37:王国
ヨザの手配した馬車は夜通し走り続け、気が付けば空は白み始めていた。
真っ暗だった世界に少しずつ光が差し始め、夜に支配されていた時間がまたゆっくりと流れ始める。
うつらうつらしながらもぐっすり眠れず、勇生はまた移り変わる空を1人で見上げていた。
ラウルとメルルが夜中ヨザを質問攻めしてくれたおかげであっという間に朝になったが、当の2人はいつしか眠ってしまっている。
あくまで本人談だが、ヨザはその40年前まで、当時の勇者と共に王国ー”碧の王国”に仕えていたらしい。
勇者ロビン、水の魔女ヴェナ、拳闘士ガッツと俺の4人で、バランスの取れた最高のパーティだった・・。
ヨザは嬉しそうに語り、3人は”碧の王国”の名を聞いて、今更顔を見合わせた。
『ちょっと、これまずいんじゃない?』
『・・やっぱ、行くの止めよう。』
メルルが心配そうにひそひそと囁き、勇生は止めるなら早い方が、とヨザの方を気にしながらラウルの反応をうかがった。ラウルは驚いてはいたが、馬車を降りる気は無いようだった。
『大丈夫。それに近づくななんて言われて、僕が近づかないわけないじゃん。おばばだって、わかって言ってるよ。』
ケロッとした態度でラウルは弓を撫で、呟く。ーそれに、もっと知りたいんだ。父さんや母さんのこともだし、この世界がどんな風なのかとか、父さんがいた"王国"がどんな国だったのかとかー。
勇生とメルルは弓を大事そうに抱えるラウルを見て、何も言えなくなり口をつぐんだ。
代わりに、メルルはヨザの方を向いて尋ねる。
『ヨザさん、これから行く碧の王国っていうところのこと、もう少し教えてくれないかな・・・?』
ヨザは帽子を脇に置き、片手に持った酒瓶にちびちび口を付けながら、メルルの質問に嬉しそうに目を細め、答えた。
碧の王国ってのはさ、ずうっと昔からあってよお。王様はもう4代目だが、ずうっと”碧”の一族で続いてらぁ。碧の一族ってのは、なぁに、ただのもの凄え金持ちだな。
『碧の王国って、危ないの?』
ーいや、むしろ中に居ればそこらの街より安全なんじゃねえか?"王国軍"が守ってんだから。
『・・・へえ。ねぇ、大戦って知ってる?』
ラウルはやはり父のことが気になったようだった。ヨザは遠い記憶を思い出すように、明け方の空を見つめながら答える。
ー大戦っても何度も大きな戦はあったけどな。最近じゃアレだな。外島の民との戦だ。
『ねえ、そこで戦ったバディス・・・バディースって知ってる?』
ラウルは身を乗り出して聞くが、その質問にはヨザは首を振った。
ー知らねえなあ。引退してこの40年、現場は離れてっからなぁ。
メルルとラウルはいくつも質問をしたがヨザに聞く限り、碧の王国に近づかない方がいい理由もラウルの父の行方もわからなかった。
ーおばばは、近づくなと言っていたのに。
あのおばばのことだ。何も、根拠が無いわけではないだろうけど。勇生は、徐々に近づいてその姿を現してきた巨大な外壁を、睨むように見上げる。
外壁の上には沢山の青い旗がはためいて、その権力を誇示するかのように勇生達を見下ろしていた。
短めですが一旦終わります。
前話少し修正してます。




