18:メルルの力
ラウルと勇生が息を切らし駆け付けると、そこには静まりかえった泉と、その手前に、大きくすり鉢状に抉られた地面があった。そのすり鉢の底、中央に、小さく小さく、丸くうずくまったメルルらしき人の姿が見える。
『メルル・・・っ!!!!』
勇生が駆け寄るその背後で、ラウルはふと立ち止まり腕を組んで2人の様子をみている。
『やっぱりまだいるな。泉の精には勝てないか。そうだよね、でも・・・。』
遭遇した上で身を守ることが出来たのなら、それはなかなかの戦力じゃないか。属性はわからなかったが・・・あの水の柱。
あれは、メルルの力だろうか。それとも泉の精の・・・??
わからない。でもどちらにしても、この先見てみればいい。
ーどうやら死んでいない。それが何より。
『よかった。』
ラウルは微笑んだ。
その目線の先では勇生がメルルを抱え起こしていた。
『メルル・・・!!メルル!!!!』
ぐったりとしたメルルに、何度も呼びかける。
勇生の声に微かに反応したメルルは、自分を覗き込むその顔を見て目を見開く。
『あれ・・・大丈夫なの??』
ーそうだ。自分もさっきまで倒れていたんだ。勇生は思いだし、
『いや、まあ。うん。メ、メルルは・・・。』
そう言いかけてその続きを言い淀んだ。メルルは大丈夫、と言うにはあまりにもボロボロだった。
服が破れ皮膚が裂け、抉れた箇所から骨が見える。その綺麗な顔すら傷だらけで痛々しく、抱えた勇生の腕にはメルルの血が染みていく。その身体からは力が抜け落ち、ずっしりと勇生の腕に重みがのしかかる。
『よく、無事だったね。』
そのぼろぼろのメルルが勇生を見て笑った。
『ああ・・・。』
見ていられず、勇生は目を伏せた。随分前のことのようだが、大蜥蜴の目の前で、メルルの声に従い地面にナイフを突き立てたことを思い出す。
『メルルのおかげだ。』
勇生は呟いた。メルルはそれを聞いて、また薄らと瞼を開く。
『あと、あいつの。』
メルルは力無く目を閉じる。勇生は同級生の、田中の言葉を思い出していた。
『雷ポーズ。』
ナイフから電撃が出ていることには気付いていた。だから咄嗟にあの瞬間、勇生は両踵を付け地面にナイフを突き立てたのだ。
メルルは驚いたようにパッと大きく目を開け勇生を見たが、そのまま少し微笑むと静かに目を閉じた。メルルを抱える勇生の肩を、いつの間にか背後に立っていたラウルが叩き、代わるよ。と言った。
『代わらない。』
勇生はメルルを抱えたまま立ち上がり、真っ直ぐラウルを睨む。
ラウルはそっか。ごめん。と慌てて手を離し、持っていた鞄から包帯のような布を取り出した。
『でもまず出血を止めないと。』
2人はその場にメルルを寝かせ出血の多い腕の付け根を布で縛った。それからラウルは短く呪文を唱えてメルルを担ぎ上げる。
勇生はラウルから目を離さずにその手元を見ていたが、どうやら助けるつもりでいることを見て取ると黙って後を付いて歩いた。
信用出来ない。でも今は、まずメルルが回復することが重要だ。
ラウルの目的はわからなかったが、今は他に頼るところもないのだ。
3人はまた樹の中の家・・・外から見ると、出て来たドアは垂れた蔦に隠れ、全く入り口がわからないようになっていた。・・・そのドアをくぐり老婆の待つ部屋へと戻った。
すみません。投稿時間を変えてみています。(アクセス数が伸びたりしないかなーと淡く期待)