17:守る者
メルルは小さな泉ー・・・雰囲気的には沼と呼んだ方が良さそうな場所にいた。数分前までいたラウルはもういない。ここまでの道を案内してくれたラウルは泉が見えたところで立ち止まり、申し訳なさそうな顔をしながら袋から枯れ草のようなものを取り出し、メルルに見せた。
『僕がココに入ると、おばばが怒るんだ。』
『この先にこんな草が沢山生えてるから、それを採ってこれるといいんだけど。』
メルルは緊張しながらもその草を受け取った。ラウルはここに来るまで、ずっと辺りを警戒しながら歩いていた。それはきっと魔物の存在を意味するに違いない。彼がそれをはっきり口にしない理由はわからないが、問い詰めてもしょうがないではないか。
ー無料の善意なんて、どこにもない。
それでも、危険度は低い人物だと、自分の勘が言っている。メルルは不安を見せないように、自分自身を騙すように黙って手の中の草を見つめた。
その草はヨモギのように広がる形状で、葉の裏は白くザラザラとしており、手に付くと独特な香りがした。
『ありがとう。わかった。』
メルルがそっと薬草を返すとラウルはまた眉を下げ、メルルを見る。
『僕、一旦戻らなくちゃ。また近くまで迎えに来るから。』
メルルは何も言わず、頷いた。本当は不安で仕方なかったが、ラウルがそう言うのならしょうがない。行かないでなどと、甘えることは出来ない。
『じゃあ、また。』
ラウルが去った方をチラリと確認し、メルルは泉に向き直った。
ー大丈夫。やるしかないのだ。
深呼吸して、直ぐ作業に取りかかる。昔から探索は得意だ。幸い、嗅覚の調子も良くその独特な匂いですぐに群生を見つけられた。
メルルはその草の中に躊躇なく座り、丁寧にその葉を摘んではラウルが貸してくれた布袋に詰めていく。どれくらいあればいいのかわからないが、とりあえずこの袋を一杯にして帰ろう。そうだ。こっそり自分達用に採っておいてもいいかもしれない。
夢中になって薬草を摘んでいたメルルは、突如張りつめた不穏な空気にパッと顔を上げた。
その気配の元は泉の中心から静かに湧き出ているようで・・・後退りながらも、メルルは泉から目を離せない。
目の前で、今まさに、泉の中央が盛り上がり見る見る人の形を取っていくところだった。水のような液状のそれは小さな子供のようになり、女性のようになり、男性のような形になったところで動きが止まった。
『ひぇ。』
小さく悲鳴を上げたメルルは、腰が抜けたのか身体に上手く力が入らず、立ち上がれないことに気づいた。震えながら手に持った薬草袋をギュッと握りしめたメルルに、泉の魔物が問う。その声は水の中のように篭もって聞こえづらいが言っていることは解った。
『ワタシのイズミから・・・奪ったのカァ?』
メルルは震えながら魔物を見つめるが、何も答えない。奪ったのだ。ここに生えていた草を。
『ワタシのイズミを・・・侵したのカァ!』
魔物は大きく口を開け凄むような声を出す。メルルは少しずつ後退りながらも、答えない。侵入しているのだ。間違いなく。汗と動悸が止まらない。動く度、草の匂いがやたらと纏わり付く。
魔物は暗く窪んだ目を見開きそのメルルの姿をしっかりと捉え、怒りを押さえ切れないように咆哮した。
『ワタシの、イズミ二イイィィイ!!!!!!』
咆哮と同時にその体から、何本もの細い水の筋が伸びメルルに向かって突き刺さる。
痛い!!!!!!
メルルはその痛みに倒れ伏した。あまりにも鋭い痛みに息すら出来ない。
痛い。痛い。痛い。
腕が。肩が。脚が。銃で撃たれるというのがこんな感じだろうか。圧倒的な威力でその水の鞭が身体を穿つ。
メルルはその場から一歩も動けず、ただじっと両腕で身体を抱え丸くなる。
止まない攻撃の中、ひたすらいつも考えることを田中は考えた。
僕は死なない。出来るだけ丸くなるんだ。内蔵を守れれば大丈夫。僕は死ねない。死にたくない。こんな理不尽な力で。こんな虫けらのように死にたくない。
ーそうだ。死にたくなんか、ない。
突如、森の中に太い水柱が巻き上がった。
ラウルと勇生は家のドアを出たところでその水柱を見上げ、顔を引きつらせながら森の中を走った。ー無事でいてくれ。そう思いながら。
前書いたようにタイトル変更させてもらいましたm(__)m
ちょっとポップに・・・どうでしょうか?なったかな。なってるといいのですが。