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118:一刻

 

 突然倒れたメルルを抱き止めようとした瞬間既に、氷のようなその身体から命が零れ落ちていくのを感じ勇生は愕然とした。


胸に開いた、大きすぎる穴を見れば瀕死であることは間違いなかったが、信じたくない。


落ちるメルルをどうにも出来ないまま一緒に海へとなだれ込みながら、勇生の頭の中は激しく混乱していた。



何故、メルルが。

何故、ここで、こんなことに。

何故、何故。



こんなことなら、メルルが走ってきた時にそのまま、逃げていればよかった。こうなる前に逃げていれば。もっと早くヨザを呼ぶことだって出来た。



・・・俺が、迷ってしまったから?



俺がこうした?


俺が迷っていたから、俺に気を遣ってメルルは逃げることを諦めたのだろうか?否、そんなのは自意識過剰というやつだ。でも、メルルは逃げたいと言っていたのに。



逃げたい。帰りたい。メルルはそう言っていた。そして、こうも言っていたのだ。



 『もしもワタシが、死体(・・)になってたら。』



ああ、やっぱりメルルは察知していたのかもしれない。それ程危険だとわかっていて、挑んだのだ。覚悟を決めていたのか。



それでも、俺が逃げることに賛成していたら?

すぐに2人でこの場を離れていたら?



やっぱりこれは俺のせいだ。



どうにしろ、ここで自分1人は生きられない。ならば俺も一緒に死ねばいい。



ようやく答えが見つかり少しほっとした瞬間、勇生の頭に1つ疑問が浮かび上がった。


あの、攻撃()の瞬間に、何故メルルが殺られた?



あの距離で。

光る矢も止まっていたあの間に。



何が起きた?



勇生は海面にぶつかる寸前で虚ろな瞳を開け、海の向こうを視た。



その、見えないはずの遥か沖に視えた(・・・)のは、1人の嘲笑う男だった。



薄く嘲笑(わら)う、大柄な男。



”光”の拳を持つ者。



間違いない。あれはメルルが狙った男だ。



アイツがメルルを殺したのか。



その男は、未だのうのうと敵船上に立っている。


メルルを抱えるようにして海面に突入しながらも、男の嘲笑う口元が勇生の頭から離れず怒りと憎しみが心に渦巻き、消えようとしない。



あの大男。



アイツがメルルを?



もしそうなら・・・。

俺はアイツを絶対に、許せない。



大きな波飛沫を立て飛び込んだ海中で、勇生は男の顔だけを脳裏に焼き付け怒りを増していくが、沈む体を止める術がない。



くそ・・・くそ!!



しかし、海中で無駄に足掻く勇生の身に、思わぬことが起きた。



身体が突然、何かにグイと持ち上げられ今までと逆に急スピードで浮上しだしたのだ。



勇生は想定外の出来事に困惑し、水から出た瞬間思わず叫んだ。



 『・・・ってぇ・・・何だこれ!!!』



ザパァァァァ・・・ン!!!



大きな音と共に突然空中へ舞い出た勇生の身体は、何かに乗って(・・・)いた。その懐かしいような感覚に驚き、勇生は自分の体の下を見た。



 『え・・・。』



黒銀色に輝く、濡れた羽。

空中で広げたその両翼は、人など簡単に吹き飛ばせそうな程大きく、力強い。



 『・・ヨ・・・、ヨザ?!!』




一瞬怒りも忘れ驚く勇生の手の下で、ヨザはグルゥと低く唸った。






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