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134:母と息子

 

 『・・・お前。』


 口をポカンと開けて、エレーヌがラウルをまじまじと見ている。


面食らったようなヨザの隣で、当のラウルはしらっとした顔で首を(すく)めて立っていた。


 『これはこれは。随分と似ている(・・・・)な。』


ブルーセスもようやく気付いたようにエレーヌとラウルを見比べ、呟いた。


 『お前、一体どうした?』


エレーヌが一歩前に踏み出し、目を見開いたまま迫力の形相でラウルに問い掛けるが、ラウルはまるで他人のような顔でエレーヌを見ている。


 『誰かわからないけど、僕には構わないでよ。』


ラウルの発言にヨザもまた驚いて、ラウルを見る。普段の様子とはまるで違う。”父”のことがあり落ち込んでいるとしても、アレはどうみても母親ではないか。せっかくの再会ではないか。・・・まぁ、如何せん衣装やシチュエーション全てが良ろしくないのはわかるが。



 『坊や(ラウル)。』


ヨザが恐る恐る呼びかけ、その名にエレーヌがはっきりと反応したのを見て勇生もまた気付いた。


やっぱり、この女がラウルの母親だったのか。


・・・つまり、あのバディス(・・・・)の奥さん。想像するとバディスの強烈に改造された姿が脳裏に蘇り、勇生は振り払うように頭を振った。関係の無い自分でさえゾッとするのだ。ラウルにとっては、きっと想像を絶するショックだったに違いない。

そこに来てこの母親の愛人ぷりだ。苛立つどころか嫌悪感が湧いてもおかしくない。




 『用件があるのは君か?此度の戦いの報告では?』


ブルーセスの声にハッとして勇生が顔を上げると、柔らかい物腰でラウルが丁寧に頭を下げた。


 『いえ、僕ではありません。ユウキ。』


ラウルに促され、勇生は国王の足下を見ながら考えていた通りの台詞を口にした。


 『外島との戦いでは、多くの仲間が死にました。仲間も、敵も。』


 『・・・戦いには、かろうじて勝利しましたが、今回の犠牲は大き過ぎます。国にとっても、・・・・僕にとっても。』


 『ふむ。難儀な戦いであったと聞いた。』


難儀なんてものじゃない。国王など、所詮(しょせん)戦いの場に出たことも無く、ただ座っているだけの人間なのだ。


勇生は苛立ちを抑えるようにひと呼吸置き、必要な言葉だけを注意深く発した。



 『・・・可能な限り、人払いを。』


これはヨザから言われた通り。荒い手段を取るならば、巻き込む人はなるべく増やさない。


 『聞かれて困るのか?ふむ。まぁ良い。この場はこのとおり、勇者を尊重するとしよう。』


 『(しば)しの間、部屋を出よ。』


まだ俺に利用価値があると思っているのか、思惑は不明だがブルーセスの指示で、従者が全員部屋を出た。

・・・いや、エレーヌだけはソファの横に残っている。


 『コレは警護だ。』


ブルーセスはエレーヌを指差し、もう一度興味深そうにラウルを見た。


 『・・・ありがとうございます。』


勇生は部屋の周りがシンとしているのを確認しながら、ヨザとラウルに合図しメルルの身体をそっと国王の前に寝かせた。


 『・・・おや。』


ブルーセスは一度その顔を覗き込み、驚いたようにその身体をジロジロと眺め回し、深くため息をついた後、呟いた。


 『驚いたよ。』


演技なのか。勇生は隙なくその様子を伺うが、驚いているのはどうやら本当だ。


その白い手を取り、丸い額に触れ何度も頷きながら、残念そうな表情を浮かべブルーセスは勇生の方を振り返り、尋ねた。


 『人払いをさせたのは、この勇者(メルル)の処置について要望が?』


ー通常、戦死したものは国へ帰さない。その場で燃やすのが慣わしだ。ここにメルルの身体を連れて来たこと自体が、異例の行為なのだ。


しかし要望はそのことだけではない。果たしてどんな答えになるのだろうかー勇生はメルルの傍らに膝まづいた国王の様子を伺いながら、慎重に言葉を続けた。


 『はい。そうです。』


ブルーセスはやはり、といった顔でまたメルルを覗き込む。執拗すぎる程の視線がメルルに注がれている。


 『我が国王(・・)ならば、勇者(メルル)の蘇生も可能かと思いここへ連れてきました。』


 『ん・・・?』


ブルーセスは一瞬、虚を突かれたような顔で勇生を見返したが、その向こうにヨザの姿を確認すると合点がいったのか、そのまま黙り込んだ。


かといって、怒っている節も無い。ただメルルの傍らでじっと考え込むような様子を見せている。


 『メルルさえ蘇生してもらえれば、一生この王国に仕えます。勿論それでは不足だと思いますが・・。』


勇生は、小さく呟くように続けたが、ブルーセスはぼんやりとして勇生の声など聞いていないように見える。


はぐらかされるか?やっぱり、強行手段を取るしかないのか。


ちらりと勇生はヨザとラウルに目配せした。2人共、微動だにしないが意図を汲み取ったことはわかる。

あとはあのエレーヌがどう動くか、そこが問題なのだが・・・?


そこまで考えを巡らせたところで、勇生はようやくブルーセスがメルルを抱え上げたのに気付いた。


大きく動いたのに気配も感じなかったのだ。焦って勇生は剣の柄を握るがブルーセスはそれを笑って制する。


 『いや、どうこうする気は無い。うーん、どうこうするといえばするのかな。』


 『!?』


驚き臨む勇生に対して、ブルーセスはあくまで寛容な態度を崩さない。


 『つまり、”やってみる”ってことさ。僕は、脅されたりするのはまっぴらなんだ。』


 『・・・え?』


勇生が僅かに(ひる)んだ隙にエレーヌが剣を取ろうと接近してきたが、勇生は剣を床に突き立て、近づくなと言わんばかりに刃先からビリビリと青白い光を放つ。


 『とはいっても秘術だ。見られる訳にはいかないんだ。そこは汲み取ってくれるだろう?』


ブルーセスは何にも動じずスタスタと自室へ向かう。その後を追おうとした勇生はエレーヌにその間を阻まれた。


 『・・・。』


黙って睨む勇生を睨み返し、エレーヌはまた舌打ちする。


 『入って来んじゃないよ。』


 『何かしたら、殺す。』


それしか言えないことが悔しい。


勇生は閉じられたドアの前にドスッと座り込み、ただひたすらに、事態が上手く進むことを祈った。




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