124:vsカルマン
『待て。』
ヨザを囲もうとする兵士達を、制止しながら背丈の大きな男が前へ出てきた。
ーこの男が、リーダーか?
ヨザはちらとその男を見ただけで、間髪入れずに呪文を唱える。
『超、回復吸収!』
ヨザの使える、唯一の攻撃呪文だ。大男ーカルマンは術に気づいたのか足を止め、身を庇うように腕を上げる。
気付いたか。
しかし、気付いたところでもう遅い。全てを吸い尽くすまで止まらぬ術だ。
ヨザは、大きく身体を拡げ両手の平を突き出した。
が・・・吸収が、始まらない。
一瞬の動揺の後に、ヨザはようやく息苦しさに気付いた。
『ぐっ!!?』
僅かな間にヨザの首は見えない手に握られ、枯れ枝のような老体がゆらりと宙に持ち上げられていた。ヨザは驚愕し、藻掻くことすら出来ずに男を見つめる。
『光より速いものなんて、無いだろう?』
大男は、変わらずその場に立ったまま、呆れたように呟いた。
『フン。人魔鳥か。天然ものに遭遇するとは思わなかったが、遭ってみればただの老体か・・・。』
そして枯れ枝を折るように、いとも簡単に手の平を握りしめる。
ヨザは咄嗟に自分の身体を魔力で包んだが、カルマンの手の平がまたゆっくり開くと同時に解けるように床に崩れ落ちた。
ーーー
ーボキボキと、嫌な音がして勇生はハッと目覚めた。
・・・船の上だ。
どこの?
急いで周りを見ると、縮こまるようにして倒れたヨザの姿があった。勇生の側にはテサ、ラウルが倒れ、メルルの遺体もいつの間にかヨザから”出て”来ている。
『ヨザ!!!』
勇生は慌ててヨザの背中に触れたが、膜のようなものに覆われたヨザは生きているのか、死んでいるのかすらわからない。
『所詮、時代遅れの”魔物”だな。生き物たるもの、”進化”せねば価値が無いというのに。』
突然聞こえた声に勇生がバッと顔を上げると、敵国の大男ーカルマンが悠然と立ち、勇生を見下ろしていた。
『・・・っ!!』
メルルを殺した男だ。
何故もっと早く、気配に気付けなかった?
勇生は直ぐ様立ち上がり、男を睨み付ける。カルマンは、ヨザの時とは打って変わって愉快そうに片眉を上げ勇生を覗き込んだ。
『・・・子供だな。”異世界”から来た。』
『ん・・・?お前か?私を捉えようとしたものは。』
勇生は突き刺さるような視線を叩き斬るように剣を振り、叫ぶ。
『お前か・・・っ!!死ね!!!!』
剣から迸る火花に飛び退くカルマンを追いかけ、勇生はもう一度大きく剣を振りかぶった。
『稲妻剣!!!!』
カルマンは仰け反り、剣から放たれた閃光を避けながら嘲笑う。
『光と、同じ速度、か。いいね。』
そして起き上がりざまに、腰の大剣を抜いた。
『しかし、器が”小さい”な。』
カルマンはその巨躯を見せつけるかのように大剣を持ち上げ、天に翳し勇生に斬りかかる。
『金剛剣!!!』
ギラリと輝く大剣が、真正面から振って来る。勇生は咄嗟に火竜の剣を前に出し受け止めようとしたが、その勢いを殺せず”砲台”のあったところまで吹き飛んだ。
・・・くそ。大男が、デカイ剣使いやがって。
瓦礫のせいで、身体中傷だらけだ。勇生は怪我した脚を押さえ黙って立ち上がり、また構える。
『惜しい素材だなぁ。』
カルマンが構えた勇生のすぐ耳元で囁き、勇生は思わずビクッとして身を翻す。そのまま戯れるように繰り出された剣を避け、足元を狙って斬りつける。
・・・こっちだって、毎日大男と訓練してきたのだ。
テサは言っていた。
”俺には巨岩は切れるが、綿は切れん。”
攻撃を”受け”なければ、斬られない。そういうことらしい。ただ、カルマンの速さは異常だ。・・・そして、避けるばかりでは攻撃が出来ない。
くそ。
勇生は繰り出した攻撃を躱され、すぐにその場を飛び退いた。勇生のいた場所には大剣が突き刺さり、その柄を持ったカルマンがじろりと勇生を見る。
勇生は一瞬たじろいだが、剣を構え叫んだ。
『電光石火!!!』
剣を構えたまま、超高速でカルマンの横を駆け抜ける。自分の速度を上げる技なのだ。剣を振ると隙が出来るため、なるべく次の攻撃に移りやすい技を使った。
カルマンの胴を狙って斬りつけたが、手応えは無い。
勇生は振り返り、カルマンを見る。カルマンのマントの端が切れているが、カルマン自体に傷は無い。そしてカルマンは、もう一度嘲笑った。その大きな口がゆっくりと動き、メルルの心臓を奪った手が、勇生の方を指示す。
『君にはとっておきだ。』
『闇の誘惑。』




