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009 奴隷って素晴らしいね

 ずらっと並んでいる奴隷の中で一番高いのは千三百万ドグ。一番低いのは三百万ドグだった。

 ちなみにドグは貨幣単位で、大体平均的な奴隷の価格が二百万から四百万ドグらしい。

 千三百万ドグの子は目の覚めるような美少年であっちの方の技術を一通り仕込んであり、購入後すぐにお使い頂けるそうです。

 きっとどこかのなんとかという貴族のお嬢様であるボクなら買ってくれるのではないかと混ぜ込んだのだろう。ゲスい。

 ちなみにMPの方は下から三番目。


 一番MPを保有しているのは四百万の女性だ。

 年齢は二十二歳であっちの方は並だそうな。あっちの方の情報いるのかな?


「……三、六、八、十一」

「畏まりました、お嬢様」


 全員の情報も出揃ったし、家畜一号に簡潔に言葉をかける。

 数字はそのまま並んでいる奴隷の番号を意味していて、それ以外はいらないということだ。


「オーナー。お嬢様は三、六、八、十一の奴隷をお望みだ。それ以外は下げて次を見せてくれ」

「畏まりました。すぐに用意致します」


 家畜一号を通してオーナーとやりとりしているので、ちょっと面倒くさいけど貴族のお嬢様ならこれが普通らしい。

 じゃあなんでオーナーはボクに話振ってたんだろうね。まぁどうでもいいけど。


 残った奴隷はMPが上から高い順だ。千三百万の子は当然入っていない。

 ちなみに最初に並べられた奴隷だけで終わりのわけがない。アレはこちらの購入範囲を探るためのテストでもあるらしい。

 まぁつまりは絞り込みをするためのたたき台みたいなものだ。

 要望は伝えてあるけど、「こちらにはこういった種類の奴隷もいますがご一緒に如何ですか?」という意味があるのだ。


「リグルド」

「はっ」


 オーナーが席を離れた隙きに、家畜一号の名前を呼ぶ。

 ここは仮にも商会。さすがに家畜一号と彼を呼ぶのは色々と問題があるので名前で呼ぶことにしてある。まぁ家畜一号は家畜一号なのであんまり呼ぶつもりもないけど。

 彼はすぐにボクの傍にきたので小声で残金を確認すると、すぐに同じように小声で教えてくれた。


 ……ふむふむ。あと五、六人は買えるのね。


 次から出て来るのは最初の奴隷たちの中で選ばれた者たちの共通点を持っている者たち。

 つまりはMP保有量優先の者たちだ。

 ここからが本番。


 あまり時間をおかずに次の奴隷たちが並べられ、紹介と共に魔力測定器を使用していく。

 今回は最初と違って小奇麗にはしているものの、見た目が悪い者たちも混ざっており、しっかりと要望重視となっている。


 さすがに魔力量が一番高い者でもあのキープしてある二十二歳のあっちが並の女性には及ばない。

 でもキープしておいた他の子よりも魔力量がある子が何人もいる。

 予算を考えるとキープと交換が必要だね。


 こうして、何度かキープと交換を行いながら四回ほど奴隷を紹介してもらった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それではこれにて契約は完了でございます。本日は当店をご利用頂き誠にありがとうございました。奴隷がご入用の際にはまた当店をご利用頂ければ幸いでございます」

「そうね。考えておきます」


 諸々の手続きを家畜一号が済ませ、奴隷契約も滞りなく済むとオーナーが深々と頭を下げて見送ってくれた。

 ちなみに結局ボクがオーナーと言葉をかわしたのはこの一言だけである。


 奴隷契約は商談で行っていた羊皮紙の契約書に対してスキルを使って、ボクの血をちょっと垂らすだけという非常に簡単なものだった。

 指先を針でちょっと刺しただけだったのであんまり痛くもなかったし、拍子抜けだ。

 もっと魔法陣が光り輝いたり、紋章が浮かび上がったりとかそういうのを期待していたんだけどな。


 もちろん奴隷契約がしっかりと行われたかの確認もされた。

 確認方法は奴隷の証である首輪が締まる文言を唱えて、実際に締まるかどうか確認するだけ。

 購入した奴隷全員の首輪が締まって苦しそうにしていたので問題ないらしい。

 精神を縛っている上に首輪でも物理的に縛るんだね。


 購入した奴隷の数は全部で十人。総額五千六百万ドグの買い物だ。

 なかなか大きな買い物だったみたいなので奴隷を輸送するための馬車や一通りの衣服などもおまけしてもらえた。

 もちろん家畜一号が交渉したんだけどね。

 ちなみに購入した奴隷の一人が御者の経験があったので、その子に奴隷輸送用の馬車は任せることにした。

 スキルで縛られているので勝手に逃げることはできないので安心だ。


 森の奥を売って得たお金も大半を使い果たしてしまったけど、予定通りに買い物は済ませられた。

 あとは少しこの街を観光して帰るだけだ。


 でもその前に確認しておきたいことがある。

 それはもちろん支配権の有無だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 宿に戻ると購入した奴隷を引き連れて部屋に入る。

 奴隷は所有物扱いだから、何の問題もないらしい。まぁそれ以前に部屋単位で借りているので泊まる人が増えても平気らしいけど。


「さーてさっそくやろうかな」


 ボクの言葉に壁を背にして並んでいた奴隷たちの顔がちょっとだけ強張る。

 奴隷は所有物だからどんな扱いをしたとしても所有者の勝手である。

 大抵は肉体労働やスキルを活かした物事、性奉仕などが仕事になる。

 でも貴族が買っていく場合は自身の性癖を満足させるための場合もあるらしい。

 中には変わった性癖の人間も多く、そういった者は貴族に特に多い。


 まぁそういったことを奴隷商で基礎教育として教わっているらしいので、何をやらされるのか知らされていない彼らとしては身構えてしまうわけだ。

 でもそんな彼らの不安などボクは知ったことではない。


「じゃあ端から行こうか。家畜一号連れてきて」

「はっ!」


 もうここは自分を宿の部屋の中だし、ボクたち以外にはいないので遠慮なく家畜一号と呼べる。

 なんだかずっと家畜一号と呼んでたからリグルドって呼ぶと変な感じなんだよね。


 家畜一号が連れてきたのは一番魔力量があるあっちの方が並のあの女性だ。

 抵抗されるかどうかはMPを吸い取ってみればすぐわかるので、どうせなら一番魔力のある彼女を選んでみた。


 さぁて一体どれだけのMPが得られるのかなぁ。


 魔力吸収の指輪を強張った顔のままの彼女に接触させ、いつも家畜一号にやっているようにMPを吸い出す。

 すると家畜一号では感じる壁のような抵抗が一切ない。

 するすると何の障害もなく流れてくるMP。


 一分も経たないうちに彼女からMPが二千近くも吸い出せてしまった。

 ダンジョンマスターとしての力はダンジョン外でも使えるので自身の保有MP量はいつでも確認できる。

 いやぁこれはすごい。一番魔力があるとはいえ、たった一人で二千とは!


「ありゃ?」


 しかし喜んでいたのも束の間。

 MPを吸い出された彼女は崩れ落ちてしまった。

 家畜一号たちは限界までMPを吸い出してもこんなことにはならなかった。

 ではなぜ彼女は崩れ落ちたのだろうか?


「どうやら魔力欠乏状態のようです」

「魔力欠乏状態?」


 崩れ落ちた彼女を見て驚いているうちに、家畜一号が素早く動き軽く診断したみたいだ。

 ベテラン冒険者だった彼は当然ながら簡単ながらも適切な治療行為を行える腕も持っている。

 冒険者は怪我と隣り合わせの職業なので、最低限応急処置程度は出来なければならないらしい。

 ベテラン冒険者の彼ともなれば他者の診断も多少は出来るそうな。


「著しく魔力が減少すると起こる衰弱に似た症状です。時間を置けば自然と回復しますが、それまでは意識を失ったままです」

「へー。じゃあ命に別状があるわけじゃないんだね。ならいいや。次」

「はっ」


 次々に奴隷たちからMPを吸い上げていく。

 全員抵抗されることもなく、するするとMPを吸い上げることができるのを確認できた。

 やはり奴隷契約を結べば支配権を得られるようだ。


 でもMPを吸い上げた奴隷全員が魔力欠乏状態になってしまったのは問題ありかも。

 時間を置けば治るみたいだけど、毎回こうなるのも考えものだ。

 十人からMPを吸い上げて少しは感覚が掴めたし、次は魔力欠乏状態にならないように少しだけMPを残しておいてあげようかな。

 十人から吸い上げたMPは結構な量になっているし、一日でこんなにMPが手に入るなら少しくらいならお目こぼししてあげなくもない。


 それに彼らは拘束も教育の必要もないので、自分たちのことは自分たちで面倒をみさせるつもりだ。

 家畜一号みたいに強制的に食事をさせたり、運動させたりしなくても彼らは逃げれないし、裏切らない。

 奴隷って素晴らしいね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 家畜一号とグレ君に必要になりそうな物の買い出しを頼んで、ボクはまったりする。

 奴隷商での買い物は結構時間がかかったし、観光は明日でいい。

 ひらひらの豪奢なドレスは着慣れていないのもあって疲れる。

 モンちゃんに手伝ってもらいながら着替え、お風呂に入ってもまだ奴隷たちは床に伸びたままだった。

 邪魔なので壁際に全員移動させておいた。もちろんモンちゃんが。


 ボクはたっぷり増えたMPで何を買おうか神魔通販のカタログを開いてニヤニヤしている。

 今日だけで二万近いMPが手に入ったのだ。色んなものが買えちゃうよ。

 しかもこれが毎日となるのだから奴隷万歳だよね!




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