3オブザデッド
さて、チホウの町の戦いを仲間に任せて。
こちらは迷いの森に向かった1パーティー30名である。
迷いの森に眠るという秘宝を求めて、やってきた勇士たちだ。
森の入り口には『1パーティー6人までで組むように』という看板が立っていたので、迷いの森チームの力自慢である少女ミミ・シエスタはその看板を引っこ抜いて背負っていた宝箱に放り込んだ。
「これでこの森を支配していたパーティールールは消え去りました。30人で入りましょう」
なるほど、トンチだ。
それでいいのかという気はしつつも、一同は獣道を踏み固めながら、数の暴力でどんどんと進んでゆく。
迷いの森というだけあり、トレント系の魔物や、あるいはキラービーなどの昆虫系の魔物が多く生息していたが、こちらは1パーティー30人。遠距離攻撃も支援魔法も山ほど積んである。
さしたる苦戦は(30人のメンバー表を見つつ)……戦闘職がほとんどいない……これは普通に攻略できないのでは……まあ、うん、さしたる苦戦はしなかった。戦闘職じゃなくてもパラメーターの合計値が10もあるからね! いけるいける!
しかし迷いの森は常に人を迷わせようと罠を仕掛け続けている。これは腕力だけでは決して解決できない問題だ。
というわけで、ここで最初の判定である。
迷いの森に踏み入った30人は、腕力以外の数値(知力・体力・幸運)で判定だ。クリアーしたものだけが先に進むことができる!
…判定中…
成功者 14/30
「あれれえ? もしかしてこの道、さっきも通りませんでしたかねえ?」
と、声をあげたのは、先頭をずんずんと歩いていた赤いマスクをかぶった2mのプロレスラー、マスクドツーダⅦ世だ。
ふふん、と顎に手を当てて前に進み出てきたのは、フォルステリ帝国皇帝(自称)のアプテノディテス一世。
「なにを言っている。これだから下賤な血の者は。世が道を間違えるはずがなかろうて」
そんなことを言っていると、地面がぱっかりと割れた。「へ?」と素っ頓狂な声をあげ、ふたりは落下。がぶりと何者かに飲み込まれた。
「マスクドツーダ! アプテノディテスー!」
後方事務のあかとなが叫ぶ。
そこには擬態した何者かが存在していた。
「おおーっとあれは腐葉土トレントー! 落ち葉に紛れる魔物ですよ! ここには大量のトレントが生息していますね! わたしたちはもしかしたら罠に巻き込まれたのかもしれません、要チェックですよ!」
記者のミーーナがメモ帳にペンを走らせながら興奮した面持ちで言う。その横っ面がトレントパンチをまともに浴びて、頭だけが転がってゆく。
一同は震え上がった。
しかしここには、知力10のエルフ、ルーティリアの姿が!
「安心してください、皆さん! 森はエルフの庭です! わたしが彼らを説得してみせますから!」
ルーティリアは弓を置いて、両手を広げた。
「わたしたちは敵対の意志はありません。アンデッド軍団を倒すために、秘宝をお借りしたいだけなのです!」
『……』
トレントたちは無言でメンバーの中のひとりを指差した。
そこには、杉の木の丸太を抱えた、花粉ばら撒き隊隊長、花粉症之助がいた。
「え?」
そう、森にとって本当の敵は人間ではなく──外来種!
スギは森に住む動物に多くの恵みをもたらすけれど、しかしそれは無理矢理、生態系を変えてしまうという問題を引き起こす。
苛烈なまでに敵対行動を引き起こすトレントは、杉の木を恐れていたのだ。これでは一同全員殺されても仕方ない。平和な森に杉の木をもってくるというのは、それほどの罪だったのだ。
「ああ、なんてことを!」とルーティリアは涙をはらはらと流す。彼女は怒り狂うトレントに叩き潰されて絶命した。
もはやトレントに説得は一切通じない。迷いの森は戦場と化したのだ──。
「くそ、こんなところで死んでたまるかよぉ! 俺は社会の歯車なんだ! 社会に帰るんだよ!」
社会の歯車である、永久機関は腰痛を窺わせる金属音を鳴らして、てきのとくぼうをがくっとさげていた! けれど、残念ながらここに迷い込んだ16人は誰も魔法が使えなかったので意味がなかった。殴られて死んだ。
いや、ひとりだけいる! 闇の魔術を操る伊切 実来火だ。超厨二病っぽい服を着て、超イキってて人を見下しているその人は、しかし「はぁ? 命中85%のきんぞくおんとか今時使うわけねえしw 100%のうそなきを覚えてこいやw」とかイキってる間に魔術を使う暇なく物理攻撃を食らってぺしゃんこになった。(ポケモンわざ監修:鰤/牙)
「ひいい、わたしとか食べてもおいしくないですよ!」
後方事務のあかとなはトランクケースを振り回して応戦したが、しかし四方八方から押し寄せてくるトレントに叩き潰された。トレントは好き嫌いしない。人の死体はすべて栄養になるのだ。
「待って! 僕には愛があるんだ! ラブアンドピース!」
職業人間で愛を武器にもつまぎしゅーはそんなことを言っていたけれど、彼らは人間ではなかったので通じなかった。わかり合うことはできない。わかり合えない悲しみのまま、まぎしゅーは腐葉土トレントに飲み込まれた。
「ホアチャァー!」
そんな中、必死に応戦していたのはジャンキー・チェン。カンフー映画アクターで(ファンタジーの世界で映画とは)三節棍を武器にもつアジア人だ(アジアとは?)。四方八方のトレントの枝を払い、さばき続けていた。木人相手の戦いなら慣れている! しかし味方を守りながらでは限界があった。彼は最後まで仲間を守り戦い、命を落とした。
情報収集能力に長けた加賀野充はSEだ。ターンッ!とパソコンを叩いて、この行き止まりからの脱出経路を導き出す。「あっちだ!」 叫んだが彼自身はもうトレントに囲まれてしまっていた。「殿下を……頼んだぜ」と親指を立てながらトレントの養分になる運命だった。
残る六人は走る。しかし花粉症之助が立ち止まった。
「すまないみんな、俺のせいで……。やはりここは俺が責任を取るべきだろう」
ガスマスクをつけているのでシュコーシュコーとしか聞こえなかったが、彼がなにか決意をしているというのは他のみんなにもわかった。トレントの前にひとり、立ちはだかる。
「さあ来い! 丸太の力を思い知らせてやる!」
「お前一人にいい格好はさせないぜ!」
フライパンを抱えたコック、トカラゲ・ジッパーヒも飛び出した。鼻炎持ちのニート、シューティッシュもだ。
「俺が、っくしゅん! 一緒にっ、っくしゅん! やる、くっしゅん! っす!」
明らかにそれは隣に立つ花粉症乃助のせいではないだろうかと思った一同だが、高まったムードはもう誰にも止められない。三人は飛び出した。
彼らは戻らなかった。けれど、その魂はきっと高潔な空で輝き続けるのだろう──。
一方、逃げた三人。永瀬-iiとベン・トゥーヤ、そしてメメ太だが。
迷いの森は決して彼らを逃さなかった。逃げた先が正しいルートであろうと、すぐにまた人を迷わせる仕掛けが発生する。
「そうだ、ランタン!」
永瀬-ⅱは手にもっていたランタンを地面に叩きつけた。燃え広がる火でトレントたちは怯んだが、しかしキラービーの群れまでは押し返すことができない。
「ええい弁当! 弁当はいらんかね!」
弁当運びのベン・トゥーヤは天秤竿を振り回すも、焼け石に水。蜂は容赦なく人間たちに襲いかかる。
「やれやれ」と旅好きのかえる、メメ太はその場に腰を下ろす。
「オイラの旅も、ここまでってことか。ま、なかなか楽しい人生だったよ」
メメ太はよつ葉のクローバーを口にくわえ、空を見上げる。
「殿下、がんばって王国を取り戻してくれよ。オイラたちはお空からそれを見守ってるからさ……。ああ、いい旅だったなあ」
そして、三人の命もここで尽きたのだった。
迷いの森チーム、残り14名!