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101:怨念

 ・・・こいつら、”魚人”か?


薄暗い船底に続々と現れた”敵”の全身は防具のように頑強な鱗に覆われ、足の指先には水かきがある。顔を見ると鼻の位置には鼻孔だけがあり、その左右に少し離れた瞼の無い瞳が、勇生達を捉えて暗い光を放っていた。その上に眉は無く後頭部には(ヒレ)のように平たく先の尖ったタテガミのような毛が生えている。


テサは大きく重い剣を振りながら鋭く”敵”を観察した。そのすぐ後ろには勇生、ガーラ、ギンザと続き、狭い場所での戦闘に向かないメルルは素早く後方へ移動していた。


瞬く間に勇生の”火竜の剣”で斬られた敵が、ギャッ!!!と短い叫び声を上げ湯気を出し倒れる。どうやら熱には弱いようだ。


”水属性”の魔物には違い無いだろうが、王国近海では見ない姿だ。


外島は魔物まで戦争に持ち出すのか?魔物なんぞ使って、どう統率を取る気だ。


テサは通路の奥から更に魚人が出てくるのを見て舌打ちしながら、少しずつ船底を奥へと進んでいく。


襲いかかってくる魚人のほとんどは素手だ。皮膚は硬く力も強いが、テサの剣には敵わない。


それでも距離が詰まればやりづらい。テサは何とか身体を縮めて、掴みかかってくる1体の手を交わしながら素早く背後に周り、勇生と挟み撃ちの形を取った。


テサの振り下ろした剣と勇生の突き出した剣が魚人に刺さり、魚人は血を流しながらその場に倒れる。


 『こいつらは・・・”敵”だよな?』


確認するような勇生の問いに、テサは沈黙を返す。


魔鳥とは違い、魚人達は成体(大人)だ。そして、魚人達には明確な敵意(・・)が見えた。


それは、人間を獲物とする魔物達の見せる”敵意”とも少し違って、まるで彼らが人間の感情を持つと言わんばかりに、”憎しみ”のこもった瞳で魚人達は向かってくるのだ。



 『うむ・・・恐らく、王国の民(守るべき民)では、なかろうな。』



それは、隊員達を戦わせるための言葉でもあり、自分に言い聞かせるための言葉でもあった。


しかしテサがその言葉を発した瞬間、場の空気はガラリと変わった。


魚人達の発する魔力がみるみる膨れ上がり、まるで気圧が変わったかのようにテサ達を圧倒したのだ。


床をヒタヒタと歩きづらそうに進んでいた魚人の脚が突然鞭のようにしなり、激しく床を打つ。飛び上がった1体の回し蹴りを受け、テサがよろけた隙に、次の1体が勇生に突進する。


・・・待て!


テサは猛然と横を走り抜ける魚人に咄嗟に脚をかけるが、テサと組み合った1体はその間にテサに馬乗りになり、太い首を両手でギリギリと締め上げる。


 『グッ!』


テサは魚人の両腕を掴み離そうとするが、鱗に覆われたその腕はビクともしない。テサを見下ろすその瞳には一筋の迷いも無い殺意が見える。


 『お前らは・・・何者(・・)だ??』


テサは言葉でなく思念で問いかけた。


魔物は言葉を持たない。持っていたとしても、この状況では声が出せない。


テサの問いかけに、魚人は答えず更にその指に力を込める。


くそ。・・駄目か。


テサが何とか魚人を振り落とそうと身体を捻った次の瞬間、ブン、と空を切る音がして目の前の魚人の首が落ち、その太い両指から力が抜けた。


 『ゲボ、ゴホゴホ。』


テサは転がり咳込みながら、魚人を斬った人物・・・勇生の姿を見る。


勇生は嫌な物を見るかのように転がった魚人の首を見ていたかと思うと、起き上がったテサの方へ素早く移動し、迷いながらこう告げた。


 『さっき倒した奴だけど・・・斬る前に、くたばれ軍人(王の犬)が。って。』


 『・・・なんだそりゃ。』


テサは変な顔で勇生を見る。自国の軍人を嫌う民間人(・・・)が口にしそうな台詞じゃないか。


力の強い魚人を相手に苦戦していた一人、ギンザもまたかろうじて1体を倒すと軽やかな”声”でテサに報告してきた。


 『妹の仇だとか言われたけど、こいつら見覚え(・・・)ないよな?』


その間にも、隊員達が交わす会話を聞いて怒りを募らせているかのように、魚人達の攻撃力は増すばかりだ。


テサは不可解な表情のまま繰り出される拳を避け、魚人の腹に思い切り拳を打ち込むとうずくまり苦しそうに呻く魚人に顔を近付け、もう一度尋ねた。


 『お前達、”魔物”じゃないな?何者だ。』


ゼェゼェと荒い息をしながらもテサを睨みつけたその1体は、戦う仲間を見ながら悔しそうに呟く。


 『くそ・・何のためにこんな姿になったと思ってる・・・。』


魚人の言葉を聞いてテサは容赦無くもう一度腹に拳を入れる。


 『やはり元”人間”か・・・。ならば、お前達は”外島”の民か?』


魚人は、光の消えそうな瞳に怒りだけを残したまま、悔しそうに呟いた。


 『俺達は・・・王国の民だった(・・・)。』


その言葉を薄々予感しつつも、苦虫を噛み潰したような顔で聞くテサを最後の力で睨みながら、なおも魚人は続けた。


 『俺達は、王国を憎んで志願兵になった。過酷な訓練を潜り抜けてここにいる。それぞれ事情は違うが、王国軍(おまえら)なぞ、ものともしない。』


驚くテサの目の前で魚人はそれだけ言うと立ち上がり、咆哮した。



 『思い知れ!!我らの無念を!!!』



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