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002 ここからが本当のスタートだ

 三つ首のライオンの彫像からお湯が勢いよく流れている。

 種類はわからないが随所には植物が植えられ、湯気のせいでよく見えないけれどとても広いことだけはわかる。

 浴槽の数だけでも十以上ある。浴槽一つ一つの広さも生前のボクが十人入っても余裕だろう。

 なんとも豪勢すぎて気後れしそうなほどなお風呂場だ。


 ……確かに広い。でも今のボクは生前とは姿も違えば、性別すら違っていたりする。

 ばたばたと忙しく動いていた間は気づかなかったけれど、お風呂に入ろうとして汚れた服に手をかければさすがに気づいた。


 ボクは今狐の耳に尻尾を持つ六、七歳くらいの幼女の姿をしている。

 髪は透けるような銀色でショートボブ。脱衣所にあった大きな鏡に写した顔は将来が楽しみな、まさに美幼女だ。


 ……語尾にのじゃをつけたらきっと大人気間違い無しだろう。


 さすがにこれは女神さまからも聞いていなかったのでびっくりだ。……いや聞いていないことは他にもいっぱいあるけどね。ていうか聞いてないことだらけじゃない?

 あ、ちなみに前世は男です。

 決して幼女ではありませんでしたので安心してください。


 まぁ幼女であってもダンジョンマスターであることは変わらないし、やること自体は変わらない。

 大理石のような石材で隙間なく組まれた洗い場で石鹸に似た性質をもつ木の実を使って身体や髪、尻尾を洗ってみるけど、正直微妙です。

 ものすごく豪華な浴槽や、お湯がちゃんと適温で出てくるシャワーはあるくせに石鹸はしょぼい。当然ながらシャンプーもリンスもない。

 せっかくの美幼女なのだから綺麗にしていたいのにこれでは台無しだ。


 まぁでもそれも今だけの我慢。

 落ち着いたらまっさきにシャンプーとリンス、石鹸をゲットしよう。


 そう心に誓って各所を洗い、一番近い浴槽に入る。

 ほどほどに熱い湯がとても気持ちいい。

 幼女の身体だけど、感覚は死んだ時の二十歳のままなのか熱いお湯を心地よく感じられる。六、七歳の子供はこんな風には感じないだろう。

 まぁ中身は二十歳の男なのだ。深くは考えないようにしよう。


 お湯に肩まで身を沈めながら、半透明のウィンドウ――メニューを呼び出す。

 お風呂に入りながらでもダンジョンマスターとしての仕事は可能なのですよ。

 でもゆでダコにならないように気をつけないといけない。何せどうみても幼女なわけですから、ボク。


 先ほどの続きからどんどん進めていく。

 やっていることは感覚を狂わせる機能の修復や使徒たちに倒され、無防備になっている場所への魔物の配置転換。

 迷いの大森林はダンジョンにありがちなトラップをほとんど使用していない。それだけ感覚を狂わせる機能が強いのだ。

 それにトラップは消耗品なので、意外とコストがかかる。このコストはSP――Soul Point――と呼ばれるもので支払うことができる。

 まぁぶっちゃけ魂です。

 迷いの大森林にやってくる侵入者をダンジョン内で殺害することにより得られるのが主に魂。侵入者の魂の強さに応じて得られるSPは変動する。

 魂の強さは、所持している才能の顕現――スキルの数や強さなどで決まるようだ。

 ただ使徒だけは特別で、自分のダンジョン外でも殺害すれば膨大なSPが得られる。

 恐らく前ダンジョンマスターはこの膨大なSPを目的に禁忌を犯していたのではないだろうか。

 現に膨大なSPのおかげで迷いの大森林は広大で強いダンジョンになることができている。

 感覚を狂わせる機能も膨大なSPのおかげで設置できているようなものだ。


 外層部分の感覚を狂わせる機能は弱いが、森の恵を求めてやってくる侵入者のための罠だったりする。

 迷いの大森林は森の恵が豊富で、今もたくさんの人間が森に入っている。

 ダンジョンの末端となる外層といえど、魔物は配置されているので中には戦闘になり命を落とす者もいる。まぁ外層で死ぬような侵入者では得られるSPもたかが知れているわけだけど。

 でも広大な森だからこそ、侵入者の数も多く、塵も積もればなんとやら。馬鹿にできないSPが得られるようだ。


 森の中に入れば入るほど感覚を狂わせる機能が強く働いていく上に魔物も強くなっていく。

 その代わりに得られる森の恵は質が上がっていく。中にはとても貴重な物もあり、手練の侵入者もやってくる。

 そういった手練の侵入者は当然得られるSPの量も多く、美味しい。

 でも今はその手練の侵入者が最大の脅威だ。


 感覚を狂わせる機能が死んでいる箇所を中心に強い魔物を移動させ、どんどんSPが減っていくのも構わず修復作業を続ける。


 数十年にも及ぶ使徒たちのダンジョン攻略により、膨大な量溜め込まれたSPも相当減っている。

 でも迷いの大森林全域を修復して、魔物を再配置させるくらいは残っていそうだ。


 侵入者は毎日やってきてSPを提供してくれる。

 彼らも森の恵を得るために危険を承知でやってくるのだからボクが心を痛める必要はない。

 というか、やってくる人間の侵入者たちをボクはもうSPとしかみれなくなっていたりする。

 ちょっとだけ悲しいような。でもボクはダンジョンマスターで、狐耳と尻尾をもつ美幼女なのだ。

 生前のボクとはもう違う。圧倒的なまでに違うのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ちょっと逆上せてふらふらしながらお風呂から上がると、待っていたのは皺一つない燕尾服を着こなしたとても顔色の悪い美青年……地肌が青く、両側頭部から巻角を生やした人型の魔物――グレーターデーモンだった。


 そういえば着替えをもってこいって命令したっけ。


 この屋敷で働いている魔物は厳選されたとても強い魔物ばかりのようで、グレーターデーモンも戦闘能力だけではなく、執事の真似事ができるくらい優秀な魔物だ。

 まぁどっちかっていうと執事よりメイドの方が好きだけどね。


 ちなみに優秀であっても所詮は魔物。ボクはダンジョンマスターなので彼らとは主従関係。

 彼ら魔物もSPを払うことで呼び出せる絶対服従の駒だ。

 ボクの言葉は絶対で、死ねと言われればその場で自分の首をねじ切ることさえ平気で行なう。

 まぁつまるところ友達には絶対なれない。なる気もないけど。


 グレーターデーモンが持ってきた服はかなりぶかぶかで何度も織り込まないと引きずって歩くことになるくらいサイズがあわなかった。

 まぁでもこれは仕方ないだろう。今屋敷にある物は前ダンジョンマスターのサイズに合わせてあるものばかりだろうし。

 前ダンジョンマスターは人型で男性タイプだったので、下着はさすがに使いたくなかったのでノーパンだ。ブラジャーはまだ必要ないくらいぺったんこなので気にしない。


 グレーターデーモンにも手伝わせて服をなんとか織り込んで着替えると、歩いていくのも面倒なので彼の肩に乗っかって移動を開始する。

 あらやだこのイケメン便利だわ。


 ちなみに服は綺麗に洗濯してあったので前ダンジョンマスターの匂いとかついていなくて助かった。

 誰が洗濯しているのかは知らないけどいい仕事だ。褒めてつかわそう。


 移動中も開きっぱなしのメニューで作業を続ける。

 やってきたのは執務室のようなところだ。黒壇っぽい重厚な執務机と座り心地のよさそうな椅子。

 サイズがちょっとどころではなく合わなかったのでソファーにあったクッションで調整して腰掛ける。


 まぁ、ぶっちゃけお仕事しているわけなので気分を出そうとここにきたのだ。なのでこの部屋自体には意味はない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 迷いの大森林の復興作業を始めてから一週間が経過した。

 初日に応急処置を済ませ、森の奥に来ている侵入者を最優先で排除する。

 得られるSPよりも感覚を狂わせる機能の再設置でどんどんSPがなくなっていく。だが一先ず感覚を狂わせる機能が死んでいた場所は再設置で以前同様の凶悪な森に戻すことはできた。


 使徒たちに倒された大量の魔物の再配置のためにもSPが容赦なく削れていく。

 ある程度は一日に数体の割合で魔物を自動的に生み出す装置――渦のおかげでSPの消費量は抑えられるが、渦で生み出せる魔物はそれほど強くないものに限られる。

 使徒たちに倒された魔物には渦で生み出せない魔物も多くいたのでSPを消費するしかない。


 感覚を狂わせる機能は確かに強力だが、それは数々の強力な魔物たちがいなければ効果も半減する。何せ森の恵は奥地に行くほど質があがるので餓死することはまずありえない。迷うだけでは死にづらいのだ。

 なので最低限必要な魔物はどうしても確保しなければいけない。

 ここでケチるようでは自分の命を放り投げるようなものだ。


 結果としてこの一週間で相当な量のSPを消費してしまった。

 ただその甲斐あって、以前の迷いの大森林と同等くらいには強いダンジョンに戻ってくれたと思う。


 頑張った。ボクはとても頑張ったと思う。

 自分の命がかかっていたのもあるけど、ダンジョン作成系のゲームをしているような感覚もあったので、それほど苦ではなかったのも大きいだろう。


 でもここまで復興できればもう大丈夫。

 この一週間で迷いの大森林はほとんどメンテナンスを必要としないダンジョンであることはわかっている。

 何せ消耗品は魔物くらいなもの。渦もあるのでそれもある程度は放置しておいても問題ない。

 今回のような使徒たちが大挙して押し寄せてくるようなことでもなければ、早々奥地まで侵入者がやってくることもない。

 しかも奥地にはコストが高くとても強い魔物たちが待ち構えている。

 彼らが簡単に倒されるようならば、そもそもこのダンジョンが千年ももってはいないだろう。

 それに今回はSPが枯渇しかねないほど強い魔物を大量に配置してある。

 前ダンジョンマスターの頃より奥地の防御は鉄壁になっただろう。


 これでやっと安全の確保は終わった。

 ここからが本当のスタートだ。

 やりたいことや実験したいことがたくさんある。


 差し当たってまず確認すべきは現在の保有魔力量だろうか。

 さぁて、ボクの魔力はどれくらいあるのかな?


 いでよメニュー!

 ボクの魔力を確認させたまえー!


 ====

 name:ミカゲ

 BLv:1

 MP:102


 DLv:Max

 SP:2096

 ====


 ……おっふ。

 なにコレ、どういうことなの? なんだかとても数値が低い気がする……。



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