146:vs碧の国王ブルーセス4
ブルーセスがどこにいるのかようやく捉えたと思ったが、同時に突然息が吸えなくなった。勇生は驚いた表情のまま、宙に手を伸ばした。
『ッガッ!!!!』
苦しい。声も出せない。誰かに首を締められているのだ。しかしその姿は無い。勇生は手で宙をかきながら、静かにその場に崩れ落ちた。
ーーー
ーいいから、今は落ち着いて!こんなことしてる場合じゃないから!!!
一方メルルは、女王を必死に宥めていた。女王は国王に強い恨みがあるらしい。それだけはしっかりわかった。先程から何度も攻撃に失敗しているのに、女王は一向にメルルの話を聞かない。憎しみに囚われているんだ。・・・・同じやり方を繰り返しても、上手くいきっこないのに。
今ブルーセスは、女王でなく勇生に意識を向けている。
ー勇生が危ない。
メルルは急いで勇生の気配を辿る。女王の視界からは消えたが勇生の気配は、かろうじてまだ残っている。上方に移動し”風”を逃れたようだ。恐らく目の前に突然生えたあの大樹の上だ。あれはおばばの技だろうか?
ーでも狙われている。危険だ。
メルルは焦りながらも更に周囲を探った。”身体”を女王に奪われたようなこんな状態だけど、みすみす勇生が殺られるのを見ているわけには行かない。何とか手段を探して、女王に協力させるんだ。
ーねえ、聞いてる?ていうか、ずっと、”僕”のこと無視してる?
メルルは慎重に女王に話しかけ続けるが、女王はすっかり自分の世界に入ったように、ブツブツと独り言を呟いている。
ー本当に、もう。コレで勇生が死んだら、ほとんどアナタのせいだからね。
メルルは苛々としながら、女王に向かって言葉を畳み掛けるが、女王は変わらず返事をしない。何を呟いているかもわからない。完全に今の状況から逃げているのだ。メルルの身体を”乗っ取っている”のは自分の方なのに。メルルはとうとう、怒ったように声を荒げて叫んだ。
ー”僕”、勇生が死んだらアンタのこと、絶対、一生呪うからね!!!!!
メルルの大声に、ハッとしたように桜良は頭を上げた。
『・・何だ?』
五月蠅いと思ったらまたあの女か。いろいろと警告してくるが、どうしてもブルーセスを見ると、殺したい衝動が止められないのだ。先程だってそうだ。桜良は憔悴したように、呟いた。
『どうしろって、いうんだよ。』
先程、勇生が現れたのに気付いた時には、桜良はもう魔力を放っていた。殺したかったのはアイツじゃないのに。何故こうも、弟とは上手く行かないのだろう。
『飛び出てきたのは、アイツじゃないか。』
勇生は部屋の向こうにいたはずなのに、突然現れたせいで”標的”となった。桜良は”加害者”にさせられたのだ。
ーえ、本気?
思わず呟いた言葉に、頭の中でメルルが驚いたように聞き返した。
ー驚くだろうね。そりゃそうだ。私はアンタよりよほど腐ってる。桜良は口の片端を上げて卑屈な笑みを浮かべる。
『でもアンタ、知らないだろ。』
桜良は、記憶の中の美少女・・・純粋そうな”声”の美少女を思い出しながら、低く沈んだ声で呟いた。
『勇生だって同じ悪人だ。』
ーいや、だけどずっと一緒に戦ってきた・・・
『知らないだろ。』
メルルが庇う言葉をキツイ口調で打ち消し、桜良はある事件について語った。
『勇生は、他人のことなんてどうとも思ってない。人を痛ぶっても何とも思わない。だから兵士にだってなれたんだろ。』
身体の中で、また一つ、心臓が跳ねる。桜良が一言話す度に、その拍動は強く、激しくなっていく。
『勇生は、ここに来る前、同級生を虐め殺したんだ。全然、アンタが思ってるようなやつじゃない。』
ー被害者の”彼”が死んだかどうか、その先は実は桜良は知らない。
でも、充分。メルルの心臓は鳴り止まず、声はぴたりと止んだ。
桜良はチクリと胸が痛むのを感じたが、これでいいのだと自分に言い聞かせた。
ーえ、その話ってさ・・・。
数秒後にメルルが発した言葉に、逆に驚かされることになるとは知らずに。
ーやっぱり、アナタもあっちの世界の・・・?




