25:修行の先
くる日もくる日も勇生は訓練に励み、おばばとの訓練は徐々にその有様を変えてきていた。一方的な形から、少しずつではあるが勇生の攻撃をおばばが受けることが出てきたのだ。ラウルとメルルはいつも入口付近で応援をするか、2人で仲良さそうに家事をこなしていた。
ー応援は嬉しいが、仲良くしていることが気に食わない。
そっちに気を取られている隙に、おばばの必殺回し蹴りを喰らい勇生は床に倒れ伏す。
おばばはゼェゼェと荒い息をしながら、勝ち誇ったように勇生を見下ろした。
『・・・ここまでにしといてやろう・・。』
チッと舌打ちし勇生は恨めしい顔でおばばを見る。勝ち逃げしたいだけではないか。先程は俺の突きーメルルに”電弧パンチ”と勝手な名前を付けられたー攻撃が決まったのに。そう。少しずつではあるが、”魔力”を操った攻守が出来るようになってきたのだ。
おばばはいつものようにテーブルにどかっと座り、勇生とメルルにも座るように促した。
『ラ゛ウル。お前も来い。』
食事の準備をしていたラウルも呼びつけ、自分の横に座らせる。ラウルは大人しくおばばの横に座り、おばばは3人をゆっくり見回して一つ咳払いした。
『ゴホン。お前達に話がある。』
『儂は、何を隠そう、この森にいながらも世界中の魔力を捉えることが出来る。』
いつもの自慢話かと思ったが、今日のおばばは神妙な顔をしていつもと様子が違っていた。
『良い力。悪しき力。その中でも特に悪しき力ー・・・。』
3人は黙っておばばの顔を見る。おばばはしばらく沈黙した後、苦々しい表情でこう続けた。
『狭い世界だが・・・”碧き王国”と、”碧の島”には絶対に近づくな。』
おばばは強い口調で念を押すように言った。勇生は突然の話に付いて行けずラウルの表情を盗み見た。
ーということは、修行はもう・・・?
しかしラウルは珍しく、真面目に話を聞いている。
『こやつ・・・ラウルの両親は”碧き王国の王に利用されたのだ。』
おばばは無念そうに言った。メルルは横でしんみりと話を聞いている。ラウルの両親がこの家にいないことは気付いていたが、利用されたとは穏やかでない。勇生は黙っておばばをまた見る。おばばは話しながら下を向き、語尾を小さく震わせながら続けた。
『その2つだけでいい。近づかないと誓ってくれ。この儂の頼みだ・・・。』
おばばは唇を噛み締めるようにして呟く。ラウルはじっと黙ってそれを聞いている。横を見るとメルルもその大きな瞳に涙を溜めておばばを見ていた。勇生は気まずくなり言葉を探した。
『わかったよ。』
勇生が曖昧な調子で答えると、おばばは勇生をキッと睨んだ。
『わかっておらん!!!おぬし達が万が一世界を去る時は、必ずラ゛ウル゛を生きてココに戻せ!!!』
勇生は辟易した顔で頷いた。どうやら、ラウルとこの先、旅をするという話らしい。そんな要望はしていないし怒られ役を買った覚えは無いのだが。
しかし数秒後、おばばの台詞をもう一度思い出し戸惑った顔で聞き返した。
『世界を去るって・・・?』
おばばはまた大袈裟なため息をつきながら、メルルと勇生を見据えて言った。
『始まりの丘には、おぬし達の世界との接点がある。』
『接点・・・?』
今度はメルルが驚いたように顔を上げておばばを見る。
『世界は”接点”でのみ接しておる。しかし世界を渡れる者はーごく少数じゃ。』
おばばはその、何十年にも渡って見て来たという世界の接点という場所について語った。そこは初めて勇生とメルルが出会った丘の頂上。世界を渡るものはそれが自分の意思であろうとなかろうと、その最中に、エネルギーの代償を支払う。そしてエネルギー不足で命を落とす者、姿を無くす者。魂のみ無くす者が数え切れない程いるという。
その”声”が最初に聞いたアレだったのだ。
勇生は思い出しゾッとした。
おばばは、戻りたければ”そう”なることを覚悟しろー。そう言った後更に、先程の2か所に近づかないという約束をもう一度確かに念押しして話を終えた。
ラウルと勇生、メルルはおばばの話を胸にしまいながら、翌日”家”を出るためそれぞれの身支度をして眠った。
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