27:行方を阻むもの
ラウルは家を出てからというもの、軽快な足取りで先頭に立ち森の木々の間を進んでいった。その歩き方に迷いは無く、成り行きはともかく道案内が出来てよかった。勇生は素直にそう思いながら後を付いて歩いた。
メルルは勇生のすぐ前、ラウルと勇生に挟まれるようにして歩きながらも、やはり周囲をキョロキョロ見回し時折立ち止まっては何かを採取したり方角を確認しているようだった。
一行は順調に進み、日がまた落ち始める頃には森も少しずつその様子を変え、ヒトの住む場所が近づいていることを知らせていた。
『ちょっと、休憩しようか。』
ラウルが振り返って言い、3人は木が伐採された跡のある開けた地で腰を下ろした。
おばばが脅す程のことはなかったな。安全な経路を選んでいるにしても、森を出るまではスムーズに進みそうだ。勇生は半分拍子抜けしていた。
メルルも同様、安心したような顔で切り株に座っている。
ラウルは一人離れたところに座り、徐々に薄暗くなっていく空をじっと見つめていた。珍しく黙っているラウルの綺麗な髪を、優しい風がそっと撫でていく。その姿はまるで絵画のようだった。
メルルはほぅ、とため息を付き、そのラウルをみている。見とれているのだ。勇生はそれに気づきながらも、そのメルルの横顔を見ていた。
ラウルとおばばの家でしばらく暮らし、メルルは少しふっくらとしたようにも見える。怪我もかなり回復したようで、白い手脚にはほとんど傷も残らず綺麗になり新しい服も似合っている。
ー綺麗だな。
その瞬間メルルと目が合ってしまい、勇生は視線を逸らしながら思った。
周りを囲む背の高い木々の間を、そよそよと風が動いていくのがわかる。気温は、暑くも無く凍える程寒くも無いのだが、森の中だからか湿度は高く空気は湿っている。
静かな森に、不穏な気配が満ち始めていた。
メルルが落ち着かないように辺りを見回したのと同時に、ラウルが何も言わず背に手を伸ばし、弓に矢を番えた。勇生はそのラウルに背を向け、ナイフを手に立ち上がった。
周囲の木に紛れるように、ざわざわ、ざわざわと何かがその数を増していく。
『ゴブリンだ。』
ラウルが口を開いた。その口調はいつになく緊張している。
・・・ゴブリン?あの?
勇生はゲームに出て来た序盤の魔物を思い出した。
『奴らは団結しない。個々に来るよ。僕は大勢相手だと弱いんだけど・・・。』
ラウルは言いながら、迷わずその弓を引き矢を放つ。パシュッ!!と鋭い音がして辺りは光りに包まれた。その光りに、ゴブリンの姿がぼんやりと映し出される。
そのゴブリン達は皆、耳までありそうな程の大きな口を開け笑っていた。
思わず恐怖を感じて勇生は後退る。
その後ろにはメルルがいる。メルルをチラッと振り返ると勇生はもう一度ナイフを握り直した。
何のためにあの”家”で過ごしたんだ。勇生は静かに呼吸を整え、気を鎮める。
ー来る。来た奴らは、倒すしかない。
その、熱を帯びた魔物の殺気を感じながら勇生は身体を動かした。