7オブザデッド
さてさて、どんどん殺っていこう。次は地下迷宮だ。
南に広がる地下迷宮は全長176キロの超広大な迷宮だ。一度入って生きて帰れたものはいないと言われている。
サボテンは棘をチリチリとさせていた。やはり危険がいっぱいあふれていそうだ。
地下迷宮はひんやりとしていて、夏場なら過ごしやすそうな場所だった。
道は手狭で、ちょうど30人が横に広がって歩ける程度の広さしかない。これぞダンジョンという風な息苦しさだ。
メンバーの中でもっとも知力の高い春哉(知力6)が「そういえばこんなのがあるんですよぅ。ポンコツで頭の悪いメンバーにはぴったりだと思うんですけどお」と武器の毒舌を披露しつつも、毛糸をメンバーに差し出した。アリアドネの糸だ。
これさえあれば、迷宮からでも迷わずに出口に向かうこともできるだろう。
安心しきったメンバーは、地下迷宮の探索を始めた。
けれど地下迷宮は罠と魔物の巣窟。生半可な腕力と知力、幸運では攻略することができないだろう。
というわけで、ここで最初の判定である。
30人は、体力以外の数値(腕力・知力・幸運)で判定だ。クリアーしたものだけが先に進むことができる!
…判定中…
成功者 11/30
さて、地下迷宮といえばテレポートの罠だ。ある意味伝統的であり、罠を踏むだけで石の中に飛ばされる可能性がある即死トラップだ。
「って言っても、テレポートなんて魔力コストがかかる罠がそこらへんに置いてあるわけないじゃないの」
と言ったのは、ジェイムズ・キューゾ。究極のゾンビを完成させたは良いが、制御手段が無く、大量のゾンビに紛れて行方不明になり、そもそも本当に究極だったのか疑問に感じている。と、いう現状を一目で理解させる表情。をしているネクロマンサーだ。ジェイムズ・キューゾはダイス目でファンブルを出した。足元からカチッというなにかを踏んだ音がする。あとはもう、おわかりだろう。一同は29名になった。
天井からぼとりと落下してきたのは、スライムだ。ザコ敵の代名詞のように思われるスライムだが、本ダンジョンはスライムが強い仕様となっている。特に物理攻撃は効きづらい。
吟遊詩人のバードはリュート 「今年もクリスマスは一緒だよ!やったね!!!!」という気持ちを表した歌を歌いながら、前に歩み出る。
「人と魔物、どうして争わなきゃいけないのか。歌を歌って仲良くなろうじゃないかポロロン」
と歌い、スライムに丸呑みにされて消化された。
「おのれキサマー!」
と怒髪天をつきながら褌を握りしめて突進してきたのは、軍曹のシュン。拳を振り上げ、一撃でスライムを粉砕した。物理が効きにくいスライムを一撃で! しかしそれでスライムは死んでいなかった。ひとつに戻ったスライムに消化され、骨も残らず息絶えてしまった。
「なかなか強いけれど、でも、こっちにはこれがあるからな!」
元王国騎士の鯉は、ポイを手にスライムを次から次へとすくっては投げ、すくっては投げた。元王国騎士が武器ポイとかふざけてんのかって感じだが、鯉は大真面目だ。スライムはすくい殺されたが、しかし続く新たなスライムに頭から食われてしまった。エラ呼吸もスライムの中では役に立たなかった。
あっという間に三人が死んで、一同は戦慄した。こんなに強い魔物がうろついているだなんて!
「待ってよ、そんな相手、僕の魔眼で焼き尽くしてやるよ」
黎神 麗音は厨二病患者(重度)だ。なにが職業なのかわからないが、しかし黎神 麗音にとってスライムごとき弱敵の代名詞から逃げるわけにはいかないだろう。黒い手帳(設定集)を開き、腕を広げた。
「さあ消えるがいい! ヘイムダルの名において命ず!」
命じられてもスライムはどかなかった。黎神 麗音は食われて死んだ。
ここまで書いて思ったが、別にスライムが強いわけではなく、食われたやつらがふざけすぎなのでは……という気になってきた。いや、先を急ごう。
ある程度先に進むと、開けた場所に出た。
そこは30人がギリギリ入れる程度の非常に狭い部屋だ。いかにもなにか罠が仕掛けられていそうである。
メンバーが迷っている間に、バケツ職人ののくにつき、つりびとの水戸納豆、そして王国騎 士団長が前に歩み出た。
「どんなやつが待ち伏せしててもな、俺のバケツをこうやってガンガンと打ち鳴らせば逃げてくもんでい」
「では私がこの釣り竿でモンスターを釣り上げてみせましょう」
「出てきたやつは、私が斬って捨ててやろう」
三人は慎重に警戒しながら部屋に入る。そのとき、天井がゆっくりと下がってきた。吊り天井だ。
「バックバック! 逃げないと!」
「あっ、扉が閉まってる!」
「なんてこったい! ええい、それなら壁を壊して!」
言っている間に、天井は急加速して落ちてきた。三人はぺっちゃんこになって潰れた。なんと。
おかしい、と誰かがつぶやいた。
なんて美意識のないトラップだ。まるでここだけ誰かが悪意をもって設置したかのような……。
もしかしたらこの王国奪還を邪魔するための誰かがいるのかもしれない。そうと気づくと、向こう側のレバーのそばにいた誰かが走り去っていく音がした。
一同はこの地下迷宮の影に隠れた黒幕の存在を意識しながらも、部屋を迂回して先に進む。
地下迷宮の探索はまだ始まったばかりだった……。