9オブザデッド
地下迷宮パーティーが四天王と戦いを繰り広げている間、平原の町を守る戦いもまた、佳境に入っていた。
最初に押し寄せてきたゾンビ軍団はあらかた始末したのだが、その次に現れたスケルトンは武装をしていたのだ。
剣に盾に鎧を着たスケルトンはただのゾンビよりは数倍強く、さらに厄介なのはそれだけじゃなくて──。
「あの装備……うちの王国のものじゃないか!」
後方でファルシオンを振るっていた殿下は、弾かれたように叫ぶ。
では先ほど倒していたゾンビも、今戦っているスケルトンも、王国兵の成れの果てなのだろうか。
その事実を知って、狼狽するのは殿下だけではない。
時空研究所特殊調査派遣員である量産型ASHIO(C-3POのようなロボット(ただし今回は時代考証のためローブで体を隠し、魔法使いのとんがり帽で顔を隠している。))は、無抵抗状態でスケルトンに串刺しにされた。
知力8の彼がなぜ──と思えば、そのスケルトンがつけていたペンダントには、量産型ASHIOの写真が写っていた。まさか。
「ソウゾウシュ、サマ──」
量産型ASHIOはスケルトンを抱きとめたまま、己の自爆装置を起動させた。高々と吹き上がった炎はスケルトンを恐らく成仏させただろう。己の命とともに。
「ヒャッハー! 気分は最高だぜえ!」
気分は暗殺者の狂信者Dは新たに現れたスケルトンたちに喜々とダミーナイフ(飛び出し)を振るっていたが、所詮暗殺者なのは気分だけであり、歩く的であるゾンビと違って統率された動きのスケルトンには勝てなかった。全身を串刺しにされて息を引き取った。
バンメシハ=トリニクノテリヤキはコックだが、猟銃を構えており、十分な戦力として見込める男だった。事実、彼はスケルトンの大群を次から次へと打ち倒し、その腰骨を砕くことによってもう二度と再生できないようにしていた。だが、武器が銃である以上、弾はいずれ尽きる。
彼はコックとして生きていく中、もう二度としないつもりだったタバコを咥え、ふかし、つぶやいた。
「晩飯作ってくるかぁ。」
それが彼の最後の言葉だった。
スケルトンが町にまで侵入を果たそうとしていた。しかし、門の前には彼らがいる。
グリーン・カイザー・マークⅡは職業:動物園で働いている。飼育員?違うよ、飼育される側だよ。だ。外見にはゴリラと書いてあるが、しかし職業はあくまでも動物園で働いている。飼育員?違うよ、飼育される側だよ。である。門の前に立ち、やってくるスケルトンを素手で砕いてゆく。
「おっとぉ、ゴリラくんすごくねー? ま、俺ぇもちょっとはハリキリますかねえ、町の女の子のために、さっ」
お兄ちゃんはホストである。ワインのビンを短刀のように持ち、高級スーツを着たイケメンだ。イケメンだけに、スケルトンを叩き潰す姿も様になった。
さらにハガネノ・バケツ。彼はおっぱいアーマー職人だが、別におっぱいアーマーを着ているわけじゃない。筋骨隆々の男だ。
「いつかおっぱいアーマーを着てくれる女の子たちがいるかもしれないからな。人は資源だ。人は未来だ。俺が引くわけにはいかんよ」
三人はどんなに不利な状況に陥っても、門の前から一歩も動かず、ここで命を燃やし尽くした。
彼らの名はやがて、町を守った英雄として、チホウの町の石碑に刻まれることになるだろう──。
戦況が王国軍に傾いてきた頃、新たな敵が現れる。
「やりますねぇ……」
そうつぶやきながら、スケルトンの群れをかき分けて前に歩み出てきたのは、コーヒーの木を削って作った杖を持つ、ひとりのカフェイン属性の魔術師だった。
「私は四天王がひとり、昏き豆のカルロ・ゼン。お気軽に同志とお呼びください」
カルロ・ゼンが杖を振るうと、数が少なくなっていたはずのスケルトンが地中から現れた。彼は魂を冒涜する者だ。
「ここに王国の殿下が逃げ延びたという話を聞いていましてね。ええ。私としては皆で平和になりたいと願っておりますので、どうか殿下とそれに与する者全員の首を差し出してもらいたいわけですが、ええ」
金髪碧眼の剣士(職業が剣士だ! やった! まとも!)のアルフレッドがその言葉を裂く。
「ふざけるな! なぜこのようなことをするのだ!」
「それは、ええ。我が主の命ですのでね」
「ここで我々が素っ首、落としてやるわ!」
四天王のひとりはため息を付きながら首を振った。
「やれやれ、争いごとは苦手なんですが。いいでしょう、それならば彼らが相手になるでしょう」
杖を振り上げると、地中から現れたのは二体の超巨大ゾンビだった。町を一撃で踏み潰せそうなモンスター&昏き豆の魔術師との戦いだ。
殿下率いる200余名の王国軍は、こんな化物などには、負けはしないだろう!
さあ、こちらでも四天王との戦いが始まる!