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005 やっとボクの尻尾をふわふわにできるぞ!

 阿鼻叫喚の地獄絵図となった迷いの大森林外層だったが、戦闘はすぐに終わった。

 当然だ。外層にピクニック気分できている弱い侵入者なんてSPが大量にかかる強い魔物たちにかかればそれこそ鎧袖一触。

 比喩でも何でもなく触れただけで死ぬくらいにレベルが違う。


 そんな光景を映すウィンドウを無感情に眺めていたが、もう一つ出しておいたウィンドウにはMPなどの数値が表示されているのでそちらも確認する。

 あっという間にSPとMPが増えていくが、やはり弱い侵入者を殺してもSPは大して手に入らない。ほしいのはMPなので問題はないのだけど。


 肝心のMPは結構すごい量が得られた。


 ====

 name:ミカゲ

 BLv:1

 MP:12108


 DLv:Max

 SP:4577

 ====


 魔力吸収の指輪に必要なのは1200MPだが、なんと10倍も集まってしまったのだ。

 弱い侵入者でもMPは結構もっているのかもしれない。

 これはとてもいい情報だ。


 速攻で魔力吸収の指輪を購入し、この場で受け取るを選択する。

 神魔通販で物を購入すると輸送のための時間は一切かからない。

 購入した瞬間には手元に届くのだ。もちろんスペースが必要な物もあるので、事前にどこに届けるかは選択もできるが、あまり遠いところは選択できない。

 指輪をさっそく身につけて、執事のグレ君の肩に乗って目指す場所は屋敷の前庭だ。

 庭師をしている魔物が毎日丁寧に世話をしているので、とても綺麗な庭だ。面積もなんとかドーム一個分は楽にありそうなほど広い。


 外層を襲った中でも一番機動力が高い魔物に殲滅とは別に命令を下していたのでそろそろ到着している頃のはずだ。

 その命令は――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「くそがああああ! 放しやがれ! 放しやがれええええ!」


 玄関の扉を別のグレーターデーモンのフットマンが開くと、そんな絶叫が聞こえてくる。

 さすがは一番機動力が高い魔物だ。もうついてる。

 そう、ボクが下したもう一つの命令とは、侵入者を生きて連れてくること。

 無論ボクに危険が及ばないように無力化して。


 でも連れてきた侵入者はとても元気なご様子。

 無力化してあるんだよね……?


 よく見れば侵入者の両手両足は向いてはいけない方向に曲がっているし、彼の背には巨大な翼とすらっとした体躯の魔物――スカイドラゴンの巨大な足が乗っている。

 痛くないわけがないだろうけど、それ以上に生き残るために必死なのだろうね。

 まぁこれはどうみても完璧に動けないだろう。

 でもできることなら気絶させておいてほしかったな。手足が使えなくてもスキルで攻撃される恐れだってあるんだし。それにうるさい。


「グレ君、アレ気絶させられる?」


 ボクの乗り物と化している執事のグレ君に問うてみれば、コクリと頷きすぐさま行動してくれた。

 一瞬光ったと思ったらうるさい侵入者の声が途絶える。

 どうやら雷系のスキルを使ったらしい。なかなか便利なスキルだね。


「殺してないよね? 殺しちゃうとMP吸い取れないみたいだし」


 グレ君がまた頷いたので大丈夫だろう。

 彼も膨大なSPが必要な強い魔物だ。執事が出来るくらいに優秀なんだし、自分のスキルの手加減くらいできるだろう。


 こうして生きた侵入者を迷いの大森林の中心部であるこの屋敷に連れてきたのも実験のためだ。

 無論実験内容は魔力吸収の指輪の性能調査。

 簡単なスペックは書かれていたのでわかっているけれど、やっぱり実際に試してみないことには、ね。


 気絶している侵入者に指輪についている赤い宝石を接触させる。

 この宝石を通して相手のMPを吸収できるらしい。


 赤い宝石が侵入者に接触し、MPを吸収するという意志を強くもつことにより効果を発揮する。

 徐々に侵入者から何かが流れ込んでくる感覚がしてくるが、どうにもゆっくりで弱い。

 5分ほどかけて吸収できたMPは100ほど。これ以上は吸い出せないようだ。


 カタログスペック通りといえばその通りだ。

 魔力吸収の指輪は安い部類の商品であり、性能もその分低い。

 支配権をもたない他者に対して使う場合はMPの吸い出しに抵抗される。

 意識があろうがなかろうが抵抗するのは生命体として正常な反応らしい。


 ちなみにグレ君など、ボクが支配権を有する魔物たちからMPを吸い出すことはできない。

 自身が生み出した存在からはMPを吸い出せないという非常に残念な制限がかけられているからだ。


 ……この制限がなければMP吸い出し放題なのに。


 でもこれでMPを確保することができるようになった。

 あとは数をこなせばいい。快適な生活のためにも頑張っちゃうよ!


 その後も殲滅を免れた侵入者を捕獲して無力化し、MPを吸い出し続けた。

 3000近いMPを確保できたのでホクホクだ。

 MPを吸い出した侵入者は元々あった牢屋に入れてある。MPは自然回復するので明日また吸い出すのだ。

 人間牧場の運営開始である。


 大事なMPたちなのでうっかり逃げられないようにたくさんの魔物を見張りにつけておいた。牢屋もかなり頑丈な代物だし、侵入者が身につけていたものは根こそぎ剥いである。

 無力化され、全裸に剥かれた彼らを見てもボクの心はちっとも動かされない。

 いや、違うか。得られたMPで何を買おうかウキウキしているのだから動かされているね。

 可哀想だとか同情するとか、そういった感情は一切湧いてこないけど。


 さてまずはシャンプーとリンス、石鹸を購入しようかな。

 やっとボクの尻尾をふわふわにできるぞ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌日。ふわふわの艶々になった尻尾を撫でながらMPの吸い出し作業をしようと庭にやってきたが、そこには残念なお知らせが待っていた。

 なんと昨日捕獲した侵入者のほとんどが死んでいたのだ。

 理由はどうやら出血多量によるショック死がほとんど。

 中には舌を自ら噛み切った者もいたようだ。

 三十人以上は確保していたのに残ったのは数人ばかり。


 昨日は大量のMPを得て、久々の日本製の高品質な物品に浮かれていた。

 その結果家畜のお世話を怠ったのだから自業自得だ。


 彼らはボクにMPを供給してくれる大事な家畜。

 でも普通の家畜と違って彼らは考えることができるし、決断もできるんだ。

 見たこともないような強い魔物たちに囲まれて、さらには手足をへし折られている状況では絶望して自殺してしまっても不思議ではないだろう。

 それ以前に出血したままで放置してしまっていたのは、我ながら抜けているとしか思えない。


 まったく……そんなことに気づかないなんて本当に浮かれすぎだ。

 まずはこれ以上家畜が減らないように怪我の手当をさせないと。

 ボクじゃ手当の仕方なんてわからないし、回復系のスキルを持っている魔物を呼んできてもらおう。


 さて、残念なお知らせ第二弾です。

 回復系のスキルを持つ魔物がいませんでした。

 どうやら回復系のスキルはとてもレアなようです。

 でも一体もいないというのはおかしい。あ、そうでした。ついこの間まで使徒たちが攻めてきていて全力防衛してたんでした。

 当然ながら回復系のスキル持ちの魔物は優先的に狙われる。

 コストもとんでもなくかかるので早々増やせない。


 迷いの大森林の重要な箇所に一体ずつ派遣されていたみたいなんだけど、結局全部殺されちゃったみたいだ。

 回復系のスキル持ちを殺すためにあちら側も多大な被害を出したみたいなので半分は囮役だったのだろうね。

 前ダンジョンマスターも保険に自分のところに一体置いておくくらいなら使徒たちの被害を拡大させるために使ったようだ。


 ダンジョンマスターは戦闘能力が皆無だから、回復系のスキル持ちを手元に置いておいても回復する前に死んでる。

 それなら重要箇所を守っている魔物たちのバックアップに使ったほうが有益だろう。


 回復系のスキル持ちがいないなら、アイテムに頼ればいい!

 この世界は魔物やスキルなんてファンタジーなものが存在するので、当然振りかければそれだけで傷を癒せてしまうようなとんでもない薬――ポーションが存在している。

 でもこのポーション。どうにもお高い代物らしく、中途半端な侵入者では持っている者は少ない。

 強い侵入者は大抵持っているのだけど、MP同様に死ぬ前には出し惜しみすることなく使っちゃうので得られる可能性が低い。

 得られたとしても侵入者引き寄せ用の餌として、前ダンジョンマスターは使っていたようで在庫もほとんどなかった。


 そう、ほとんど。

 つまりは少しだけあったのだ。

 これで弱りきった残っている侵入者の怪我を治療しておいた。

 無論暴れられても面倒だし、自殺もできないように全身を拘束しておくのも忘れない。

 彼らにはこれから出来るだけ長い間MPを提供してもらわないといけないのだから。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 外層へ集まっていた侵入者の殺戮を実行したので、当分は迷いの大森林にやってくる侵入者は激減するだろう。

 停止していた渦は全て再稼働させたし、殺戮を実行した強い魔物たちも本来の配置に戻してある。

 迷いの大森林の森の恵は周辺の人間たちにとって非常に大事なものだろうから、ある程度時間を置いたら調査なりなんなりが来るだろう。

 その頃には外層部分も以前のような環境に戻っているだろうから自然と元に戻るはず。

 時間はかかるだろうけどね。


 そんな状況でもやってくるだろう、強い侵入者は生け捕りにするのが難しい。

 殺す数倍の労力が生け捕りには必要なのだから当然だ。

 でもこれから当分の間やってくるのはそんな強い侵入者だけになる。

 そうなると捕獲しておいた家畜たちが減ってしまったのはやはり大きい。

 もっといい手を考えないといけないだろう。


 日本製の高品質な品を使ってしまったボクはもう、戻れない。

 いや最初から戻る気なんてないんだけど、このふわふわ艶々の尻尾を見てください。

 あの石鹸もどきというのも烏滸がましい木の実とは大違いだ。

 いやもはやあれは石鹸もどきでもなんでもない。ただのちょっと泡のたつ木の実だ。


 なのでMPはこれからも必要だ。

 ボクの快適な生活を守るためならなんだってやる。そう、なんだってやってやる!


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