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21オブザデッド


 かつて数百年も昔──王国の隣にはひとつの美しい国があった。


 そこにはひとりの姫、長い金髪のフェフィーナというそれはそれは美しい姫がいたという。


 フェフィーナは優しく、誰からも愛される少女だったが、珍しい病気をわずらっていた。それは外見が成長しないという病だ。9才以降成長しない彼女はたくさんの医師に診られたが、結局その原因はわからなかった。


 いつまでも幼い体のまま、美しい姿を保つフェフィーナの噂は風に乗ってどこまでも流れてゆく。


 えっ、一生成長しない幼女とか最高じゃん! という王子たちはそんなフェフィーナを嫁にほしいとは願っていたが、しかし世間体の問題でなかなか求婚するわけにはいかなかった。


 フェフィーナもまた、こんな大人になれない体を嫌がっていて、やがて国は医師ではなく魔術師に依頼をするようになっていった。


 そんなある日、あの男が現れた。



 小太りで、ところどころ薄汚れたスウェットは腹の部分がぴっちぴち。髪はボサボサで、ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた顔は脂ぎっている。まるで寝起きの様に曇った眼の男は、集まる視線を物ともせずにやや甲高い声で「ウヒヒッ」と笑った。(原文ママ)(作者に許可を取っています)


「なるほどなるほど、君がフェフィーナちゃんだねえ」

「あっ、あの……は、はい……」

「なーるほど、いつまでも幼女なんだねぇ、ふぅん、それはそーれは大変だねぇ」


 舐め回すような視線に、フェフィーナは身を縮こませる。


 しかしこの男は高名な魔術師。この男に解けぬ呪いはないとまで言われている。


 その通り、男はフェフィーナをひと目見ただけで、その呪いの正体を看破した。


「うーん、これはどうやら土地の呪いだねえ。(ホントは先天性のただの病気だけど、適当なことを言って恩を売っちゃおう!)」

「そ、そうなんですか? どうすればわたくしは、よくなりますか……?」

「だったら、僕と一緒に来てもらわないと! ウヒヒッ」


 家臣が一団となって止めた。


 特に姫を慕う七王魔術師たちは姫をあんなわけのわからない男に預けることだけは避けたかったのだ。けれど、姫は首を横に振った。


「わたくしがいつまでも婚姻できなければ、王家としての役目を全うしたとは言えません……。お願いです、魔術師さまと一緒に行かせてください」


 そう懇願されては、ついに魔術師たちは首を縦に振るしかなかった。


 魔術師とともに北の祠に向かった姫だったが、国に災厄が訪れたのは間もなくのことだった。


 国はおびただしいほどのアンデッドの軍団に襲われ、壊滅したのだ。


 それらはすべて、姫を手中に収めようとする悪の魔術師が行ったことだった。


 姫は自由を奪われた。


 しかし、物語はここでは終わらない。


 国が誇る七王魔術師が姫を悪の魔術師から取り返したのだ。


 姫の病気はいつまでも治らず、婚姻することもなかったが、けれど国は栄え、人々は笑顔で平和に暮らしたのだという。


 一件落着である──。





 しかし、悲劇はその数百年後に起きた。


 今に戻り。


 破滅の魔術師ことフェフィーナは涙ながらに語る。


「わたくしたちは永久の眠りについたはずでした……けれど、その墓が突如として暴かれてしまったのです」

「フェフィーナ姫は、アンデッドだったの……!?」

「はい。魔術を操るアンデッド、リッチです」


 フェフィーナは粛々とうなずく。


「封印したはずの悪の魔術師は目覚め、『今度は国がほしいんだよねー!』と言って、わたくしを王国に送り込み、大臣として仕えさせたのです……。けれど、いい加減らちがあかなくなって、アンデッド軍団を攻め込ませて……わたくしが、殿下の国をかばいきれなかったんです。悪いのはすべてわたくしです……」

「どうりでわたしが生まれた頃からいるフェフさんが、いつまでも幼女のままだと思った……」


 そういう世界観だと思ったのだが、違ったようだ。


「あの方の命令に、わたくしたちは逆らえません。一緒に行けば、きっと殿下に迷惑がかかります。わたくしはここで殿下の無事を祈っております」

「でも、わたくしたち、っていうと……」

「はい。あの方が『四天王』と呼んでいたものは、かつてわたくしに仕えてくれた七王魔術師たちです。わたくしを含めて八人もいるのに『だって四天王って響きかっこいーじゃん! ウヒヒッ』って笑っていて……」

「なんてことだ」


 つまり、七王魔術師と姫は、望まぬ戦いをさせられていたということか。


「もうここはわたくしたちの時代ではなく、今を生きる者たちが過ごす世界。皆さまの平和を脅かしてしまって、本当にすみません……。しかし、どうかお願い申し上げます。厚かましいお願いではございますが、あの悪の魔術師を今度こそ滅ぼして、そして七王魔術師の魂を眠らせてあげてください……。わたくしのことはどうされても構いません。だから、あの方たちだけは……」


 殿下はさめざめと涙を流すフェフィーナの頭を撫でた。


「もちろんだよ、フェフィーナ。ずっとフェフィーナにはよくしてもらっていたんだ。フェフィーナの願いは、わたしが叶えるよ」

「殿下……っ」


 ぱあっとフェフィーナの顔が輝いた。


「それで、この秘宝があれば悪の魔術師を今度こそ封印ではなく、退治することができるんだね?」

「はい、そのはずです! どうか殿下、お願いします」


 フェフィーナは深々と頭を下げた。



「この世界と、この国と、そしてすべての眠れる死者の魂を救ってください──」


 殿下は笑って、その幼女の手を取った。


「任せて。わたしと──そして、生き残った86人の勇士が、それを成し遂げるとも!」



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