144:vs碧の国王ブルーセス2
『まだ混乱しているか。』
問うように言葉を発した後、不意にブルーセスが1歩踏み出し桜良は全身に緊張を漲らせながらゆっくりと後退った。
ー逃げることは出来るんだ。
頭の中ではメルルが何事か呟いているが、もはや桜良の思考は目の前のブルーセスのことで一杯になっている。
『新しい身体はどうだ?・・・”女王”。』
ブルーセスがその名を呼んだ途端、桜良はぴたりと動きを止め、頭の中ではメルルが驚いて声を上げた。
ーえ・・・?女王って言った?今!?
女王といえば、あの、碧の島で戦った物凄く怖いヒトだ。田中が加えた一撃で、隊に取り押さえられその後はずっと”地下牢”にいた。
ーあなたが、そっか。・・・女王だったんだ。
メルルは納得したように何度も呟く。何となくだが、記憶の中の人物像とも一致する気がする。何より身体に渦巻く憎悪ー”毒”の量からして間違いなさそうだ。
『許さない。絶対、絶対、絶対、絶対に許さない・・・。』
桜良はブツブツとブルーセスを見て呟いている。
ブルーセスは余裕の表情を崩さず、1歩1歩、もうすぐそこまで歩いて来て桜良のことを見透かすように、囁きかける。
『魔力も充分。器も良い。』
『君は今日から、”最強”の奴隷だ。』
その一言で、桜良の怒りが急に沸騰したのを感じてメルルは慌てて叫んだ。
『駄目、駄目ってば!』
ー攻撃は効かないんだって、|さっきも言ったばかりなのに!!!
効かないだけではない。どうやら標的が強制的に変わるのだ。今のメルルは、”国王の敵”にしか攻撃が出来ない。
そういうことじゃないかとメルルが説明した時も”女王”は一言、『あり得ない。』と呟いて以降全くメルルの声を聞こうとしなかった。信じたくなかったのだろうか?少しくらい聞いてくれてもいいのに。
『棘風』
メルルの制止も無視して桜良はありったけの憎悪を込めて目の前のブルーセスを狙った。
効かなくても良い。何もせずにはいられないのだ。
突き出した両手の周りから湧き出た竜巻は、周りの瓦礫を粉砕し巻き上げ、暴力の渦となりブルーセスに向かって突き進む。
ーもう、全然聞いてくれないじゃん!
メルルは怒りながら桜良の視界の隅を覗き見るようにして、そこに勇生の姿を見つけ悲鳴を上げた。
ーさっきまで、”向こう端”にいたのに!!
勇生は、おばばに渡された黒胡麻を握りしめ電光石火を駆使して何とかメルルのいる方、・・・おばばと暗黒穴を挟むようにして反対の位置まで辿り着いていた。
辿り着いたはいいものの、予測不能な暗黒穴からの攻撃を避けるのに大量の魔力を消費してしまった。
『ここで、いいのか・・・?』
勇生は、自問するように呟きながら、手の平をゆっくりと開き黒い粒がまだそこにあるのを見てほっとしたようにため息を付く。
ー大丈夫。無くしてない。
その背後で、突如誰かの魔力が膨れ上がったのを感じて勇生は振り向いた。




