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29:歓迎

 ”森”に面した街では、その周辺を横行していたゴブリン達が何者か・・・に一層されたようだという噂が瞬く間に広がった。ゴブリン達は気まぐれに街へ紛れ込んでは暴力の限りを尽くして去っていく、街の脅威だった。出かけた妻や遊んでいた娘、息子を亡くした者がそこら中にいた。それが一匹残らずいなくなった?ざわめく街の人々に旅の商人は、興奮してまくし立てた。


 『こっちに来る時に”視て”もらったんだよ―場合によっちゃ、ルートを変える必要があっからな。』


商人曰く、魔物の数、その能力をかなりの正確さで”視る”ことの出来るものがいるらしい。その者に頼んで森を抜ける道を見てもらったところ、魔物モンスターの数が激減していたというのだ。その”代わり”に見えたものー。


 『わざわざ森を通ったんだ。”丘”からきた奴らだろうってよ!!どんな奴かわからんが、こっちは大助かりだ!』


ゴブリン達の消え失せた後に、複数の、”人”らしき何かがいたという。


また、街の酒場では木こり達が酒を飲みながら口々に言っていた。


 『困ったもんだよ、そこら中の木が使いもんになりゃしねえ。・・・でも、仲間の仇を討ってくれたんだと思うとよぉ。礼を言わなくちゃな・・。』


木こりの仲間内にもまた、ゴブリン達の被害者は多くいた。命からがら逃げ延びても、腕や脚を失ったものもいた。犠牲になったものの中には家族を持っていたものも多い。


その残された人達が皆、このニュースを聞いて酒を飲んでいた。


どんな奴らだろう。


人々は想像を膨らませ口々にそれを言い合った。


魔女か。兵士か。はたまた、屈強な大男か。あるいはー?


その日の夜は長く、人々は明るい話題に興奮しいつまでも酔いしれた。



----


そうとも知らず3人は、数日かけて森を抜けようやく街の目前へと辿り着いたはいいが、途方に暮れていた。3人で力を合わせ森を抜けることは出来たのだ。だがしかし。


 『おい。コレは何だよ。』


勇生がラウルに文句を言う。目の前には大きく見上げる程の門があり、その間の格子状の扉は固く閉ざされていた。門の横からは同じく高い外壁が街の周囲を囲っている。


 『森を出たことないから、知らないんだ。』


ラウルはこともなげに言うが、実際のところはどう門を突破しようか悩んでいた。”街”は、森や丘のようにブラリと入れるところだと思っていたのだ。


門から隠れるようにして、樹の後ろでこそこそと相談する3人の前で、ゆっくりと軋みながらその門が開く。


咄嗟に近くの茂みに隠れた3人は、そこから出て来た商人のような姿の一行を見て顔を見合わせた。”視た”ところ、どうやら物騒な連中ではなさそうだ。


ーちょっと、話してきて。

ーいや、その役目はお前だろ。


そんな問答をしていたラウルと勇生が不意にメルルを見る。


ーいや、無理だよ??


メルルは慌てて首を振った。話が通じるかもわからないのに。


そんなメルルの思いもよそに、ラウルは覚悟を決めたようにメルルの手を引き大袈裟に音を立て茂みから出た。


勇生は思わず一緒に出そうになったが、万が一を考え茂みで待機する。


 『こんにちは。』


ラウルはとっておきの愛想笑い、メルルは緊張のあまりガチガチに引き攣った顔でその一行の前に出た。


荷馬車に乗った商人達は突然現れた美男美女の2人組に驚いた。


ーしかも一人は、どうやらエルフじゃないか。この森にまだ居たのか、エルフが?


元々この森にエルフなど高尚な魔物はいなかったが、どこからか移り住んだと思われる、”夫婦(つがい)”のエルフが数年前まで目撃されていた。それもここ最近では見なくなったと聞いていたのだが。


驚いているところに、すかさずラウルが話をする。


 『僕たち、旅の途中で。街で休みたいんだけど、どうすればいいかな?』


ラウルはニッコリと笑いかけた。武器を出す様子も無い。大丈夫だ。


商人は、ラウルの横のメルルを見た。エルフではないが、妖精のように美しい少女だ。身に纏う物も安物ではない。


よもや、王国関係者かー?


勇生は探り合う様子を遠くから見て苛々としていた。


ー早く。”何か”がまた、近づいている。せっかくこんなところまで来ているのに。


 『街へ入るには、この通行許可ってのがいるんだがね。』


商人が仰々しい旗を見せながらまどろっこしい説明をする中、突如その上空を”巨鳥”の影が覆い、皆一様に上を見上げる。


 『ヒイイ・・・!!!』


その気配に馬車を引く馬が怯え(いなな)く。商人達は怯え慌てながらも武器を取り出す。


 『落ち着け!!弓だ!』


商人に雇われたらしき兵士が弓を出すのを横目で見ながらラウルもまた弓を引いた。


ーバシュッ。


鮮烈な光と共に的確に刺さった2本の矢にもがきながら、巨鳥はその大きな身体を地面に打ち付けた。しかし巨鳥は苦しみながらも、威嚇するようにその(くちばし)を開き、大きな羽を拡げようとしている。


ー攻撃。


その気配に馬が突然向きを変え、荷馬車が大きく傾く。御者は慌てて手綱を握ったが、暴れる馬を抑えられず咄嗟に馬にしがみつく。


勇生は何も考えず茂みから飛び出し、驚く面々の前を突っ切り巨鳥に飛び乗ると同時にその背にナイフを突き立てた。


ナイフから(ほとばし)った閃光に、その場にいる者達の驚いた顔が照らし出される。

びたりと地面に倒れ動かなくなった巨鳥の身体はナイフを差した場所からブスブスと煙を上げ始め、やがて全身を炎が包んだ頃に、御者が馬を宥めながら、尋ねた。


 『・・・あんたら、もしかして森から?』


ラウルと話していた商人はその問いかけで、尻餅を付いたまま3人を見た。3人とも若者。というにもまだ早い、子供じゃないか。


 『・・・そうか。ゴブリンは、あんた達が??』


それでも、商人は確信した。目の前でその戦いを見たのだ。間違いない。


 『え、ゴブリン?』


ラウルが聞き返したが、商人は慌てて門の管理人へ話をしに戻った。


 『ちょっと、待ってろ。』


そうしてすぐに走って帰ってきたかと思うと、3人の肩を叩き、にやりと笑って言った。


 『あんた達なら文句はない。入ってくれ。』


急展開に驚く3人の前で、管理人らしきおじさんが門の中から出て来て深々とお辞儀をして言う。



 『ようこそ。”木材の街"へ。』



どうやら3人は、見ず知らずの街に歓迎されたようだった。

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