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162:時空の旅人(ヴォイド)10


『お願い、聞いてよ。』


殺気立つヴォイドの眼を真っ直ぐに見据えて、少女(メルル)は慎重に言葉を続けた。


『元の世界に、戻して欲しいヒトがいるから。』


勇生はメルルの片腕を掴んだまま、その言葉を聞いていた。しかし言葉は聞こえたものの、その意味がわからず、頭は混乱している。


戻して欲しい人(・・・・・・・)がいる?


・・・”俺”は違う。


メルルの意図が掴めず勇生(ユウキ)はその横顔を覗き込んだが、メルルの毅然とした表情を見てドキ、として口をつぐんだ。


”せっかくここまで一緒に来たんだから”


そうしていると突然先刻(さっき)のメルルの言葉が脳内に甦り、今度は顔から大量の汗が吹き出す。


ーそうだ。そう言っていたはずなのに。メルルはどういうつもりなんだ?”戻して欲しい人”って誰。


瞬時にまた不安に襲われ、勇生(ユウキ)はもう一度メルルの表情を窺う。何かを決意したように見えるその表情の意味を探りながら、ついいつもの癖で、その長い睫毛から、鼻筋、そして小さな唇へと、見事な輪郭を目で辿ってしまい、勇生(ユウキ)は密かに考えた。


・・メルルは見れば見る程、住む世界の違う人に見える。例えばラウル(エルフ)のそれに近いというか。近い距離にいると忘れそうになるが、”同じ世界”に居たとは思えない程、間違いなく、自分の知っている誰よりも、可愛いのだ。


ー隣にいるこの瞬間が、ずっと、続けばいいのに。


そんな現実逃避も束の間、次にメルルが口にした言葉は難解過ぎて、勇生(ユウキ)の思考は再び混乱せざるを得なかった。


『”戻したいヒト”がまた、説明しにくいんだけど・・・。』

メルルは少し口ごもりながら、こう言った。

『でも、あの、(ユウキ)でもワタシでもなくて、ワタシの中にいるもう一人(・・・・)を、元の世界へ戻してほしい。』


メルルは、ヴォイドにそう言った。


『え?』


勇生(ユウキ)は思わず聞き返しながら周りの反応を見たが、おばばもラウルも驚いた様子は無い。


『フゥム・・・。』


ヴォイドもまた、鼻からため息のようなものを漏らしながらも、問い返したのは別の点だった。


『・・それで、我の従者となるのは。』


『それは・・・。』


『え、どういうこと?』


勇生(ユウキ)は一人狼狽(うろた)えて質問するが、メルルはそんな勇生(ユウキ)の顔をチラリと見ると、クス、と微笑み、吹っ切れたように明るい表情でヴォイドに告げた。



『それは、”2人”で。』



ヴォイドはメルルの言葉を聞くと、片方の眼を大きく持ち上げ驚いたような表情を作りながら、もう一度、ゆっくりと問う。


『ふむ・・・。2人(・・)とは。』


メルルは頬を上気させながら、はっきりとヴォイドに答えた。


『えっと、だから、ワタシと、(ユウキ)で。』


ーワタシと、”(ユウキ)”。


『・・・フゥム・・。』


メルルの答えを聞いた勇生の心臓は跳ね上がり、動悸が鳴り止まない。その間ヴォイドはまた黙り込み、メルルが、少し緊張した顔で勇生の方をゆっくりと振り返る。


『・・・・。』


2人は、黙って見つめ合うしかなかった。


ーえ、いいの?


勇生の口からは何度かその質問が出かかっていたが、結局言えずにいた。


それを言ってしまって、”やっぱり、止めた”、なんてことにはならないと思うけど。


ーメルルに限って。


ーいや、でも、本当にいいの?


勇生の瞳がまた揺れているのを見ながら、田中(メルル)もまた、一気に動悸がし始めて胸を押さえた。


ーマズイな。


あの、気まぐれな雰囲気の魔物(ヴォイド)がすんなり受け入れてくれるといいんだけど。そんなに上手く行くかわからない。


ーしかも先程からの動悸は、中にいる(・・・・)女王(クイーン)が反抗しているのだと思う。多分。女王(クイーン)はメルルの勝手な決断に怒っている。


ー怖いな。


田中(メルル)は、脚が小刻みに震えだしたのに気付いた。


ーやっぱり、怖い。


いつも、そうだ。自問してばかりで、必死で答えを探すけど、出した答えすら不安で仕方がない。何故なら”僕”は、間違ってばかりだから。


ーガタガタと震える膝を黙って見つめていると、ぶつぶつと呟く声が聞こえてメルルはハッと顔を上げた。


『いや、勝てるわけ・・何なら、どうやって・・・。』



メルルがじっと見ているのに気付くと勇生は焦ったように口を閉じたが、まだ沈黙を続けるヴォイドを横目で見ると、観念したように小さく口元を動かした。


ーに、げ、る?


ーいや、無理でしょ、多分。


メルルは驚いた顔で首を横に振る。どこにもそんな余力は無い。逃げても女王(クイーン)が残る限り、状況は悪化するのだ。どうにもならない。

すると勇生は早口で、思わぬことを言った。


『ありがとう。』


『え?』


田中(メルル)は驚いて思わず声を上げ、慌てて手の平で口を塞いだ。


ー何、何のお礼?何で今?


勇生(ユウキ)は、今の気持ちをどう言っていいか悩んだ挙げ句、また黙り込んだ。


ー”2人で”という言葉が、ただ嬉しかったのだ。


そして混乱するメルルの頭上から、不意にずっしりと重い声が響いた。



『・・重いだろうな。』




驚く勇生(ユウキ)とメルルが顔を上げると、いつの間にかヴォイドが首を持ち上げ、眼を細めてじっと2人を見ていた。





ーーー


更新遅くなりました、そして半端なところですが一旦投稿。

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