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38:母ミレーヌ

 ヨザが見張りに向かって手を振ると、馬車が止まる間もなくすんなりと街の門が開いた。ヨザは有名人のようだ。勇生はヨザに向けられる笑顔を見ながら考えた。


 『通りをひたすら真っ直ぐ行けばもう北山の麓だ。素通りも面白くねえし、腹ごしらえでもしてから行くか。』


ヨザは気前も良さそうに布の財布を取り出す。


 『わあ!やったー!!』


無邪気に喜ぶラウルとメルルを見て、ヨザは照れくさそうに鼻をこすり、通りに並ぶ店の1つに入った。


王国内の城下町は、今までの集落的であった街々と違い、茶色のレンガのような石を積み重ねて出来た堅牢な建物で統一されていた。足下もしっかり整備されており、同じく茶色の石が敷き詰められている。


山へ向かう”中央通り”の両脇には様々な店が並び人間や人間に近いものー皮膚が鰐のようにゴツゴツとしているものや、体毛が異様に濃いものなどで溢れかえり賑わっていた。


その雰囲気に飲まれ3人は終始キョロキョロしていたが、しかしその様々な人々が、何故か皆ラウルを見て振り返るのだ。ー何だ?勇生はその様子に今までとは違う気持ち悪さを覚えた。メルルでもなく、もちろん勇生でもない。その視線がラウルを捉えた途端、人々は立ち止まりひそひそと話を始めた。


ーアイドル扱い、というわけでもない。


ヨザの顔見知りにいたっては、その肩を掴まえてコソコソと耳打ちするものまでいた。


 『何て言ってたの?』


そのヨザに、メルルが不安そうに尋ねる。ヨザは明らかに誤魔化そうとして宙を見ながらゴニョゴニョと呟いた。


 『うーん。あぁ、なぁに、つまらんことをいってるだけだ。』


 『気になるなぁ。』


ラウルもまた、今度ばかりは不快そうにしている。勇生は近づく人間に片っ端から苛立ちを露にして、それを見て更にヨザは困ったようにため息をつく。


 『勇者が、街の人間を睨まんどくれよ。』


 『うざいんだよ。』


勇生の反抗的な態度に、ヨザはもう一度大袈裟にため息をついて仕方がないか・・とぼやいた。そして、申し訳なさそうにしてラウルに向き直る。


 『国王の愛妾(めかけ)・・・ってわかるか?愛人のエルフにそっくりなのさ。坊や(ラウル)がな。俺もはじめて見たとき思ったが、まあエルフってのは皆こんな美人なんだと思ってたんだが・・。』


ー隠し子かい?とか何とか勝手に噂して楽しんでやがるのさあいつらは。


ヨザはわざとらしく笑い飛ばすが、周りを見ればその2人がどれだけ似ているのか想像は付く。


話を聞いたラウルの顔は少し曇り、メルルはラウルを見ておろおろとしていた。


 『・・・その、めかけ(・・・)は何て名前?』


勇生はヨザに聞いた。メルルは白い顔を青くして勇生を見るが、勝手に噂されているより、”はっきり”した方がいいと思ったのだ。


 『うぅ・・・エ、エレーヌとかいったかな?』


ヨザの出した名前に、ラウルは少し緊張を緩ませたが首を傾げた。


 『僕の母さんはミレーヌって言うんだけど・・・。』


違うけど、似てるよね。そう言うラウルの顔は晴れないが、勇生はその呟きを打ち消すように大きな声を出しラウルの肩を叩く。


 『でも違ったな!よかった。』


メルルも大袈裟に胸をなで下ろす。


 『びっくりしたけど別人だったね!!』


そう店中に聞こえるように言いながら2人は席に着いた。ヨザはそんな2人を見てまた鼻をこすり、ラウルにも座るように言ってウエイターを呼んだ。


 『よし!!俺のおごりだ!!たんと食え”勇者になる”者達よ!!』


その声に今度は周りでクスクスと笑い声が起こる。聞けば、ヨザは勇者になる者を探しては店に連れて来て、・・・例の北山に行っているらしい。


ー40年も抜けないってどんな剣だよ。勇生は半ば呆れ、長年、国に剣を返そうとしてきたというヨザに少し同情した。


 『まぁ俺の見立てでは、今回で最後だ。』


ヨザは根拠も無い自信を見せニヤリと笑った。


ラウルはまだどこか上の空で、メルルは口一杯に香ばしい鳥肉を頬張っている。


とりあえず食事もごちそうしてくれたのだ。抜く素振りくらいはして去ろう。


王国(ここ)はとりあえず早く去った方がいいような気がしてならない。勇生は残ったスープを一気に飲み干した。




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