20オブザデッド
破滅の魔術師は両手を広げて通せんぼをしている。
なんだったらその間を抜けていくことだってできそうだが、破滅の魔術師の周囲には邪悪のオーラが漂っている。特殊英雄ユニットである破滅の魔術師の固有能力だ。
やはり、破滅の魔術師を倒すしかない。これ以上被害が増える前に!
「覚悟、魔術師め!」
警備部隊長ザミナントはライフルを立て続けに発射した。鉄板を軽々と貫くその弾丸はしかし、破滅の魔術師の結界を打ち破ることはできなかった。
それどころか跳ね返ってきた弾丸でザミナントは頭部を吹き飛ばされた。
「反射能力!? これ、無視したほうがよくないっすか!?」
遊び人。人?のげぇこは、黄金に輝くがまがえるだ。大跳躍して魔術師を飛び越えようとするも、魔術師が振るった杖の瘴気を浴びてドロドロに溶けてゆく。
「わははは!」
魔術師の笑い声があたりに響き渡る。
白熊のきぐるみを着た獣戦士、のすおのすのすは、ならばと接近してその鋭いショッピングカートで魔術師を轢き殺そうと挑む。が、ダメ! 近づくだけでショッピングカートごとドロドロに溶けてしまった。
いや、よく見ればその結界にヒビが入っているぞ!
「なるほど、倒すのは不可能じゃないってわけね」
異世界の女神サニーが、目からビームを放つ。しかし、それも反射され、サニーは胸を貫かれて死亡した。秘宝探索組の生き残りがまたひとり。
みかみてれんのことを愛しているストーカー(男)が、みかみてれんのためならば! と魔術師に殴りかかっていく。結界にさらに大きなヒビを与え、みかみてれんのことを愛しているストーカー(男)は絶命した。
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーは、至近距離から二丁拳銃で結界に弾丸を叩き込む。跳弾が辺りに弾け、結界の中で破滅の魔術師ははわわと慌てていた。
「そんなことをしたら、自分たちも死んじゃうんだぞ! なんでそんなことを!」
「Make bold choices and make mistakes. It’s all those things that add up to the person you become.」
アンジェリーナ・ジョリーは名言らしいセリフをはいて、そのまま前のめりに倒れ込んだ。彼女はもう動かなかった。
結界に明らかなヒビが入っている破滅の魔術師は、地団駄を踏んで喚き立てる。
「お前たちどうにかしてるよ! 生きたいんだったら生きればいいじゃん! どうして自分たちから死ぬようなことを!」
「どすこーい!」
相撲取りの千秋楽 ちゃん子が結界に向かって失恋のハリケーン張り手を繰り出してくる。もちろん瘴気をまともに浴びるので、その生命力は刻一刻とすり減ってゆくが、それでもだ。
「ええい、ビックフット!」
上から落ちてきた巨大な足が千秋楽 ちゃん子を踏み潰す。破滅の魔術師、虎の子の召喚魔法だ。魔術師は息を切らしている。
「もう諦めて降参しなよ! そうしたら命だけは許してあげるから!」
「この食倒れ戦士Xはな」
連続無銭飲食犯は指を三本立てた。
「やらないと決めたことがある。人に飯をオゴること。飯を残すこと。そして──腹減っているやつの飯を奪うことだ。破滅の魔術師。あんたたちは王国の国土を奪った。それは飯を奪うことに他ならねえ。俺はあんたたちを許さない」
「ばかな!」
破滅の魔術師の放った魔法弾が、食倒れ戦士Xの心臓を穿つ。
「そんなもののために、死ぬっていうの!?」
「そんなものとはいいますが、大事なことですよ」
「えっ」
目の前にいたのはキリストだった。職業:かみさまで、武器はそんなものありません、だ。外見はキリストである。このキャラを作った人はどういう目的でキリストを出したのか。思わずメッセージ送って直接聞こうかと思ったよ。死ぬ企画だよ……? 案の定瘴気を浴びて死んだ。
道化師のユニィはitのピエロの姿で前に歩み出てくる。破滅の魔術師にモノマネをした。
「倒せたのは、たった八人だけですか。なかなか手ごわいですね、みなさん」
「なぜこのタイミングで昏き豆の魔術師のモノマネを!」
わからない。ユニィはドロドロに溶かされた。溶ける瞬間のitのピエロはすごいこわかった。
破滅の魔術師が怖がっている間に、巡回騎士のジョン・スミスが支給品の直剣を結界の隙間に突き刺した。ついにパリィィィンと結界が割れる。破滅の魔術師から至近距離の魔法を浴びて上半身が吹き飛んだものの、最後の表情は満足げであった。
「なぜならば、我らは人だからだ! 人は自分ではなく、後のものに意志を託すことができるのだ!」
ウラジーミル・レーニンが優れた演説で破滅の魔術師の胸を打つ。破滅の魔術師はそんなもの認められないとばかりに叫び返す。
「だったら、人じゃないものは、どうすればいいんだよお!」
瘴気に包まれたウラジーミル・レーニンは人の形を保てなくなる。それでも、もはや憂いはない。王国は残されたものたちがきっと取り戻してくれるだろうから──。
結界が破壊されただけではなく、破滅の魔術師はなにか大切なものを否定されたような顔であちこちに瘴気を放つ。
「だって僕は、僕は──」
「なにをこわがっているんですか! なにを泣いているんですか!」
鍋で瘴気を受け止めた魔女、さちはらが破滅の魔術師に問う。鍋ごときでは瘴気を受け止めるのも一瞬しか持たず、全身がグズグズになって溶けてゆく。しかし言葉は確かに届いた。破滅の魔術師はそこで初めて気づいてハッとした。
「僕が、泣いて……そんな」
はらはらと両目からは涙がこぼれていた。
「今だ死ねえ!」
平蜘蛛茶釜(爆薬ぎっしり)を抱えて突撃してきた松永弾正久秀に、破滅の魔術師はとっさに瘴気の塊を放った。人は溶けても茶釜は溶けず。破滅の魔術師は至近距離で爆薬の爆発を浴びた。
黒煙の中に24歳、学生ですの鈴木が飛び込んでいった。その空手は近接戦闘なら破滅の魔術師を圧倒するだろう。しかし、黒煙はいまだにアッツアツだったので普通の学生の鈴木は耐えきれず一酸化炭素中毒で死んだ。
煙が晴れてゆく。破滅の魔術師が見たのは、『進捗どうですか?』と書かれたカンバンをもったプータローのさとちーだ。いくらなんでもプータローに言われたくはねえよ! 自分の胸に手を当ててその言葉を自分の人生に聞いてみろよ! という気分で破滅の魔術師は真顔になって特大の瘴気をぶつけた。本人だけではなくカンバンも消えた。
あと、その場にはエクステのかみが落ちていた。デウス・エクステ・マキナだ。ってそれ神じゃなくて髪やんけーー!!!! 所詮髪なので、打ち捨てられてもう二度と動けなくなった。14話で喋ってた? え、髪が喋るわけないじゃん……こわぁ……。
下級妖魔のしろばらは、なんと正面から瘴気を受け止めた。彼女の腕には今まで倒してきた魔物を吸収した妖魔の小手がある。妖魔の小手はHPが200以上で、なおかつ能力値合計が151以上ないと取得できない装備なのでけっこう強いのだ。てかアセルスx白薔薇すごいいいよね……。エモい……。
「破滅の魔術師さん! もし戦うことが嫌ならそこをどいてください! 今からでも私たちは──」
「──ッ」
しろばらは瘴気を受け止めながらも叫ぶ。が、説得はうまくいかず、その体もしまいには溶けていってしまった。
はぁ、はぁ、と荒い息をつく破滅の魔術師に、殿下が手を差し伸べる。
「大臣。間違えたなら、やり直せばいいんだよ。さあ、ここから共に、歩き出しましょう」
「……殿下……!」
破滅の魔術師は瘴気を霧散させ、再びハラハラと涙を流した。
「実は僕は……いえ、わたくしは……」
そして、破滅の魔術師は真相を語り出す。
王国を巻き込む悲劇と、そして四天王にまつわる悲しい物語を──。