瞳を縁取る長い金の睫毛。大きく背中の開いた白いドレスの裾から太腿をあらわにしているその女性の顔は、ラウルと本当に、瓜二つだったのだ。


似ている。といっても、歳はもっと上に見えるが、とても”母”の年齢には見えない。


その女性を凝視する勇生の横で、メルルもまた頬を上気させその女性を見ていた。


刺激(・・)が強い。


田中(メルル)は熱くなった顔を両手で覆い、その指の隙間から女性を覗き見た。


勇生とメルルがじっと見つめるその女性の後ろから、国王らしき人物がひょい、と顔を覗かせ2人を見る。


 『おや、これはまた随分小さな勇者だな。』


国王は勇生とメルルを見るとまだ膝に乗っている女性と目を見合わせ、可笑しそうに笑う。


 『まだ”子供”じゃないか。』


今度は女性がそう呟くと高い鼻をスンスンと動かしながら、勇生とメルルの傍へと歩いてきた。その胸元からはふくよかな谷間がチラリと見えている。


 『ーん?』


スンスン。2人の前で立ち止まりまるで匂いを嗅ぐようにして女性は2人をじろじろと視る。メルルは恥ずかしそうにし、勇生は思い切り不愉快な表情を浮かべ女性を睨む。


 『フン。』


勇生と目が合うと、女性は面白くなさそうに鼻を鳴らして2人の横を通り過ぎ、黙って部屋を出た。


本当に、ラウルがいなくてよかったかもしれない。アレが母親だとしたらー。勇生はその後ろ姿をチラリと見て苦虫をかみつぶしたような顔をした。


メルルは、両手で顔を覆ったまま今度は座ったままの国王を見ている。


 『遠慮せず、こちらへ。』


想像よりも若く、得体の知れない雰囲気を(まと)った王はニコリと微笑んで、恥ずかしげも無く勇生とメルルをソファへと手招きした。


コイツが王なのか。


勇生はイメージと違う若い”国王”を前に、不信感をあらわにし伝説の剣を握りしめた。


前話修正しています。


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