105:大地の覇者
『勇者よ。ここはお前の出る幕じゃない。』
ベルタは勇生に腕を払われたのも束の間、すぐに体勢を立て直し剣を持つ勇生の腕を捻り上げ耳元で囁いた。
勇生は腕に力を込めながらベルタを睨む。
ーなんだこいつ。
何とかベルタの手を振り払おうとするが、掴まれたままの腕はびくともせず、逆に捻り潰されるかと思う程の痛みが勇生を襲う。
『うっ。』
ーくそ、こいつも馬鹿力か。
勇生は呻き声を上げながら、背後のベルタの余裕を感じて苛立った。
未だ状況を理解せずこちらを呆然と見ているテサにも腹が立つが、何よりメルルの助力を受けてなお腕を捻り上げられている自分が恥ずかしく悔しい。
ーくそ。
おまけに目の前のベルタは魔力すら使っていない。手加減されているのだ。
情けない。そして悔しい。
腹が立って、しょうがない。言いようのない量の感情がぐるぐると渦巻いて、はけ口を探している。
『・・・そっか。でもこっちは手加減する義務なんて、ないからな。』
勇生は低い声で呟くと、怒りに任せおもむろに体を沈め引っ張られるように前へ出たベルターんの顎目掛けて思い切り頭突きを繰り出した。
『ウグッ!!』
ゴン、という確かな手応えと共に頭に割れるような衝撃が走る。
血が吹き出たような感覚がして勇生は咄嗟に頭を押さえたが、何事もなくそのままヨロヨロとベルタから離れた。
『お前この・・・っ!!!』
ベルタもまた一歩よろけ、勇生に向かって手に持つ剣を振り上げる。
『子供は引っ込んでろって言ってんだろ!!』
その声と共に、長剣が勇生の肩に振り下ろされる。
『ー止めろ!!!』
テサが叫び地面を蹴るが、飛び掛かろうとしたその矢先に脚がもつれたように地面に突っ伏す。
驚いて顔を上げたテサの目に映ったのは、ニヤニヤと締まらない表情でテサを見下ろすビオーネの顔だった。
ーーー
ーキン、と高い音を響かせ勇生はかろうじてベルタの剣を受け止めていた。
お互いの刃先をぶつけたまま、勇生とベルタは黙って睨み合う。
『悪く思うな。』
ベルタが呟き、ジリジリと剣が勇生の側へ倒れていく。力では押し負ける。そんなことはわかっていたのだ。
『何をだよ!!!』
勇生は叫び、腹に渦巻く魔力を全て解き放った。
『雷孤剣!!!』
何故、アンタが。何故、ここで。何故、何故。
勇生の怒りは青白い閃光となり剣から迸る。
『燃えよ剣。』
勇生の剣から雷が放たれるのと同時にベルタの冷静な声が聞こえ、打ち合った剣の温度が急激に上昇し勇生は思わず驚き剣から手を放してしまった。
目の前にはユラユラと燃える青白い炎に包まれた剣を持ったベルタが佇んでいる。
・・・効かないのか。雷が。
勇生は打ちのめされベルタを見上げた。
『ビオーネ。お前もか・・・。』
後方ではテサの苦しげな声に満足そうなビオーネが頷いている。
ビオーネがあまり隊を率いて戦うことがなかったのはその不真面目な性格故だ。
大地を思うままに変形させ、重力すら操る。その能力の高さから一部の者からは『大地の覇者』だなどと呼ばれ崇拝されていた。
そのビオーネもが、王国を裏切っているのだ。ベルタのこともまだ信じられないがこの2人が立ちはだかってくるとは・・・。
テサは苦虫を噛み潰したような顔でビオーネを見て、ベルタを見た。




