23:応援
勇生はその日も、変わらずおばばと悪戦苦闘していた。もうその内容はほとんど体力トレーニングと言って差し支えない。右へ左へ移動するおばばを追い、何とか捕まえようとするがあと少しで手が届かない。触れたと思っても払われ次の瞬間にはまた遠くへ移動している。肩で息をする勇生に向かっておばばは呆れたように言った。
『いつまで”目”や”耳”で追っておる。おぬしは魔力の持ち腐れじゃな。』
好きに言いやがって。勇生はムッとしたが、こんなに年老いたおばばに歯が立たないとは思わなかった。悔しいが、何か・・・一矢報いるには、”何か”が足りないのだ。そこへ、ラウルがそっとドアを開けて入ってきた。そのラウルの後ろからちょこっと顔を覗かせた人物を見て思わず勇生は声を上げる。
『メルル!!』
ラウルがニコニコ・・・いや、ニヤニヤとしてメルルを招き入れ、メルルが恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
『目が覚めたんだ!』
勇生がメルルに駆け寄ると、おばばが遠くで舌打ちするのが聞こえた。メルルは少し戸惑った顔をしながらも勇生に笑いかけた。
『へへ。』
上手く笑えたかわからないが、嬉しそうな勇生が目の前にいる。これはやはりあの世なのだろうか?メルルは考えラウルと勇生、そしておばばを見てみる。・・・現実感は無いが、皆が自分を見ている。
『ワタシ、生きてるよね?』
誰にともなくそう聞くと、ラウルがメルルの手を握りニッコリと微笑んだ。綺麗な前髪がさらりと落ちて、破壊力満点だ。まともに彼の笑顔を見てメルルはまた倒れそうになった。・・・彼が想像の産物でないことを祈る。そんなメルルを見て勇生が心配そうに言う。
『あの・・・休んでた方が。』
その言葉にメルルは慌てて首を振った。ラウルもその手を持ったまま勇生に向き直り、真剣な顔で言う。
『このままだと埒が明かないよ。メルルは・・・病み上がりだから練習は無理だけど、今から”応援有”でやってもらおうと思って。』
何をそんなに急ぐのか。そう考えるよりもただムッとして勇生は押し黙った。おばばにいろいろ言われるよりも、腹が立つ。しかもメルルの目の前で。その手をまず離せ。
しかしメルルは勇生の苛立ちに気づく様子も無く、少し熱を帯びたような潤んだ瞳で勇生を見る。
『ワタシに出来ることあるならやりたい。邪魔はしないから。』
メルルはラウルに連れて来られるときに、頼まれていた。ー勇生がおばばの訓練を受けるのを手伝ってほしいと。その訓練が終われば、3人でこの世界を知る、旅に出られるのだとー。
そんなこととはつゆ知らず勇生は複雑な表情を浮かべていたが、一刻も早くこの訓練を修了したいという気持ちはある。強くなるための何か、それが掴める可能性があるなら”応援有”を呑むしかなかった。
『ごめん・・・じゃあソコから見てるだけでいいから・・・もし何かわかったら、教えて。』
勇生は絞り出すように言うと、おばばに向き直った。メルルはこくこくと頷き、おばばは遠くでぼやく。
『儂はそんな条件呑んでおらんぞ。』
ラウルはそんなおばばを笑顔で促す。
『みんなでやる方が楽しいよ。あ、僕もアドバイスするからね。おばばもその方がやりがいあるでしょ?』
ーそうして、3対1での大訓練が始まった。