19オブザデッド
城下前の正門で、天に一対の輝きが満ちていた。
殿下はそれをちらりと横目に、決して振り返らず先に進む。
自分たちは200人以上の尊い犠牲の上に、今ここまでたどり着いたというのを忘れてはいけない。
アンデッド軍団に襲われた王国の民は、周辺国に散り散りに逃げていった。
しかし村や町がすべての民を受け入れることなどできない。また、旅の道中にはゴブリンとかクラーケン、デスバハムートが出没するので危険がいっぱいだ。多くの民はいまだ危険に震えながら眠れぬ日々を過ごしているだろう。
たとえ、王国がアンデッドの手によって荒れ果てていても、一から土地を開梱することに比べれば、手間は遥かに違う。
そしてなにより、この王国は民が過ごした土地なのだ。故郷であり、これからも生きて子孫に代々引き継いでいく土地なのだ。
なればこそ、アンデッド軍団から王国を奪還することは、王国を取り戻すことだけではなく、民の心を取り戻すことにも繋がるだろう。
国とは人、人が国なのだから──。
じゃりっと砕けたレンガを踏みしめながら進む114人の軍勢。1/3となってしまった兵士たちの顔には悲痛な決意が宿る。114人もいんのかよ! あと五話しかないんだぞ!!
まあまあ、それはいい。
一同が歩いているそのときだ。ひょこっと後ろから大臣の鹿角フェフが現れた。
「ふっふっふ、ずいぶんとまだ人数が残っているねえ」
「フェフ大臣、戦闘職じゃないんだから前に出たら危ないよ」
フェフ大臣はそこで指を振った「ちっちっち」
「実は僕は……なんと、悪の四天王のひとりなのでした!」
『えっ!?』
その言葉に114人+殿下は驚愕する。
まさか、フェフさんが悪の四天王のひとりだったなんて! そんなの、夢にも思わなかった! ばかな! 信じてたのに! 裏切られた!
「でも、黒幕じゃないって!」
「僕はただの下っ端だよん。だから、黒幕じゃないでしょ?」
フェフさんはにこぱっと笑いながらも、数瞬後には邪悪な笑みを浮かべていた。とてとてと王国城の正門の前に立ち、小さなおててをいっぱいに広げた。
「というわけで、ここから先は通さないのだ! ここで30人ぐらい殺しちゃわないと、エピローグが書けなくなっちゃうからね!」
なんてことだ!
フェフは衣装を闇の魔術師っぽいものにチェンジし、先端にビットコインのマークがついた杖を掲げる。
「ではでは、コホン……四天王がひとり、破滅の魔術師、鹿角フェフ。故あってここから先は通さぬぞー!」
七人目の四天王戦が始まる──!
今まで○○で判定するのだ! という文面を書く手間が惜しかったけど、ちゃんと判定はしていたので、ここでも判定をするのである!
さあ、鹿角フェフの邪悪な魔法をくぐりぬける幸運か体力の持ち主は、何人いるのか!
まずファンブルで判定に失敗した者が8人いるので、そちらから行おう!
「くらえー!」
破滅の魔術師が杖を振りかざすと、当たりには邪悪な力が満ちた。この邪悪さは心清らかなものが浴びると瞬く間に絶命するという恐ろしい力だ。殿下はもちろん心清らかなので、後ろに引っ込んでゆく。
まずキャス子が浴びた。キャス子は……城だ。城なのだ。全長120メートルぐらいある城だ。ずっと今まで一緒に活動していた城だ。これぞ西洋の城といった見た目だが、そこはかとない色気を漂わせている。運悪く王国城に抜擢されたばかりに荒れ果てさせられてしまう……。もうそういうことだ。城はあっという間に倒壊した。辺りには凄まじい残骸が降り注ぐ。
その破片にあたって研究者(専門:生物、化学)のオーリが知らず知らずのうちに死んでいた。最後にメガネがキラーンと光ったのを、読者のみなさんがだけが見ていたことだろう。
続いて、非常に心清らかなティラノサウルスが死んだ。ティラノサウルスです。え、今まで描写してないだけでずっと一緒にいたけど? ティラノサウルス。ほら、一緒に宴もしていたじゃん。そういうことだよ!
忍者のジェーン・ドウも死んだ。忍者は本来善のものはなれないのだが、恐らく転じたときに忍者になったのだろう。金髪美少女11歳全裸なので、フェフさんは「肌は見せないほうがかわいいよ!」とプンプンしてた。わたしとしてはどっちもいいと思う。
背中に二本のキノコが生えた1メートル越えのカエルであるカエルきのこもばったりと倒れた。人間じゃないの多くない? やはり人の心は汚れているということか……。
ベリー・キッシュも邪悪な力に包まれる。ああっ、古代の塔の生き残りが、ここにきて! 幼子は苦しみながら倒れていった。破滅の魔術師、許すまじ……。
続いて、白雪姫だ。レッドアイズホワイトうさぎさんで、これも動物だ。知力10のうさぎさんはぽてっと倒れる。頭が良くなるほど無垢でいられなくなるのが世の常だけれど、白雪姫はそれでもピュアな心を忘れずにいてくれたというのに……。
最後に鍛冶師見習いのアキバコがファンブルで倒れた。その手は最後までヤットコを握っていた。彼は秘宝であるエクスカリバーを触り、いつか俺もこんな武器を作ってみてえ!と夢を抱いていたのだ。彼の犠牲をわたしたちは決して忘れないだろう。
さあ、反撃に移る番だ。正義の力で立ちはだかる四天王を、打ち砕くのだ!