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007 あ、ボク人間じゃないや

 家畜一号から情報収集を始めて早一週間が経過しようとしている。

 この間に少なくなった家畜のうちまた三人ほどが死んでしまった。

 完全に拘束して自殺できないようにしていたし、怪我も治して食事も強制的に摂らせていた。

 肉体的な問題ではなく、どうやら精神的な問題で衰弱してしまったらしい。

 こればかりはどうにもならない。

 未だに元気な家畜一号がおかしいのだろうか?


 おかげで一日に得られるMPはだいぶ少なくなってしまっている。

 でも家畜一号から得られる情報のおかげであまり悲観的にならずに済んでいたりもする。

 奴隷の情報以外にも彼からはこの世界の色んな情報を教えてもらっている。

 主に一般常識だろうか。

 街に行っても困らない程度には一般常識は知っておくべきだ。

 貨幣や暦、ぼったくられない方法や値切り方、さらには街の歩き方まで。本当に色んなことを家畜一号は教えてくれる。


 有益な情報を教えてくれた時にはとても美味しい森の恵を食べさせていたりするので、彼はこのところちょっと太ったような気もする。

 まぁ拘束されているので運動もままならないし、そんなものだろう。

 たまには運動させてあげないと健康に悪いだろうからその辺も考えてあげないといけないね。


 家畜を飼うというのは以外と大変なことだと、この一週間で思い知った。

 特に肉体的に問題がなくても精神的な問題で衰弱してしまうのは実際にこの目でみるまでまったく気づかなかったしね。

 奴隷を購入してきたとしても、長く生かしておける環境を作っておかなければいけないだろう。

 一般的な奴隷の扱い方なんかも家畜一号に教わったりした方がいいかもしれない。


 人間牧場って意外と難しい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さらに二週間ほどが経過し、結局捕獲した家畜たちは一号を残して全員死んでしまった。

 家畜一号から色々教えてもらって実践したりもしたのだがだめだった。

 彼曰く、ちょっと遅かったらしい。

 まぁ本当にちょっとかどうかは置いておくとして、奴隷を購入してきたら気をつけるとしよう。

 失敗は成功の母という言葉もあるし、次に活かせばいいのさ。


 家畜一号も運動させはじめたら、すっきりした体型にすぐ戻っていた。

 まぁその運動もデーモンカウに追いかけられながらのランニングだったり、キラーマニピュレーターの攻撃を延々避け続けるというものだったりするかなり過激なもののようだったけどね。

 ちなみに運動メニューを作成したのはグレ君です。

 どれも中心部近くを守っている強い魔物たちばかりだったので、家畜一号もなかなか必死だった。

 あれでちゃんと死なないで今も生きてるんだから冒険者ってすごい。

 まぁ大事な家畜なので死なせないように、怪我させないようにって念を押しておいたのもあるんだろうけど。


 そのせいなのか、家畜一号は以前よりもさらに従順になっている。

 運動を始める前も十分従順だったけど、もう何をするにしても協力的だし、どんな質問にも即答した上に関連する情報まで洗いざらい喋ってくれる。

 以前は森の恵をもらうためにわざと溜めを作っていたり、情報を小出しにしたりしていたみたいだけど、もうそんなことは絶対にしないようになっている。


 グレ君はこれを見越してあの運動メニューを作っていたのかな?

 だったらやっぱりグレ君は優秀だよね。


 そんなこんなでそろそろMPが心もとなくなってきた。

 頑張って節約しているけど、どうしても尻尾や髪のケア用品だけは日本製のものじゃないと満足できない。

 情報もずいぶん集まったし、そろそろ動き出すとしましょうか。


 差し当たっては誰と一緒に街に行きましょうかね?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それじゃいってきまーす」


 ボクの言葉に一斉に頭を下げる使用人たち。

 屋敷で働いている使用人たちが全員でボクたちの見送りをしてくれているのだ。

 魔物は一切言葉によるコミュニケーションができないけれど、これまで困ったことはほとんどない。

 まぁ一メイドから専属に格上げとなったモンちゃんがボクに何かを伝えようとしてうまく伝わらずにグレ君に助けを求めたりしていたことも何度かあったけどね。

 逆にいえばそれくらいだ。


 使用人たちに見送られての出発となったけれど、その見送る姿もすぐに見えなくなった。

 なぜならこの広大な迷いの大森林を普通に移動したりなんかしたら外層に辿りつくだけでも数日は確実にかかってしまう。

 でもボクは迷いの大森林のダンジョンマスター。

 当然ながら普通の移動手段なんて使わない。


「お~……。本当に一瞬だ」


 移動手段はそう、転移だ。

 自分のダンジョンであることが前提だし、事前に移動する先に陣を敷いておく必要があったりするけどとても便利だ。

 もちろん陣を張るにはSPがかかっちゃうけどね。

 でもボクが許可した者だけしか使えないし、とても便利なので使っちゃう。


 外層からは馬車での移動になる。

 馬車は屋敷に何台かあったのでその中でも荷物が多く積めて地味めな物を選んだ。馬車を牽くための馬っぽい魔物もちゃんといるので問題ない。

 荷物も換金しやすいものをたくさん積んである。

 定番の無限収納みたいなアイテムは残念ながらないのであまりかさばる物はもっていけない。


 同行するのはグレ君とモンちゃん。そして家畜一号。

 グレ君はどうみても肌の色と角でばれちゃうので変身スキルを使ってもらっている。

 変身スキルを使うと見ただけでは完全に人間に化けられるのだからすごい。

 グレーターデーモンくらいの強い魔物になれば一日中変身していても問題ないらしい。

 モンちゃんの種族であるアルダーデーモンは見た目は人間とほとんど変わらない。

 ちょっと違うところを挙げるとすれば、本気を出すと体中に紋様が浮かび上がることだろうか。

 逆に言えば本気を出さなければ問題ない、はず。


 家畜一号は案内役だ。

 彼はボクの人間牧場に来てから徹底的にグレ君やモンちゃん他、色んな魔物に教育されたので裏切る心配はないだろう。

 もし裏切っても街が一つなくなって、家畜一号には再教育が待ってるだけだしね。


 ガタゴトと意外と揺れる馬車に乗って初めての外出が始まった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 はい、お尻が痛いのでモンちゃんの膝の上に早々に退避したダンジョンマスターなボクです。

 モンちゃんはアルダーデーモンなのでかなり強いです。

 そのおかげなのか、馬車がどんなに揺れてもボクに衝撃がこないようにしてくれています。

 モンちゃんすごい。

 グレ君と家畜一号は御者をしているので車内にはボクとモンちゃんしかいない。

 モンちゃんは言葉が喋れないから会話はまったくない。


 でもそれを見越して少ないMPをさらに減らすことになったけど、面白そうなタイトルのラノベを買っておいたので暇つぶしには困らない。

 ダンジョンマスターになったおかげで車酔いどころか病気にもかからないので、いくらでも車内で本が読める。モンちゃんのおかげで揺れないしね。


 迷いの大森林から一番近くの奴隷を扱っている街までは約二日。

 それだけの時間があれば余裕で一冊くらいなら読めてしまう。

 読んだあとは何で暇をつぶそうか……。

 ぶっちゃけ景色はもう見飽きました。


 窓から見えるのはどこまでも続きそうな大草原。

 時折大きな岩や木がまばらにある程度で、魔物はほとんど見かけない。

 でも家畜一号の話では野生動物より少し強いくらいの魔物がそこそこいるらしい。


 野生動物と魔物の違いは、生物を無差別に襲うか否か。

 魔物とは非常に好戦的で生物全般の敵なのだそうだ。


 本から顔をあげてモンちゃんを振り返れば、とても素敵な笑顔が返ってくる。

 好戦的……? あ、ボク人間じゃないや。


 本に視線を戻せばモンちゃんはボクの尻尾を梳く作業に戻ったようだ。

 モンちゃんの尻尾梳きはなかなか侮れない。

 自分で梳くより毛並みがよくなるような気がするんだよね。そういうスキルでも持ってるのだろうか?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 トラブルの一つもなく、無事に目的の街――ニーリウスへと到着した。

 今は街に入るための手続きの列に並んでいる。

 ボクたちの馬車には迷いの大森林で採れる貴重な森の恵がたくさん載せられているのだけど、これらには税金はかからないらしい。

 迷いの大森林で採れる森の恵はニーリウス周辺では特産品扱いらしく、敢えて税金を取らずに街への持ち込み量を増やしているそうだ。

 まぁその分街の中で行われる商取引ではしっかりと税金を取られるそうだけど。


 しかも一月ほど前に起こった外層での惨劇のせいで、迷いの大森林で森の恵を得ようとする人々が激減している。森の恵は今や高騰しているだろう、と家畜一号は確信しているみたい。

 まぁその通りだろうとボクも思う。


 でもすでに何度も調査隊と思しき一団が外層を調べていたりするし、最近では少しずつ外層で活動する侵入者も増えてきている。

 命知らずなのか、食料が限界なのか。たぶん後者なのだろう、身なりが貧相な侵入者ばかりだったし。


 まぁそんなわけで積んでいる物が物だけに少し騒ぎになったけれど、問題なく街の中には入れた。

 入街税でこの世界の貨幣が少し必要だったけれど、外層より奥にやってくる侵入者はほとんどの者が貨幣をいくらか持っているので屋敷に多少残っていた。

 ほとんどは宝箱に餌として入れていたんだろうね、前ダンジョンマスターは。


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