26:旅立ちの日
翌朝、朝食を済ませたメルルにおばばは服を一着手渡した。メルルが最初に着ていたワンピースはボロボロになり、その後はラウルの服を借りて着ていたのだがおばばの差しだした服は女の子用の衣装だった。
『え?』
メルルは驚いておばばを見たが、おばばは無愛想に礼はいらん。と言ってメルルに服を押し付けた。
メルルは驚きながらも嬉しそうにその服に腕を通す。それは簡素な作りではあったが、動きやすそうな白いワンピースに白いマントだった。。マントは手触りもすべすべで、保温力もありそうな毛皮で作られていた。
『その姿に似合うておる。』
おばばは目を細め、満足げに呟いた。おばばに嫌われているとばかり思っていたメルルは不思議そうにおばばを見る。おばばは、そんなメルルを見て呟いた。
『布が余っておったんじゃ。』
そしてまた、鋭い顔つきに戻ってメルルの肩を掴んだ。
『余計な口を出す気は無いが、いざというときは・・・まやかしは捨てろ。力の使い道は、誤るな。』
メルルはその手の強さに驚き、またおばばの言った言葉に驚いた。ーまやかし?
・・・つまり”僕”のこの姿が、まやかし?
動揺しているメルルを置いて、言うだけ言っておばばは次に勇生の元へと向かう。メルルは一人で自分の姿を見下ろし、怪訝な顔で呟いた。
『いやいや、僕の想像力レベルでここまでは・・・。』
勇生には荷物らしい荷物は無く、メルルがずっと持ってくれていたナイフをまた腰に下げ、ボーッと部屋の壁にもたれていたところへおばばが来た。
『あ。』
勇生が気付いた時には、おばばが真面目な顔で目の前に立っていた。
『何。』
お世話になりました。と言う程大人になれず、勇生は条件反射でムスッとしておばばに向き合った。
おばばは蹴りの一つでも繰り出すように見えたがそうはせず、じっと勇生を見つめる。真面目なおばばの顔はシンプルに恐かった。
『何だよ。』
勇生がもう一度言うと、おばばは思いの外穏やかな声で話し始めた。
『おぬしは・・・、おぬしによく似た・・・、対のような存在を巻き込んだようだ。』
ー対のような存在?
勇生の頭にはメルルがよぎるが、おばばはその考えに気付いたかのように首を振る。
『対の者は、否応なしに影響し合う腐れ縁のようなものだ。』
『だが、その”存在"に引き擦られるなよ。』
メルルは・・・?違うのだろうか。いや、そうあって欲しいわけではないが。勇生は突然恥ずかしくなり話半分でおばばを追い払った。
『わかった。大丈夫。昨日の約束も守るから。』
おばばは、まだ何か言いたそうにしながらもしぶしぶ、ラウルの部屋へ向かった。
ラウルの部屋からはしばらく2人の話し声が聞こえていたが、その話し声がようやく途切れ部屋からラウル、続いて一回り小さくなったようにも見える、元気の無いおばばが出て来た。
ラウルは背に弓矢、手には革の手袋を着け大きな鞄を斜めに下げていた。準備も整ったようだ。
鞄といえば、メルルもまた何か大量に鞄に詰め込んでいる。
余談ではあるが、ここへ来る前メルルが持っていた焼き魚は、メルルと勇生が寝ている間にラウルとおばばの食糧となったらしい。更に言えば、スープに入っていたすり身の正体はあの大蜥蜴だった。
メルルが嬉しそうに語るのを聞いたのだ。
こうして3人は、おばばと家に別れ・・・一時の、別れと礼を告げ旅に出た。
3人が歩き出した後もおばばはずっと立ったままで、メルルは最後までチラチラと後ろを気にして振り返っていたが完全にその姿が見えなくなると、覚悟を決めたように前を向いて歩き出した。
まずは森を抜け、街へ向かう。その意見は3人一致していた。
焼き魚と傷の話が・・・ようやく出せました。