133:謁見
『勇者ユウキと、人魔鳥のヨザが城内へ入り一刻も早く此度の報告をしたいと申し出ております。』
手元の手帳を見ながら口早に喋る付き人を、ちらりと見てブルーセスは僅かに眉を顰めた。
『そうか。しかし報告ならばテサからあるだろう。』
テサからは戦地の収拾がつけば帰るとの連絡があったのみだが、何故先に勇者が帰されたのか。
『用件は?』
ブルーセスの冷たい声に付き人は慌てて手帳を捲るがそこには何も記されていない。
詳細は確認していないが、勝利の要となった勇者をブルーセスは喜んで迎え入れると思ったのだ。もしや先刻のアレのせいで、国王は人に会うのを憚っておられるのか。
『まぁ良い。手短に済ませよ。』
呆れたようなブルーセスの言葉に付き人は胸を撫で下ろしながら、深々と頭を下げる。
『は。すぐに連れて参ります。』
応接間に続く国王の自室に女王の遺体を運び込んだことは、自分とエレーヌだけが知っている。
一体、何をなさるおつもりなのか。・・・否、知らぬ方が良いのだ。国王の闇に踏み込んだ者は、生きて帰って来ないと聞く。
ただ私は役目を果たせば良い。
ーどうか、汲み取ってくれ。
『国王は体調が優れず。ご活躍に配慮しお会いになられるそうですが、何卒手短にお願い致します。』
付き人の言葉に、ユウキは怪訝な表情を浮かべ横目でヨザを見た。
『あぁこりゃなんか、訳ありだな。嫌な雰囲気だ。』
そう言いつつも、今回はずっと付いてくるヨザに感謝しながら、ユウキは曖昧に頷く。
『わかった。』
『そちらの方とお荷物はどうされますか。』
付き人は後ろから付いてくるラウルと、ラウルの背負ったやたらと大きな包みを見上げ尋ねた。
『あぁ、こいつは俺の弟子だ。背負ってるのは、|外島戦での戦死者の遺体だ。』
ヨザの言葉にギョッとした顔の従者に、ヨザはちらりと布を捲り真っ白な顔のメルルを見せる。
『し、失礼しました。ゆ、勇者メルルが・・・。』
慌てた従者は、しかし何故か納得したように何度も頷き勇生を見る。
ヨザの行動には驚いたが、どうやら上手く解釈されたようだ。
勇生はまた曖昧に頷き返し、ドアの前に辿り着くとその重い扉が開くのを待った。
ーーー
扉が開くまでの間、勇生は先程廊下ですれ違ったセルビオのことを思い出していた。
『・・・終わったの?』
ポツリと問いかけた勇生の言葉に、セルビオは暗い瞳をギラつかせたまま、力強く頷いた。
『全て終わった。・・・ようやく、だ。』
その言葉だけで、セルビオがどれだけ女王を・・・桜良を恨んでいたのかわかった。
ー全て終わった。
桜良は本当に処刑されたんだ。
何故?勇生は今更になって考える。
桜良はいつの間にか王国の敵になっていて、王国の民や兵士を大勢殺した。
恨まれておかしくない。
でもここに来て感覚がおかしくなったのか、セルビオの気持ちにまで疑問が湧いてしまう。
女王の側近だった男ーヴォロスは、戦いでとっくに死んでいる。
鳥を死なせたのも死体を潰したのもヴォロスだ。
あの引き篭もりの桜良が、何故”女王”になどなったのか。
戦争を仕掛けたのは、本当に”向こう”なのか。
生き残ったから、皆の前で罰されるのか。
桜良が、諸悪の根源なのか?
否、違うんだ。それは今どうでもいい。
勇生は、ゆっくりと開いた扉の前で小さく息を吸った。
メルルが生き返るなら、他には望まない。
そして開いたドアの隙間から、深々とソファに沈んだ国王とその端に腰掛けた女ーエレーヌの姿を見つけ、しまったという顔で慌てて後ろを・・・ラウルの方を、振り返った。




