5オブザデッド
迷いの森の死闘が終わりを迎えようとしていた頃、東に向かった面々は荒野に屹立する巨大な塔を見上げていた。
かつて賢者が住んでいたとされるこの塔は、今なお古代の兵器がその機能を残しているらしい。
なんせこれだけ目立つくせにまだ誰も頂上にたどり着いていないダンジョンだ。それはそれは困難な道のりだろう。
だが、それもこれも王国をアンデッド軍団の手から取り返すために必要なことならば。
王国民が安心して過ごせる国を作るため、一同は塔へと足を踏み入れた。
古代の兵器、ゴーレムは面々を見つけるたびにビームを放ってきた。
罠だらけだった迷いの森とは違い、ここでは純粋に戦力が求められるようだ。
というわけで、ここは腕力、知力、体力での判定を行うことになる。
…判定中…
成功者 9/30
おお、なんと過酷な道のりだろうか!
歩いている最中、皆が壁の装飾だと思い込んでいたゴーレムがふいに動き出した。その数、なんと12体。
挟み撃ちで、このままではパーティーの全滅すらもあり得る危機だ。
「ちょっと待ちなさい! ここはアタシが相手よ!」
御者のマダムターボが怒鳴る。濃いめピンク色パーマの70代おばあちゃんは、なんと馬車を連れていた。迷宮に馬車が入れないのはドラクエ4からのお約束だが、そんなものマダムターボにはまるで関係なかった。
「フッ、魚介類の王、佐波を12体のゴーレムごときで倒せるとでも思うたか」
両手に騎士剣のように鯖をもつ佐波が、颯爽と前に出た。
「普通すぎる俺だって……英雄らしいこと、してみたかったんでね!」
大学生のヤマモトは、長さ2mの鉄の棒を握りしめていた。ゴーレムに効く武器だとは思えないが、しかしそれでも意志があれば困難に立ち向かうことはできるだろう。
『さあ、早く行け!』
三人に託し、残る27人は走り出す。
後ろから三人のいた回廊が崩れ落ちる音が聞こえてきたけれど……でも、パーティーメンバーたちは振り返らなかった。
それが彼らへの弔いとなるのだから。
塔はあまりにも険しく、上っている最中で体力のないヤクルト販売のヤクルトが息切れして死んだ。ピルクル(飲み物)ではHPは回復しなかったのだろう。幸運に全振りした人が今回めちゃくちゃ多かったけれど、こうして幸運の絡まない判定でたぶんドンドン死んてゆくと思います!
さらにどこかの作家先生を幼女化したような外見のてれんちゃんが回廊から足を踏み外して真っ逆さまに地上に落ちていって死んだ。タブレット(石板型アーティファクト)のモニターには落ちていく最中に入力したであろう『我が生涯に一片の悔い無し』の言葉が遺されていた。
さらに襲いかかるゴーレムは意志をもたない純粋な破壊者だ。その相手を続けることは、心身をすり減らす。
料理人のゆかちょは、すり減った心身を整えるためにその場で料理を始めた。振る舞う料理は茹でたカニであり、それは一同の体力を回復させた。しかし、塔の中で火を使ってしまったことで消火ゴーレムが緊急出動してきた。逃げ遅れたゆかちょは小さく畳んで仕舞われて死んだ。
同じように肉屋のオヤジ、ミ・ソも近くにあった適当な腐った肉を焼こうとしていたので、消火ゴーレムの巻き添えにあった。ちなみにこの腐った肉はしかばねという名の参加者で、容姿が「へんじがない。ただの しかばね のようだ」だったので、判定とかは特に失敗していないけれどどこかで排除しようと思っていたので、この機会に脱落させた。最初から生き残る気がないじゃん!
髪はひとつのお団子にまとめている。ころころと表情が変わる女の子。
和菓子屋の市庭団子は、道中でゆかちょと仲良くなっていたらしく、相棒が死んだことに心を痛めて消火ゴーレムを串団子でめった刺しにし、消火ゴーレムを81体倒したところで力尽きて倒れた。凄まじい活躍だった。
さらに錬金術師のラヴィニア・ウィリアムスは……って、ラヴィニアちゃんじゃん! なんでこういうのをわたしの企画に出しちゃうんだよ! 容姿説明『かわいい』って、ラヴィニアちゃんがかわいいのはとっくに知ってるよ! 殺したくないよラヴィニアちゃんは! でも殺さないといけないのでなんやあって死んだ。たぶんどこかでアビゲイルちゃんと幸せに暮らしているだろう……。ていうかアビゲイルちゃんも参加者にいたんだよな……。つらい。
塔の途中にはエレベーターがあった。これでさらに上階へと進むことができるらしい。しかしその横にはわざとらしく自転車が五台置いてあった。自転車をこぐことによって、エレベーターを動かすことができるようだ。
残ったメンバーの中で、体力自慢がそれぞれ自転車にまたがる。それがとてつもなく危険な仕事だと知っていて、なお!
「ま、こういうのは俺に任せておけって」
自分を死神とか言う痛い人の玲は、ヘルファイア・ショットガン二丁流(名前で検索していただければわかるかと)を引き抜き、自転車をこぎ始める。みるみるうちにエレベーターの魔力メーターが高まってゆく。
「そうそう、アンタらは上に行かなきゃならないんだろ?」
凄腕警備員のリョウゴも、遠隔操作できる浮遊する長剣2本を操りながら自転車をこいだ。無職とニート多すぎないかな!?
「やれやれ、魔力が必要っていうんだったら、あたしがやらなきゃいけないもんね」
青い右サイドテールの女の子。魔法使いらしく黒いローブに身を包んでいる。普段の武器は魔法使いらしく杖なのだが…今回は杖を家に忘れてしまい、何故か悪乗り大好きな友人から贈られた戦闘用ハシゴを使うことになった。身長が低いことが悩みなのが分かってのことなのかっ!とりあえず、生き残ったら一言言わせてもらおうと思っている(原文ママ)のカレン・パーツェンも必死に自転車を漕ぐ。額を汗が伝う。
「そういうダンジョンってことね、はいはい、もうわかっているわよ」
ダンジョンマスターのマリーは、金髪ロリだけど裏ではタバコ吸ってる悪い顔をしながらも、仲間のために命を賭けようとしていた。焔神剣(ほのおが でる つるぎ)がその心意気に呼応したかのように燃え上がる。
「ふう、こういうのは僕には不向きだと思うんですけどね?」
憎まれ口をたたきながらも、ゾンビに惹かれてやってきた学者のなのかもたないは全力で自転車をこぐ。
五人の力でエレベーターはこの階まで到達した。
だが──。
残る面々が振り返ると、そこには息絶えた五人の姿が……。
「しっ、死んでる……」
彼らは命尽きるまで自転車を漕いだのだ。それは一分一秒を争うこの塔攻略において、値千金の活躍だっただろう。もし王国を奪還した暁にはきっと、英雄として永遠にその名は石碑に刻まれるに違いない──。
死力を振り絞り自転車を漕いだ五人の亡骸をそこに残したまま、一同は上を目指す。
一同が無意識のうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった。涙は流さなかったが、無言の男の詩があった。奇妙な友情があった……。
さて、この先にいったいどんなものが待ち構えているのか。
塔はまだ、続く。