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11:水辺にて

 水辺はすぐそこだった。見上げれば裂けた樹が見えそうなほどだ。辿り着いたはいいものの、辺りはまた少しずつ薄暗くなり、夕暮れが迫っているようだった。


ーまた、魔物が出るだろうか。


勇生は現れる魔物を想像しメルルをチラリと見た。メルルはおずおずと勇生を見上げる。


 『あの・・・ちょっと、試してみたいんだけど。』


そう言ってメルルはどこから拾ったのか、腕の太さほどの枯れ木を勇生に掲げて見せた。


 『何?』


勇生が聞くとメルルはその木にナイフを刺すように言った。

ああ‥再現、するつもりか。勇気は木を受け取り手に持って眺めた。先程の不思議な”力”は勇生にも、何がどうなって出たのかわからなかった。確かに、もしあの力を使いこなせたらこの先も切り抜けられるかもしれない。


勇生は言われたとおり、木にナイフを突き立てる。


・・・何も起きない。


少し離れてもうしばらく2人で様子を見守ったが、木には何も起こらなかった。


 『えーっと・・。ココをこう、握ってさ。』


メルルは諦めずに勇生の手を取り、再びナイフを握らせようとする。勇生は少し焦った顔になり、もう一度、やって見るから。と言ってメルルの手をほどいた。メルルはきょとん。とした顔で勇生を見ている。勇生はナイフに集中することにした。


ーさっきは、襲われて夢中だった。樹にナイフを突き立て、こう思った。


 『消えろ。くたばれ。―メルルを、離せ。』


勇生がナイフを握りしめ頭で念じると、ナイフがジジ・・と小さな音を立てる。メルルが驚いた顔でそれを見ているのがわかる。より集中してナイフに力を込めると、ナイフはビリビリと小さな光を発し、木が焦げ始めた。徐々に焦げは広がり、やがて小さな煙が上がり始めたところでメルルがすかさず息を吹きかける。


 『・・・火が付いた!』


半信半疑で始めたが、先ほどまで確かに存在しなかった小さな炎を囲んで2人は向かい合っていた。その炎から要領良く焚き火を作り、チラチラと揺れる火に照らされながらメルルは心底羨ましそうに勇生を見る。


 『それ、どうやってんの?』


勇生は問われてもわからなかった。ただ、手の平に集中するとナイフが熱くなる。そう答えた。メルルはそれを聞いてじっと自分の手の平を見る。勇生もまた先程握られたその白い手を見て、一人で恥ずかしくなり俯いた。メルルはその勇生からナイフを借りると、何か呟きながら自分でも枝に刺してみていた。


 『だめだな・・。どうにもならない。』


しばらくいろいろな角度で試しては、ため息をつく。メルルはナイフを勇生に返した。そもそも、自分に何かの能力が備わっていると思えない。でも、何か身を守る術が欲しい。先程の魔物を思い出し、メルルは身震いした。暗い表情になったメルルに勇生が話しかける。


 『今日は、交代で寝よう。見張りしながら。』


メルルはハッとした顔で勇生を見て頷いた。


 『うん、じゃあワタシ起きてるから先に寝て。』


自分にも見張りくらいは出来る。それに、したいこともあった。メルルは率先して見張りを引き受けた。


 『じゃあ・・・時間とかわからないから、起きたら交代するけど、眠い時は起こしてほしい。』


勇生もそれを受け入れ、2人は水辺を少し歩き崖下の少し窪んだ場所へ焚き火を移した。そこで昨日採った木の実と残りの魚を焼いて食べ、また明日は食糧が必要になるな‥。とそんなことを考えながら、勇生はすぐに眠りについた。


メルルは勇生が眠っているのを確認し、急いで岩陰に隠れ服を脱いだ。

水浴び―ではなく、魚をまた捕るためだった。何しろ、魚が眠っている場所が手に取るようにわかるのだ。コレはもしかすると特別な力なのだろうか。だとしたら、ちょっとがっかりだが漁師―いや、海女さんになれるかもしれない。そう思う程、簡単に素手で魚を捕ることが出来た。


あっという間に魚の山が出来た。大量すぎるだろうか。でも火があるのだ。焼いてしまえばいい。メルルは食に貪欲だった。”飢え”の苦しさを、知っていたから。2人でも食べるのに数日はかかりそうな程の魚を全て串刺しにし、メルルはようやく服を着た。幸い、”他に起きているもの”の気配も無い。


 物音を立てないようにそっと焚き火のところへ帰ると、勇生は崖に背をもたれたまま、苦しそうに顔を歪めて寝ていた。その顔を見ながら、メルルは出来るだけ効率よく焚き火の周りに枝を刺し魚を並べていく。焚き火がほとんど魚で隠れた頃、勇生が小さく声をあげ目を開けた。


 ー勇生はまた夢を見ていた。今度の夢では”誰か”が担架に積まれ、救急車と(おぼ)しき白い車に乗せられていた。マスクをした救急隊員達の後ろから、おぼつかない足取りでもう一人がそれを追う。あれは誰だ。その細い足。丸まった背中に短く揃えた白髪。あれは・・・?


その後ろ姿に呼びかけようとして、勇生は目を覚ました。何だこの匂いは。

見るとメルルが気まずそうにして魚の山の向こうにいた。


勇生は無言で魚を見てメルルを見、もう一度魚を見た。


 『‥‥明日の食糧、心配しなくてよさそうだ。』


勇生は何とかそれだけ言った。メルルは返す言葉を探した後、ちょこんと頭を下げ謝った。


 『ちょっと魚臭いかな。ゴメン。』


勇生はいや、別に。と言ってメルルと見張りを交代した。メルルもまた、疲れていたのか勇生が灰色の肩掛けを渡すとそれを体に巻き付け、すぐに眠りについた。

ほんの少し前までの部分を加筆、修正しました…!

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