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コンビニおでんの結び白滝と極東に佇むハスキーについて

作者: パルコ

「秋冬温まる話企画」参加作品でございます。

前回よりは温まるかな……。

 小さくて可愛い店員さんの「ありがとうございましたー」というアニメ声を背にコンビニを出た。おでんが傾かない程度にマンションに戻る道を急ぐ。

「「あ」」

そしたら横断歩道で年下の男友達とばったり。



 友人を自宅マンションに招き入れると彼は見たことのあるカップを袋から出した。

「もしかしておでん買った?」

笑い声を混ぜて訊くと「今日寒いから」と友人はおでんのフタを開けた。私もおでんを食べようとカップを開けた。玉子、大根、はんぺん、こんにゃく、さつま揚げ、白滝を大きいカップに入れてもらった。

「それファイブイレブンのでしょ?」

「なんで?」

「白滝」

友人が私のおでんを覗いて言った。私が買ったおでんの白滝はバンドみたいな太い白滝で結んである。

「確かに他のコンビニとは違うよね」

「他はだって縄跳びみたいになってるじゃん」

「縄跳び! 確かに」

彼の的確な喩えに笑ってしまった。友人のカップを覗くと白滝、昆布巻、大根2つだった。

「あれ? これしか買ってないの?」

「ダイエットです」

友人の答えに「はぁ?」と思った。友人にダイエットの必要はなく、むしろあと10kgはあっても問題ないレベルだ。

「っていうのは嘘で、節約です」

友人は平然とした顔で「いただきます」と言って箸を割った。


 白滝バンドを噛み切って白滝をほどくと麺みたいになって食べやすい。まぁこの白滝だから出来るんだけど。白滝にかぶりつく友人は冷たそうな瞳も相まってなんだかツンドラ地帯の用務犬みたいだった。

「美味しい?」とお茶を出しつつ訊いたら「熱いからよくわかんねッス」とお茶を啜った。

「ねぇコウくん」

「なんでしょう?」

「もう気温もどんどん下がってるし、コンビニ来たら皆おでんに目が行くんだよ」

「……ですな」

「その中でも白滝って、定番だから選ぶ人も多い」

「あぁ、まぁそうッスね」

それは特別なことじゃなくて、当たり前ではある。冬におでんを買って、その中でも白滝を選ぶのはマジョリティなんだと思う。でも、

「コウくんとばったり会って、コウくんも白滝買ってるの見たらさ、シンクロしてるみたいでなんか嬉しかった」

友人は切れ長の目を見開いて私を見ていたけど、すぐにおでんに視線を戻した。

「そういうことは……あまり言わない方が良いです」

昆布巻きを一口で食べた彼は情報番組の『クリスマスグルメ特集』をじっと見ていた。まだカレンダーは秋なのに、世のカップルは来月の予定をすでに立てているのかも知れないと思うと若いのに生き急いでいるみたいで笑えてくる。友人は昆布巻きを飲み込んだ。

「コウくん」

「はい?」

「恋人になってって言ったらどうする?」



 まだそよ風が心地よかった初夏、私は祖父に呼ばれて祖父が利用しているデイサービス施設に来た。その施設の共同スペースで、介護スタッフとして働く青年に会った。

『いい子なんだ。ちっと口は悪ィけど、聞き上手で何かあるとすぐ来てくれてな』

祖父の言葉に相槌を打っていると「藤本さん、お孫さんですか?」と青年が笑顔で祖父の前に来た。

『初めまして、お時間を取らせてしまってすみません』

わざわざ私を呼んだのが、お見合いまがいなことだったとか、その相手が明らかに私より年下だったとか、祖父に対して腹を立てていたものが全部飛んで、「あぁ、彼は置き去りにされたんだ」と―――

『初めまして、祖父がお世話になってます』

もうどうしようもなく、この東洋の小さな島国で迷子になったシベリアンハスキーを抱きしめて、『ひとりで頑張ったね』と言ってやりたかった。



 困ります、と友人は箸を置いて言った。

「どうして?」

「俺をそういう風に思ってくれるの、スゲェ嬉しいです。でも」

「しょうもない理由で断るならすぐ切り捨てるよ私」

彼が断る理由を並べる前に先手を打っておいた。頭の回転は特別早くはないけど、彼を説き伏せるだけの賢さくらいはある。

「俺、年下です」

「それは気にしないよ」

「頭も良くないし金もないし」

「コウくんの話で勉強になることもあるし、ちゃんと自活出来てるんだからいいでしょ?」

「ご家族がなんて言うか……」

「じいちゃんがご機嫌で君の話するから両親も姉ちゃんも賛成だってさ」

「いや……でも……」

「でもじゃないよ」

友人は口を噤んだ。断る理由じゃなくて、私が聞きたいのは―――

「私は…コウくんのこと好きだよ。コウくんはどう思ってるかな?」

彼の声はか細かった。悪い大人だと思うかも知れないけど、ただ私は彼が私に向ける諦めの入った瞳を見たくないだけ。

「好きです……」

「うん」

「好きです……神谷さん」

「……おいで」

彼は私の胸に凭れた。その頭は小さくて、真っ白な頬は少し温かかった。

「神谷さん……。俺、ずっと夢見てて……」


いつか大切な人が出来たら、その人に抱きしめてもらうこと。きっとあたたかくていいにおいがして、それが凄く幸せなことなんじゃないかって。


「…そっか。私は…コウくんの大切な人になれる?」

「それに関しては自信持っていいです」

「ホント?」

フッと零れた笑い声が二人分。おでんの出汁が近くで香る部屋で、彼を強く抱きしめた。


「コウくんはよく頑張ったよ」

「ん? 何それ?」

「私が愛するってことよ」



人肌にすり寄る様子がなんともちぐはぐな。でも、彼の望んだものだ。

お待たせハスキー、このせまい日本で迷子になったお前をやっと抱きしめられる。

実は使い回しキャラクター(笑)

ネタバラシをしたのでもう載せます

①『夏休み×1』

②『夏ノ夜空ニ、散ル花ハ』

③『ホリゾンブルードロップ』

いずれの作品にも神谷の男友達が登場しています。活動報告にもまた今作のネタバラシを載せていますので、気になった方はそちらも是非ご覧ください。


私は大根とちくわぶが好き(*^^*)

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シベリアンハスキー、日本に置き去りの表現がわかりにくかったけれど、何となく寄る辺ない身の色白の人なのかなぁと思いました。いい出会いですね。 おでんが食べたくなるな。
[一言] コンビニのおでん、私も時々買います。けっこうおだしがきいて、しらたきなんかも美味しいですよね。ふうわり、おでんのいい香りの中で、愛情を確かめ合う二人。ステキだな。心がほかほかしてきました。 …
[良い点] お〰で〰ん〰、食べたい!! それも自分で作ったのではなく、コンビニの! あっつあつをハフハフしながら食べたくなりました。 二人が両思いで、一緒におでんを食べたことをきっかけに、告白タイ…
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