2:僕の人生
自分が産まれた時、姉は高校受験の真っ只中だった。歳の離れた弟が出来ると聞いて、当初は喜んでいたと父が言っていたことがある。母は42歳で僕を産んだ。母の頑張り、父の支えにより僕は無事この世に産まれて、母と姉の、そして父の生活は一変した。
例えば我が家の朝食は、セルフスタイルである。炊飯器にはごはんが用意され、ストックのカゴから適当なインスタントスープを取り、お湯を注ぐ。時には卵かけ、時には冷凍食品をレンジであたためる。家族がテーブルに揃うことはなく、いつも1人で食べている。父は単身赴任で10年以上おらず、母は朝は起きてこない。そんな家族どこにでもある。そして27歳になる姉は‥‥
2階から大きな物音がした。勇生はちらりと上を見上げて、首をすくめる。また、だ。癇癪を起こして何かを床に投げつけている。勇生はそそくさと朝食を済ませ、洗い物を片付けた。
父もそうだが姉の姿も何年も見ていない。姉も自分を避けているし、自分も姉を避けている。物心付いた頃から、姉は自分を嫌い、呪っているので合わない方が楽だった。
『お姉ちゃん。』
まだ小さな頃、姉を呼ぶと、恐い顔で振り向いた姉はこう言った。
『お前のせいで私の人生がこんな風になった。2度と呼ぶな。顔を見せるな。』
姉は自分の夜泣きに邪魔をされ、高校受験に失敗した。不本意に通い始めた高校では不登校になり、結局中退し部屋に閉じ籠った。家では母に当たり散らし、母もまたあまり出歩かないようになった。
家では母も姉も、息を潜めて僕を呪っている。
僕が、なんのために生きているのかは誰にもわからない。このロープは僕のためのものかもしれない。勇生は物置から取り出したロープを鞄に詰め、靴を履いた。
この世界は残酷で、全ての命に価値なんて与えてくれない。生きていて幸せなんて思ったことは無い。みんな苦しめばいい。そう思うしか逃げ場が、なかった。
項垂れるように靴を履いた勇生は、暗い目をしたまま、道行く人に溶け込むように学校へ向かった。