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11オブザデッド


 昏き豆の魔術師と、二体の超巨大ゾンビ。そしてスケルトンとゾンビの混合軍隊だ。


 なぜか知らないけれど昏き豆の魔術師に軍隊を率いられるとものすごいマズイことになりそうなので、殿下は気をつけることにした。


 だが、昏き豆の魔術師は戦う気はないようで、優雅にコーヒーを口にしている。のんびりと静観しててくれるなら、ありがたい。


 まずは超巨大ゾンビを仕留めることからだ。


 銀髪ショートの女性の魔法剣士のりめと、ガンマン風の魔法戦士のエツツーダが互いに死角をカバーしながら戦線を斬り裂く。


「右からいきますね!」

「ならばこちらは左から」


 剣から飛ばした魔力は、超巨大ゾンビにも確実にダメージを与えていた。


 しかしそれはあくまでも注意を引きつける役割であり、攻撃するのは遠距離攻撃を主とする者たちだ。


 並の人間ならまず対抗することなんてできない超巨大ゾンビだが、ここはファンタジーの世界。一騎当千の英雄が集った今、超巨大ゾンビ程度で町が落とせるはずがない。


「ここから先は一歩も進ませねえよ!」


 剣士のアルフレッドが超巨大ゾンビの拳を剣で受け流す。そこに大きな鉈を握った女子鋼製、園他 奈士が突っ込んでゆく。が、園他 奈士は超巨大ゾンビの蹴りを食らって活動を停止してしまった。瞳に光が消えた、次の瞬間──。


「…………再起動、再起動」


 パッと光が戻る。再び鉈を振るい、今度は超巨大ゾンビの足を力任せに切り裂いた。彼女はアンドロイドの女の子だ。何回も死んでは再起動してるため、全身を破壊されるまでは動き続けることができるのだ。


 もう一方の超巨大ゾンビも、元・王国騎士団副長兼参謀さいらすと、傭兵の胡兎が足止めに成功していた。


「気を抜くなよ、胡兎!」

「そっちこそ、現役時代に比べてなまっているんじゃないかね?」


 ふたりはかつて共に戦いを生き抜いた歴戦の猛者だ。さらにそれを見守っているすあまの翁は、なにか雰囲気を出しているが別に関係があるわけでもないただのおじいちゃんだ。武器はあの頃らしい。あの頃とはいったい……。


 火力が足りていないというときには、後ろからやってきた爆弾工場長のマスカット爆弾兵がぶどう弾を叩き込む。マスカット柄のTシャツを着た草臥れたゆるキャラらしいが、全然ゆるくはない!


 と、このように超巨大ゾンビもたった二体では飛んで火に入る夏の虫とばかりに仕留められたのだが──。


 昏き豆の魔術師は手を広げ、つぶやく。


「──BOMB」


 超巨大ゾンビが爆裂した。


 そう、これは深き地の底の魔術師が放った爆弾ゾンビと同じ──それを組み上げて作ったものだったのだ。


 地を震わせ、風を燃やし、空まで立ち上るような爆発が終わった後には、巨大なクレーターがふたつ残るだけだった。



 アルフレッド、マスカット爆弾兵、園他 奈士、エツツーダ、さいらす、胡兎、すあまの翁、りめ、の八名は跡形もなく吹き飛んでしまった。


 なんという……。



「倒せたのは、たった八人だけですか。なかなか手ごわいですね、みなさん」


 はわわわわ、と殿下は口を震わせる。なんだこの昏き豆の魔術師、強すぎる……。


 そこで苦々しい顔をした幼女の鹿角フェフがやってきて、むむぅ! と口をとがらせた。


「もうだめだよ、殿下。ここは降参するしかないよ。このままじゃ僕たちみんな殺されちゃうよ! 命あってのものだねでしょ? ね、ね、降参しようよ。降参したらきっと命までは取られないはずだよ!」

「でもあいつ、わたしに与したやつを全員殺すって言ってたよ!?」

「それはね、きっと言葉のあやだよ」

「違うと思うけど!?」


 叫ぶ。その間にもゾンビたちはわらわらとやってくる。アンデッド軍団程度ならなんとかなるが、こんなにも強い四天王がいるんじゃもうダメだ。しかも四天王ってことはあと三人もいるじゃないか!


「怖じ気づくでない、殿下!」


 そこでバケツを被った法衣姿の大男、バトルマスターのヒレ改が発破をかけてくる。


「我らは国を守るために戦うのじゃろう! ならば、仮に負けるかもしれなくても、逃げることだけは許されんぞ!」

「ヒレ改……。確かに!」


 殿下は力強くうなずいた。その瞳には再び正義の輝きが宿る。


「昏き豆の魔術師とやら! お前がどれだけ強いとしても、わたしたちは王国を取り戻す! アンデッド軍団なんかに降参はしないぞ!」

「そうですか、それは残念ですね……私は平和主義なんですが……」


 昏き豆の魔術師は杖を振りかざす。あまりにも強大な魔力を前に、王国軍は震え上がる。


「だったらウチの命と引き換えにはどうや!」


 大道芸人のズットモ=フツカが破道の九十を詠唱しながら、単身昏き豆の魔術師に突撃してゆく。


 そこに続く影があった。


「おっと、お前だけに美味しい思いはさせないぜ」


 元勇者のコック、山田マンだ。元聖剣の包丁は神聖な輝きを帯びている。


 いくら四天王といえど、このふたりが命を賭して放つ一撃ならば──と期待させたのもつかの間。


 昏き豆の魔術師が軽く杖を振るっただけで、ふたりは黒い液体となって水風船のように弾けた。


 なんという絶対的な力だ。これは百人や二百人の犠牲では済まないかもしれない──。



 思ったその直後だ。


「エクス──カリバァあああああああああァ!」


 迷いの森から戻ってきた三人──はにぃ、から、イレーナの三人が聖剣を掲げ、振り下ろす。


「バカな、それは、三大秘宝のひとつ──! なぜ、もう手にして──!」


 だって4話からもう7時間も経っているからね!


 剣先からは聖なる光が溢れ、それは瞬く間に闇の魔術師を討ち滅ぼした。


 クレーターのふたつある平原にはもうなにも残っていなかった。あれほど大量にいたゾンビも、スケルトンも、そして昏き豆の魔術師も、だ。


 秘宝は四天王のひとりを絶命せしめたのだ。


 むしろ秘宝でなければ倒せないほどに凄まじく強い相手だっただろう。


 はぁ、はぁ、と荒い息をつきながらも、生還したはにぃ、から、イレーナは殿下の足元にひざまずく。


「殿下、秘宝を入手してきました!」

「おお、これが、あの……。あれ、でも、もう剣が輝きを失っていない……?」


 エクスカリバーをまざまざと見つめる殿下。先ほど一瞬見かけた尊い片鱗は影も形もない。



 そこで大賢者のトロールがやってきて、重々しく口を開く。


「秘宝は、たった一度しか使えないのじゃ……」

『えっ!?』



 かくして、王国軍は迷いの森の秘宝を消費し、チホウの町を救ったのだ!



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