41:仲間
メルルはドキドキと高揚する胸の鼓動を感じながらもう一度自分の手の平を見た。ラウルが、勇生が自分を頼ってくれているのを感じて喜びが抑えられないのだ。
―この、”僕”にこんな力があるなんて。
勇生はもう既に何度も炎の隙間に飛び込んでは、間に合わず再度挑戦を繰り返していた。もっと。もっともっと強い風がいるのだ。この業火を吹き消す程の。
メルルは深く呼吸し、また勇生に向かって合図した。勇生は何故そこで立っていられるのかわからないが、”出来るだけ近くからスタートする”といって燃える炎の目の前で合図を待っている。
誰も近づけない程の苦しい熱気の中で、汗を滴らせながら勇生がメルルに頷いた。
耐性があるとはいえ、ロビンの業火すら効かないというのか。こんな子供がどうやってそんな耐性を身に付けたんだ。ヨザは信じられないという顔でその勇生を見ている。
『出でよ!突風!!!!』
言いやすく”呪文”風にアレンジした台詞を叫び、メルルは自分の中から湧き上がって来るエネルギーを全てその頂上に突き刺さった剣へとぶつけるように解き放つ。
もっと頼られたい。もっともっと強い力が欲しい。
メルルが叫んだと同時に細い手から渦を巻くように生じた風が、爆発的にその体積を膨らませ凄まじい突風となり業火を押し除けていく。
勇生は突風によろけながらも、その後に飛び込むようにして剣まで真っ直ぐ走る。
走りながらその頭の中ではずっと”剣が抜けた場合”のことを考えていた。
『実は俺、剣って、使ったことないんだけど。』
山を登る途中、勇生が正直に打ち明けてみたところ、ヨザは心配ご無用さ。と気軽に答えた。王国には剣の師なんていくらでもいる。剣なんてもともと習うもんだろ。
ー大事なのは、剣を抜けるかどうかだ。と。
剣を習えるのであれば、もっと強くなれる。空気が熱いぐらい。煩いぐらいが何だ。
炎の中では、”何か”の声がガンガンと頭に響いた。
『お前じゃ駄目だ。お前じゃない。オマエじゃないオマエジャナイ・・・。』
勇生はその声に一言、『煩いんだよ。』と返すと無視するように炎の間を走り抜け、岩に手をかけ一気に上ると、”剣”を見下ろし、黙ってその柄を握りしめた。
ラウルが言ったのだ。『ユウキなら行けるから。』と。
そしてメルルが道を作ってくれている。あとはただ、剣を引き抜くだけだ。勇生はその周りを取り囲む瘴気に肌をジリジリと押されながら、剣を握る手に力を込めた。
足で岩を踏みしめグッと引っ張るがその剣はびくともしない。
くそ。どこの馬鹿力だこんなに深く刺しやがって。全身から汗が止まらず出てくるが、メルルの豪風が吹き続けているおかげでその汗すらも吹き飛んでいく。勇生の頭におばばの言葉がよぎった。
『魔力も武器も、使えるどうかは、お前次第さ。』
ー使ってやる。魔力でも何でも。
勇生がその手に”力”を注ぎ込むと上空に黒い雷雲が現れた。先ほどまで日が照っていたのに辺りは一気に暗くなり勇生の握った剣の刃と岩の間にバチバチと火花が走ったが、剣はまるで固い意志を持って岩に刺さっているかのようにしぶとく抜けない。
『いい加減、抜けやがれ!!!』
勇生が叫ぶと、その剣の太い刃から白い閃光が放たれた。
メルルは眩しさに目を覆いながらも必死で風を維持し、ラウルとヨザは流れ落ちる汗を拭って目の前の幻想的な光景に目を見張った。
”風”の通り道の両端に炎の壁がそびえ立ち、黒い雷雲とその炎との明暗が不思議な影を作りだしている。その間を刺すように閃光が走ったかと思うと爆音が轟き、地面に深く沈み込んだ巨岩を粉々に砕いていた。
岩が崩れると共に、徐々に炎が静まり消えていく。そこからゆっくりと、剣を引きずった勇生が息を切らしながら歩いてきた。
『わぁ・・・!!大丈夫!!?』
勇生の元にメルルとラウルが駆け寄り、ヨザは、一人よろめく足取りで岩の元へと向かった。そして崩れた地面の中から、骨となった古い”仲間”ーロビンの頭蓋骨が覗いているのを見つけると、その場で膝から崩れ落ちた。
気づけばもう40話を超えてしまいました。そろそろ次章へ・・・