14:少年エルフ
突然現れた少年は、とても美しい姿をしていた。年の頃はメルルより少し下だろうか。きらきらと反射する白銀の短髪に白い肌。メルルのものより少し濃い緑の瞳。人間離れした先端の尖った耳。通った鼻筋に微笑む唇。
一瞬、状況を忘れメルルはまじまじと少年を見る。こんな美少年、今までに合ったことが無い。人間・・妖精??その姿はまるで、物語に出てくるエルフのようだった。
その美少年がメルルに親しげに話しかける。
『お兄さん、強いね。』
『え??お兄さん?』
田中は自分のことかと思い慌てて聞き返したが、少年は下の勇生を指差した。
メルルはそれでハッと我に返り、崖下を見る。まだ誰も起き上がる気配が無い。急いで下に降りようとしたが足下が滑り、結局、樹の根にぶら下がるようにしながら不恰好に飛び降りることになった。その後を少年が軽い身のこなしで付いてくる。
『でも、こんなバカみたいに力を使ってたらこの”森”では、持たないよ。』
少年が後ろから話しかけるがメルルは無視して勇生の元に走り、屈んでその胸を触る。微かだか呼吸が確認出来た。
『よかった。生きてる。』
不気味な大蜥蜴がお互い重なるように倒れ死んでいる中、勇生はかろうじて生きていた。
メルルはホッと胸をなで下ろす。その様子を横目で見ながら少年は小さく何か唱えると、メルルの前にしゃがみ込み、勇生の体を背負うようにして立ち上がった。
『ウチで休ませてあげる。』
メルルが驚き少年を見ると、少年はまた、見惚れる程美しい微笑みを浮かべて言った。
『僕の名はラウル。ウチにおいでよ。おばばなら力の使い方も教えてくれる。タダではないけどね。』
突然現れた少年を信用してよいものか、メルルは一瞬迷ったがここで断ることも出来なかった。勇生は既に少年の背中で、意識も無くグッタリとしている。
少年は不思議な程軽々と勇生を背負い、メルルに付いて来るように指示してさっさと歩き出した。
『ま、待って。』
メルルは地面に突き刺さっていたナイフを抜き、急いでその後を追った。少年は怪しかったが、その美しい風貌のせいか危険な気配はしなかった。それに勇生の具合も気になる。
‥もしかすると治療してくれるのだろうか。
少年の、その涼しげな銀色の髪と勇生の力の抜けた背中を見ながらメルルは必死で後を付いていった。沢を少し登ったところからまた森に入り、少年はどんどん奥へ進んでいく。メルルは位置を見失わないようにキョロキョロしながら進んだが、しばらく行ったところで急に方向がわからなくなり諦めた。
『魔物除けの結界を張ってるんだ。』
少年は、チラリと振り向いて言った。
『結界??』
メルルが聞くと少年は頷く。
『父さんと母さんが張った結界だ。』
そうか、家族がいるのか。田中はふと家族のことを思い出ししんみりとした。
家の皆はどうしてるだろう。食い扶持が減ったと、助かったと言っているだろうか。僕がいきなりこうなったことを知ったら何て言うだろう。僕が消えたと心配しているかもしれない。‥せめて、心配しないでと言えたらいいのに。
黙り込んだメルルを見て少年はその先を言うのをやめた。代わりにニッコリ笑って前を指差す。
『今は、おばばと2人で暮らしてる。』
その指の先では細い木々が何本も寄り添い、絡み合い壁のようになって空へと高く伸びていた。見上げるメルルの前でその一カ所に小さく隙間が開き、絡まりがほどけるように徐々に穴が大きくなり、その奥から何かがグイと頭を付きだしたと思ったらあっという間にそこには1人の老婆が立っていた。
『こりゃ。ラ゛ウル。誰を連れて来た。』
メルルは驚いた顔でその人物を見る。
その、まさにおばばと呼ばれるのがしっくりと来る小さなお婆ちゃんー‥皮のマントに身を包み、背を丸め杖を付いて出てきたそのおばばは、オ゛ホン、と咳き込みながら少年の背中に向かって杖を差し向けた。
『なんじゃその。小僧は。』
少年はニコニコとして何も言わない。おばばは続けて後ろのメルルに気付き、嫌な顔をした。
『なんじゃ。その、娘は。』
メルルは老婆のその醜いものでも見るかのような表情に怯えた。合ったばかりで何故そんな顔をされるのか。”僕”は生まれ変わっても気色悪いのだろうか。
『お客様だよ。強いんだ、彼。彼女は彼の仲間。』
ラウルが少し慌てておばばとメルルの間に入る。
『かなり消耗してる。休ませてあげて。』
おばばは、勇生とメルルをジロジロと見た後ラウルのことを1度睨み、ため息を付いた。
『・・入れ。』
短くそういうと、先程までより少し大きく樹の隙間が開いた。その隙間へ滑り込むようにおばばが入り、続いて少年と勇生、メルルが入る。少し進むと後ろで隙間が閉じて行くのがわかり不安げに振り返るメルルを見て、少年が心配しなくて大丈夫。と耳元で囁く。
メルルは不必要にドキドキしながらその樹の中を進んだ。
樹の通路を抜けるとそこはいきなり、大きなリビングのような部屋になっていた。
少し中途半端ですが一旦ここで終わります‥!!