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003 それが少し悲しく、少し嬉しかった

 半透明のウィンドウ――メニューに映る文字を目をよく擦ってから再度確認する。


 ====

 name:ミカゲ

 BLv:1

 MP:103


 DLv:Max

 SP:2098

 ====


 今更だが、生前の名前がそのまま今のボクの名前のようだ。名字がなくなっているけど、まぁボク以外に家族がここにいるわけでもないのだからいいだろう。

 BLvはBase Levelの略称であり、生命体としての強度を数値として表したものだ。

 数字が高いほど強度が高いので、この世界にきたばかりのボクが1なのは仕方ない。

 DLvはDungeon Levelの略称であり、所持しているダンジョンの強さを数値化したもの。。

 当然ながら我がダンジョン――迷いの大森林はとても強いダンジョン。見てわかる通りにレベルだってMaxである。


 ……さて、ちょっと見えている他の項目で現実逃避をしてみたけど、何度みても変化はな……あ、MPとSPが増えた。

 侵入者が死んだのかな。

 ということは問題なく魂と魔力の回収が為されている、ということ。


 SPはSoul Pointの略称であり、魂の総保有量。

 MPはMagic Pointの略称であり、魔力の総保有量。


 SPは大量に消費してしまったからこの数字で大体はあっているだろう。実際にさっきまでこのSPとはにらめっこを繰り返していたわけだし。

 でもMPがおかしい。


 とか思ってる間にMPが103から93に減り、数秒後には105まで増え、さらに数秒後には98まで減っていた。。

 どういうこと?


 増えるのは侵入者が死んで魂と魔力が回収された結果だと思うのだけど、なんで減っているのだろうか?


「あ……まさか……」


 メニューを切り替え、迷いの大森林の全体マップを表示させる。

 ここからさらにフィルターをかけて検索条件を入力する。

 すると、マップに表示される項目が切り替わり目的のものがすぐに見つかった。


「やっぱりかー!」


 ここ一週間ですっかり馴染んだ執務室にボクの高く澄んだ声が響く。

 さすがは美幼女だけあって声もとても可愛い。

 ……いや今はそんなことはどうでもよかった。


 マップに映っている光点をタップして詳細を引き出すと、そこに表示されたものは思った通りのものだ。


 ====

 シェルタートルの渦

 ====


 これは魔物を自動的に生み出す装置――渦。

 SPを大量に消費して作り出せる高コストの装置だが、自動的に魔物を生み出してくれる便利なやつだ。

 当然ながら元を取るにはかなり時間がかかる。

 今回のシェルタートルの渦だったら、消費SPは五十万。

 シェルタートル一匹を生み出すのに必要なSPは五百。

 日に二体生み出せるが、元を取るには五百日もかかる。

 まぁボクの場合は前ダンジョンマスターが設置したものなのでSPはこの際気にしない。


 問題はこの渦。魔物を生み出す際にMPを消費する点だ。

 そう、MPを消費するのだ。

 シェルタートルの渦の場合、一匹辺り消費MPは2。

 MPが減少していたのはこいつらのせいだったのだ。


 一日に二体しか生み出さないとはいえ、設置されている数が問題だ。

 当然ながら広大な迷いの大森林をカバーするために相当な数の渦が設置されている。

 数秒ごとに減少していたのはそれだけの数がある故。


 ……これからMPがたくさん必要なことをしようとしていた矢先にこれだ。幸先が悪いなんてもんじゃない。


 ボクは女神さまから貰った報酬である特別なスキル――神魔通販のカタログを前にして大きくため息を吐いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 神魔通販。

 異なる世界を結び、様々な商品を売買できる特別なスキル。

 総購入額に応じてランクが上がり、購入できるものが増えていくらしいが最低値のランクGでも日本の物は買えるのであまり気にしなくていいだろう。

 使用可能な通貨は様々な種類があるらしいが、肝心のこの世界のお金は使えない。

 その代わり魔力が通貨の代わりをしてくれる。


 異なる世界とあるように、この世界以外の商品――つまりは日本の商品を買えるのが最大のメリット。

 ボクにとっては売る方はおまけみたいなもの。まぁランクGでは売るのは出来ないみたいだけど。


 例えばずっと読んでいた雑誌の最新号だって購入できる。

 もちろんシャンプーだってリンスだって購入可能だ。

 ボクが女神さまの依頼を引き受けるに当たって要求した報酬は、日本の商品を買える能力だった。だって毎週必ず読んでいたあの漫画とか続きが気になって死んでも死にきれないでしょう?

 だが適当なスキルがなかったので日本の商品だけでなく、他の世界の商品も購入できる完全な上位互換のスキルになったのはご愛嬌。


 ちなみに神魔通販を使用するとカタログが出現し、そのカタログを使って商品の売買が行える。

 検索機能やソート機能など一通りの便利機能は標準装備なので、適当に愛用していたシャンプー名で検索するとすぐに出てきた。


 ====

 メニット(シャンプーボトル200ミリリットル)

 MP:4890

 ====


 ……はい、無理ー!

 ボクの今のMPは108です! あ、減った。あ、増えた。

 まぁ多少変動しようがどうみても4890なんて数字にはならない。


 ……一部の渦をしばらくの間停止させないとだめかもしれない。


 でもなるべくそれはしたくない。

 渦で生み出されるのは弱い魔物に限られている。

 弱いのだから当然数が必要。渦によって違うが、最大でも日に三体生み出すのがやっと。先ほどのシェルタートルなんて二体だし。


 侵入者に狩られる魔物の数は当然ながら渦一つでは賄いきれない。

 そこは渦を大量に用意してなんとか収支を合わせているのが現状だ。

 魔物を狩るのを目的にしている侵入者もそれなりに多い。そして死亡率が高いのもこいつらだ。

 ずいぶんと減ってしまったSPを確保するためにも死亡率の高い侵入者たちを引き込まなくてはいけない。その餌が弱い魔物なのだ。

 これでSPが豊富にある状態だったなら一も二も無く渦を停止させるのだが、現状ではSPも枯渇寸前。


 さてどうしたものだろう。本当に困った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一時間程度、メニューのMPの変動を眺めていたが、現状では減ってもすぐにもとに戻るようだ。

 拮抗しているらしく、トータルでみれば増えもしなければ減りもしない。

 枯渇して渦が強制停止しないのはありがたいが、このままでは神魔通販を使えない。

 前ダンジョンマスターの頃もMPに関してはこの状態だったらしい。

 一般的なMPの用途はスキルを使うための燃料。

 だがダンジョンマスター自身は戦う必要はないし、戦えない。

 まぁぶっちゃけダンジョンマスターは弱いのだ。

 ボクの今の見た目は狐の美幼女だけど、戦闘能力も相応だ。つまりは幼女並。

 そんな弱々なダンジョンマスターが前線でスキルを使って戦うなんてことはまずあえりない。

 故にMPはせいぜいが渦に消費される程度あればいい。実際に前ダンジョンマスターは今のボクのMPと同程度の量で問題なかったようだ。


 ボクはこの世界で以前と同じ、もしくはそれ以上の生活がしたい。

 そのためには神魔通販を使って物品を手に入れる必要がある。女神さまの話ではこの世界の文明レベルはとても遅れているそうだ。

 現代日本に生きたボクが快適な生活を送るにはこの世界の物品では無理だろう。

 現にすでにシャンプーやリンス、石鹸などの生活用品を始めとした様々なところで不満が募っている。

 屋敷の大型設備は立派なくせに細かいところが行き届いていないのだ。


 それに娯楽もなさすぎる。

 この一週間は復興に必死だったからよかったけど、メンテナンスフリーな我がダンジョンは基本的に放置推奨。

 そうなればボクは暇になる。退屈は人を殺すというし、娯楽大国日本生まれ日本育ちのボクにはきっと耐えられない。


 つまり、現代日本の物品を手に入れることができる神魔通販を存分に活用する必要があるのだ。これは生死がかかった重要な案件なのだ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、神魔通販で使える通貨は魔力――MPだ。

 これを得るには侵入者を殺せばいい。でも得られるMPは侵入者によって変動する。しかしMPはSPのように強ければ強いほど多く手に入るわけでは決して無い。無論強いほうがMPをたくさん保有している。だが強くてSPが大量に手に入る侵入者であればあるほど手に入るMPは少ないのが普通なのだ。


 MPはスキルを使用するための燃料。

 侵入者は襲い掛かってくる魔物を倒すために強力なスキルを使用する。

 もちろん魔物を倒すためだけにスキルがあるわけではないので、様々な場面でMPを消費してしまう。

 ベストはスキルを使用させずに大量のMPを保有している侵入者を殺すことだが、早々うまくいくものでない。


 侵入者だってバカじゃない。自分が死ぬような状況になってまでMPを残す必要はない。それこそ死に物狂いで抵抗するためにMPを消費してスキルを使うだろう。

 結果として、死ぬ頃にはMPがほとんど残っていないのだ。


 それに侵入者からMPを得られる機会はたったの一度。侵入者が死んだときだけだ。はっきりいって非効率以外の何者でもない。

 SPにも同じことがいえるが、得られる量はSPの方が圧倒的に多い。侵入者がMPは消費してもSPを消費することはないのだから。


 ちなみに侵入者たちのMPは消費したらそれまでではなく、時間経過である程度回復する。

 どうにかして生きている侵入者からMPだけを得られないものだろうか。

 牛を育てて乳を得るように、侵入者を生かさず殺さずしてMPだけ得られればとても美味しいと思うのだ。


 ……侵入者はほとんどが人間だからつまりは人間牧場だね。


 かなり外道な考えだとは思うが、ボクはもうこの世界に来る前のボクとは違ってしまっている。

 外道だと思うだけで、だからどうしたとも考えている。

 むしろ人間牧場はとてもいい案だ、とさえ思っている。


 ボクはもう現代日本の倫理観に縛られる存在ではなくなっているのだ。

 それが少し悲しく、少し嬉しかった。


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