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8オブザデッド


 引き続き、地下迷宮チームのお話だ。


 地下迷宮には危険がいっぱいだ。


 たとえば歩いていたハム・THE☆スターは、背中に七つの星の模様があるハムスターだが、ペストを媒介するネズミと勘違いされてくろその金属バットで叩き潰されて死んだ。


 そんな中、おっ、と先頭を歩いていた清掃員、チッボリク・マイトシーが顔をあげる。どうやら突き当たりにはたくさんの宝箱が置いてあるようだ。


 地下迷宮には宝箱はつきものだ。王国を守るために集まった人々も、宝箱の魔力には逆らえない。


 ほとんどの宝箱にはしょうもない木の棒や、錆びついた銅貨とかいうどうでもいいものばかり入っていたけれど、その中にひときわ輝く宝箱があった。


 その上には可愛らしい丸文字で『すごくいいものが入ってるよっ♪』と描かれている。なんということだ。すごくいいものが入ってそうだ。


「怪しい」

「怪しすぎる」

「怪しすぎでは」


 口々につぶやいたのは、超絶かわいい美幼女(男の娘)の夢幻聖眼、銀髪碧眼の幼女のまい、くすんだ金髪の幼女の幸薄(さちうす)レティシアの三人だ。


 幼女たちはこれからの人生に未来があるので、ここで無理してやばいことに手を出さなくてもいいのだ。


 一方、こういう状況に最も慣れているのは、冒険の書が爆発しましただ。冒険の書が爆発しましたは危険物取り扱い業者なので、宝箱のトラップ解除もお手の物である。辞書の様な鈍器で手をパシパシと叩きながら、宝箱に近づいてゆく。他の人たちはそれを遠巻きに見ていた。


「ま、俺にまかせてくださいよ。ホントにいいもんが入っているかもしれませんし」


 宝箱に手を触れた次の瞬間である。遠巻きに見守っていた人々の方の地面が爆発した。


「ンな!?」


 こういう看板があれば誰もが離れるのは間違いない。人間心理を巧みに使った巧妙なトラップだ! 実際、逃げ遅れた幼女三人組は折り重なるようにして倒れていた。


「うう、あざとい表情の武器も、爆発には通用せず……」

「鋼のメンタルがあるから、痛いのとかは平気だが、とにかく死ぬ……」

「嫌だ、死にたくない、生き汚さだけがボクの武器なんだ……死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……」


 夢幻聖眼、まい、幸薄(さちうす)レティシアは静かに息を引き取った。


 幼女たちの死を悼む暇もなく、さらに宝箱がパカっと口を開いた。ミミックだ!


「ウワァォ!」


 冒険の書が爆発しましたが頭から丸呑みにされる。それだけ済まず、壁からは大量の水が流れてきて、天井から矢が発射された。もうやたらめったらだ。


「もう、なんなんですかこれ! なんでこんな、異世界ってこんなことばっかりなんですかー!」

『マー』


 どこにでもいるような普通の学生である転移まきこが、喋る魔法の本をかざして身を守ろうとするが、しかし矢に射抜かれて絶命した。


 もう本当に殺す意志に溢れたトラップだ。仕掛けた人間の性格が透けて見えるかのようである。


「みんな! ラミエルの影に隠れろ!」


 そう叫んだのは、知性が武器の頭良(ずら) 不知(しらず)だ。メガネをかけてキリッとしているが馬鹿。馬鹿なので、自分が馬鹿であることに気づいていない。しかしその作戦はいいものだった。


「~~~~」


 ラミエルはUFO型生命体だ。希に良く見るピラミッド型をしていて、UFOっぽい武器を兼ね備えている。全長は120メートルあるので、通路の横幅が121メートルなければとても入ってこれなかっただろう。


 が、上から振ってきたスライムは全長が122メートルあったため、ラミエルはちょうどぴったり飲み込まれてしまった。余った部分で頭良(ずら) 不知(しらず)もあっという間に溶かされてゆく。


「ええい、逃げるだけなんてまっぴらだ! このスライムは倒してやる!」


 杖を掲げたのは、魔法使い()の冒険の書が消えた音だ。匍匐前進を常にしていた彼が立ち上がり、腕を振り上げた。スライムに向かって、最強最悪の魔法を唱える。


「データが消えた絶望感(ドン! 0% 0% 0%)!」


 122メートルのスライムは絶望の果てに死んだ。だが、重すぎる代償を払った冒険の書が消えた音もまた、落命した。凄まじい相打ちであった。


「と、とにかく、安全な場所に避難しましょう!」


 魔法使いアマリリスが目の前のスライムを炎魔法でなぎ払いながら怒鳴る。同じように、清掃員のチッボリク・マイトシーが火炎放射器でもぞもぞ集まってきたスライムを焼き払う。


 意図したわけではないが、地下迷宮チームは属性攻撃の使い手が多いので、スライム相手も特に苦労することはないようだった!



 少し離れたところで一同は休む。長い黒髪の女性で、フード付きのマントを着ているという設定でお願いします!のみずうめはヒーラーなので、火傷を負った一同の手当をして回った。ヒーラー! なんてファンタジーっぽいんだろう! こういうのだよこういうの! ヒュウ!


 車座になった一同の真ん中には観賞用サボテンのサボテンがいた。武器はサボテンで、外見はサボテンのサボテンだ。地下にいても緑を見ることができて、全員の心は癒された。サボテンはそのまま放置された。



 いよいよ最下層が近い。道中で373匹のスライムを倒した一同は、レベルアップしつつも最下層に辿り着いた。


 紋章の上で待っていたのは、ひとりの魔術師だ。すわ王国を襲った魔術師か──と身構えると、紙袋をかぶった魔術師は名乗りを上げた。


「我こそは四天王がひとり、深き地の底の山田まる……。故あってお相手いたす」


 杖を構えたその魔術師は、一同の前に立ちはだかった。


 緊張感が走る。この者が今までメンバーを邪魔していた存在なのか。


「四天王って、誰の命令で俺たちを邪魔しているんだ!」


 チッボリク・マイトシーが叫んだその次の瞬間、彼は体内から木の枝に貫かれて絶命した。その顔には静かに黒い紙袋が被せられる。魔術だ。


「我ら闇の一族に秘宝は扱えぬ。だが、そなたたちに渡すわけにもいかぬのでな」


 禍々しい魔力を放つ魔術師は、もう話して通じる存在ではないだろう。


 地下迷宮パーティーの、ボスとの戦いが始まる──。



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