14オブザデッド
「あ!」
と叫んだのは殿下だった。
辺りは壁もなく、どこまでも白い世界が続いている。
「なんだここは! いつも通ってた道じゃないんだけど!」
ふうむ、と顎を撫でるのは、印刷会社勤務の小田 孝宏だ。
「ここは神々の住む世界ですね。私も一度営業に来たことがあるからよく覚えています」
「神々は人間が同じ世界にやってくることを非常に嫌がります。私もかみですからね、よくわかります」
デウス・エクステ・マキナが大きくうなずいた。武器がエクステ、外見がエクステのやつだ。こんなのを突っ込まされる作者の気になってみろ! それ神じゃなくて髪やないかーー!!! ぶっ殺すぞ!!!!
寝ずに14話まで書いてきたので、いい加減気が立っているのだ。
「でもどうしてこんなところに飛んじゃったんだろう……まさか、何者かがワープゲートに細工を……?」
あり得る。あの四天王の魔力ならば、十分に可能だろう。
出てきたところのワープゲートはもう消えてしまっている。というわけで、先に進んで新たなワープゲートを見つけて元の世界に帰らなければ。
「じゃあ見つからないように、こっそりといこう」
「無駄だと思うぞ。神は全知全能の存在。我々がこの世界に来たことなどとっくにお見通しだ」
冒険者のえびみそが見てきたように語る。そこでどこからか声がした。
『いと小さき者たちよ。なぜこの世界に来た』
頭の中に直接響いてくる! これは神の声だ!
「いや、迷い込んだだけで、他意はないんです!」
殿下が必死に手を振るけれど、神はその言葉を信ずるに値しなかった。むしろ、どうでもいいと思っているのだろう。
『では、我の暇つぶしに付き合うがいい、いと小さき者たち──』
一同の前に現れたのは、きらめく12枚の翼をもつ巨大な神だった。創造神ナヒ=トクェジロプが話も聞かずに襲い掛かってくる!
「ええい、もうやるしかないのか! 散開!」
殿下は腕を振り上げ、王国軍に指示を下す。
「わたしたちは王国を悪しき魔術師から取り戻す戦いの途中なんだ! それなのに逃げてなんていられるか! 相手がどんな相手でも! たとえ創造神でも!」
何人かが「いやその理屈はおかしいんじゃ」と口にしたが、どっちみちやるしかないのなら迷っていられないのだ!
創造神は凄まじい魔力を発生させており、近づくことすらできないだろう。まずはあの魔力のバリアを破壊しなければ。
そこでバンドマンの38kが小粋なビートに乗って、ひとつの壺を掲げた。それは思わず撫でたくなるような可愛らしい(自称)外見で、壺の中は蜂蜜と酒で満たされていて、少し上の口から飛び出ている。ものだ。そう、ありとあらゆる神話で神というのは酒に弱いもの。それならばこれを喰らえ!
効果はてきめんだった。酒と蜂蜜を浴びた神のバリアが砕け散った。だがその散乱したバリアの破片に貫かれ、まず壺が割れて38kが心臓を破られた。
続いてガチャ爆死芸人の爆死マンが神の目を引きつける。「アビゲイルを出すために○○万つぎ込みました! けど、出ませんでした!」
その叫びに神も『え、マジかよ……』という顔になって同情してくれた。その隙に竹箒をもった雑貨屋の娘ティカが「えいやあ!」と横っ面を叩く。クリーンヒット。神はめちゃくちゃ痛がっている。
しかしダメージを与えたはいいものの、我に返った神が爆死マンとティカに雷を落とす。ティカのトレードマークのポニーテールは黒焦げになり、爆死マンのスマホのデータが消え、爆死した過去もろとも失われた。ふたりは死亡した。
戦士のゼルラは短剣と長剣を握りしめて神に特攻するが、しかしただの鉄の剣ではダメージを与えることができない。そこで「待て」と人の武器を改造したがる鍛冶屋のヒゲもじゃドワーフ、JIROが手を出した。
「その武器、貸せ。俺が鍛えてやる」
「……任せた。皆を守るための戦いだ」
「ああ」
その時間をかせぐために、寿司職人の泡が一生懸命寿司を握り始める。具材は水族館の展示品で、どことなくラストリゾート感が漂っている魚、浅浦イサキだ。「へいおまち!」 その寿司は舌の上でとろけるような味わい。絶品のグルメに創造神も思わず舌鼓を打つ。が、わさびが入れすぎてあった。『からい!』 神の怒りによって浅浦イサキと泡は砕け散った。
だったら俺が! とラーメン屋さんのチャルメラがラーメンを差し出した。しょうゆの細麺だ。この自信作は神もうなるに違いない。だが神はラーメンを受け取らなかった。猫舌だったのだ。チャルメラは手のひらで叩き潰された。
メイはお城勤めのメイドだ。指先から出るビームで神のヒゲを焼き切る。ヒゲは男の命というほど大切なものなのに、メイド型アンドロイドなので地も涙もない。
『おのれ、小さき者め──!』
魔力の炎をメイが浴びようかというそのとき、マッチョのマチョ太郎が前に出た。昔話のネーミングセンスかよ! マチョ太郎は偶然持っていた筋肉を使い、メイをかばって息絶える。メイはその場でハラハラと涙を流した。これが、ココロ……。ココロに目覚めたメイはあまりの悲しみに自ら機能を停止してしまった。
旅人のコロマルは二丁銃を操り、神の両目を撃ち抜く。瞬時に回復されてしまうが、それでも時間稼ぎは成った。「今だ、やっちまえ!」 発射した弾丸を跳ね返され、脳漿をぶち撒けることになっても、彼の顔は穏やかだった。
"勇者"****が神の雷を正面にから受け止め、その雷をまとった剣で神を斬り裂く。斜めに斬り裂かれた神は苦悶の声をあげた。決死の魔力を正面から浴びた"勇者"****は息絶える。ここには生き返してくれる王様もいない。
「できたぜ……俺の、魂の剣だ……」
JIROが短剣と長剣を鍛え、超短剣と超長剣に進化させた。その進化と引き換えにJIROは命を落としたけれど、ゼルラは確信した。この剣ならば、神をも殺せるだろう、と。
「行くぞ──! これが、仲間と俺の、魂の一撃だ──!」
ゼルラが命と引き換えに放った二刀の斬撃は、神の体を十字に斬り裂く。
『いと小さき者が、これほどの力をもっているとは──』
その斬撃と、残る180名近くにフルボッコされ、創造神は崩れ落ちてゆく。
王国軍はこうして尊い犠牲のもとに、創造神すらも下した。
創造神が消えたあとに残るのは、ワープゾーンだった。そのワープゾーンは間違いなく洞窟の出口に通じているのだろう。神の遺した最期の置き土産といったところか。
「……先に進もう。わたしたちはもう、後戻りなんてできないんだから」
創造神をも殺し、それでも救わなければならないものがある。
殿下の顔つきはもはや、逃げ延びてきたときの頼りないものではなかった。