103:疑い
魚人達の現れた最下層では全ての部屋をしらみつぶしに調べたが、爆発物などの仕掛けには出くわさなかった。
テサは隊の先頭で船上へと階段を駆け登りながら、いくつかの最悪な事態を想像し表情を曇らせた。
上にはベルタ達3番隊を残してきた。
確かアイツらが真っ先に向かったのは操舵室だ。
敵が先に船へ侵入したならば機関室のある最下層を狙うと考えたが、空振りだった。
では・・・まさか敵は、操舵室に?
3番隊は無事か?
あと数歩上がれば甲板だが、その先は嘘のように静かで戦いの物音は聞こえない。
テサはギリと歯を食い縛り、剣の柄を握りしめると一気に甲板へと駆け上がった。
ーーー
テサが船前方の階段から甲板へ飛び出ると、すぐ目の前に3番隊の女性隊員サリーが倒れていた。
『おい!起きろ!!』
テサは問答無用でサリーを揺さぶり起こそうとするが、サリーは気を失っているようで浅い呼吸のまま時折うわ言のように何事か呟くばかりで一向に目覚める気配は無い。
魚人らの熱蒸気を浴びたのか顔には熱傷を負い、直ぐに手当てが必要なことは明らかだが甲板の状況がまるで掴めない今は簡単な処置しか出来ない。
テサはメルルに手当てを頼み、他の隊員と共に先を急いだ。
操舵室の外にも複数の隊員が倒れていた。その身体には魚人の鱗や鰭により傷つけられた跡があり、サリーと同じように熱傷を受けているものもいた。
鱗がびっしりと身体中に刺さった者や胸に尖った鰭を突き立てられた者などは既に息絶えておりテサはその遺体を悔しそうに見ながら、操舵室のドアの横にピタリと体を寄せ数歩離れた勇生達に目配せする。
『行くぞ。』
そしてドアを開け放った次の瞬間、勢い良く、思わぬ人物が飛び出てきてテサは面食らったように後ずさりした。
『・・・お前!?』
テサは剣を構えたまま、出てきた男に声を荒げる。
『あぁ、何でぇテサか。遅かったな。』
その男は、先へ行ったとばかり思っていた5番隊隊長、ビオーネだった。
その後ろからはテサ同様、怒りの表情を浮かべたベルタがビオーネとテサ達を見ながらゆっくりと出てくる。中には他に隊員達もいないようだった。
『仲間割れしてたとこだよ。』
ビオーネがやれやれ、と冗談のような口調で言い2人の怒りを煽る。
『お前、中で何してた?』
ベルタが大声でビオーネに問いかける。
どうやら、先にビオーネが中にいたようだ。
テサは察してビオーネを睨む。
・・・ということは、まさかコイツが?
ビオーネは卑屈に笑いながらテサを見る。
『俺が乗った船は魚人が山程いたんで、船を捨てて逃げてきたのさ。』
『まさか、1人で、か?』
テサは信じられないものを見る目でビオーネを見ていた。
『何しろ1人でしか移動出来ないんでねぇ。』
ビオーネは悪びれずそのテサを見返す。
ビオーネは卓越した重力操作能力を持ち、宙を飛ぶことすら可能なのだ。
その能力で隊員を置いて来たのか?
『テサ。』
後ろから勇生がテサを呼んでいるが、怒りのあまりテサの耳にはその声も届かない。
『お前はそれでも軍隊長か・・・!!?』
テサが震える声でビオーネに怒鳴る後ろで、勇生が何かを叫んでいる。
『テサ・・・!なぁ、おい!!!』
5番隊の隊員達は、先に出た船に乗っていたということか。今から追いかけ間に合うだろうか?間に合えば救出は可能か。
テサの頭は怒りで沸騰寸前だったが、わずかな救出の可能性を考え、かろうじてその怒りを押さえテサは操舵室を見た。
しかしそこでベルタがテサの思いに気づいたように、テサに向かってゆっくりと首を横に振った。
『舵が取れない。船は動かないんだテサ。』
その言葉を聞いた瞬間、テサの残った理性は微塵に吹き飛びビオーネに向かって真っ直ぐその怒りが打ち放たれていた。
『やっぱり、お前の仕業か!!!!』
考えて見れば全てコイツが仕組んだのだとわかる。
城では3番隊を、町では1番隊を出し抜き、隊員達を罠に放り込み自分だけが脱出する。ついでに残った船も使えなくしてしまえば王国軍が港を出る術はまるで無い。
やはり、コイツが。
テサの魔力に吹き飛ばされたビオーネはゆっくりと起き上がり、ブツブツとぼやいている。
『このクソ馬鹿力が。』
テサはゆっくりとビオーネの方に歩いて行く。
その背中に向かって、勇生がもう一度叫んだ。
『テサ!!!!』
テサはその切羽詰まったような声にようやく気付き、ハッとして背後を振り返る。
その後ろでは勇生と、何故か理解出来ないがベルタが向かい合いジリジリと剣を突き合わせていた。
度々修正を入れることになってしまい本当にすみません・・・!!(ある程度展開は決めているのですが、流れで書いたところの辻褄が合わなくなり・・汗)




