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stage1~stage2

あらすじにも書きましたが、これはkanoguti様の作成されたゲーム、「やさしいこどもたち」を許可をいただいて文章化したものです。

勝手な解釈がたくさんあります。

 おかーさん!




 ねーねー!おかーさん!




 なんでわたしのなまえってゆーかなのー?






 ふふっ、




 それはね、




 あなたが優しい子に育ってほしいからよ。









 幼い頃、母にきいたことをふと、思い出した。



 バスの窓から見える、春の景色。命が芽吹き始める、あたたかな色をした優しい世界。それをその記憶の背景を通して見つめている少女、秋本優香あきもとゆうかは、胸を躍らせていた。



 何故かというと、今日は待ちに待った卒業旅行の日だからだ。




 彼女の通っていた小学校は少し小さな学校であった。そのため、6年生の人数も全員で20人と少ない。少し寂しい気もするが、その分友達の名前を覚えるのは楽であった。


 そして、その20人全員が、優香と同じように胸を躍らせていた。




 乗っているバスの行く先は遊園地。友達はバスに揺られながら楽しそうに喋っている。


 先日配られた遊園地のパンフレットを見せ合いながら、どれにのろうかと相談しあう子もいれば、何を食べようかともう昼ご飯の事を考えている子もいる。隣の子とただ単になにか喋っている子もいた。とにかく皆、それぞれの楽しい時間を過ごしているようだ。



 一方優香はそんな友達を横目に、相変わらず外の景色を見ていた。はやく、遊園地の姿が見たくて、じっとバスの行く先の景色を見てしまうのだ。滅多に行けるところでない所に行けるという興奮と、友達と遊園地を楽しめるという喜びが、彼女をそんな状態にさせていた。


 そうしていると、前の座席に座る友達がひょっこりと顔を出して話しかけてきた。それが目の端に映った優香は、仕方なく景色から目を離す。


「ねぇ、優香ちゃん!遊園地に着いたら何のアトラクションに乗る~?」


『え~っとね~……私怖いやつ苦手だからなぁ~……。』


 そういえば怖いものは苦手であった。パンフレットにのっていたホラー系のアトラクションを見た瞬間少し寒気がしたのを思い出す。ジェットコースターなんかもグルグル回ったりするのが何だか怖い。


「えー!じゃあほとんどのアトラクション乗れないじゃーん!」


『あはは……そうだね……。』


 悔しいが、その通りである。だが、遊園地には怖いもの以外のアトラクションだっていっぱいあるはずだ。コーヒーカップにでも乗って楽しめばいいと一度落ち込みかけた気持ちを元に戻す。せっかくの遊園地だ。楽しまなければ損だ。優香は鞄に入れたままだったパンフレットを取り出して、目を凝らしながら、怖くなさそうなアトラクションを探し始めた。


 観覧車の写真が目に入る。遊園地といえば、必ず見るアトラクションだ。そのため、いつもなら見過ごしてしまうものであった。だが、今回は違った。この観覧車、今まで見たことがないくらいに大きいのだ。周りに生えている木々が観覧車の足の根元にしか届いていない。もしかしたら、太陽に手が届くのではないだろうか。それだけでもすごいのに、一番高いところのゴンドラは、雲一つない、澄み切った青い空を独り占めできそうなところにあった。

 もう、優香の目は観覧車にくぎづけだった。これに乗ったら、絶対にきれいな景色が視界いっぱいに広がるに違いない。いまは暖かいから、桜の木がたくさん見えそうである。


 観覧車以外のアトラクションには目もくれず、優香は強い決意を抱いた。パンフレットを鞄にしまって、窓から外に景色を覗く。


 先程話しかけてきた友達は、もう隣の子と喋っている。それはいつも通りの光景であった。仲のいい人同士で喋り合う。そう、何の変哲もない「いつも通り」の皆の姿がそこにあった。 


 優香はまだ遊園地が見えないと知ると、ふと、その景色に目を落とす。教室と変わらない、等身大の無邪気さが溢れていた。そんな平和な空間を感じると、心の表面に、その「いつも通り」がずーっと続けばいいなー……なんて思いがぷつっと顔を出して、自然と零れ落ちていった。


 なんとなく、また窓の外を見た。バスは、急カーブが連続する道に差し掛かったようだ。こんな道の中を、皆が入るくらい大きな車でどうやって通るのだろうか。すこし、運転手さんのかっこいい運転を見たくて、優香は身を乗り出すようにしてバスの行く先を眺めていた。


 バスは巧みに最初の急カーブを曲がっていく。優香はその華麗さに思わず拍手をしてしまった。そして、次の急カーブ。これもまた上手に曲がっていく。

 これなら、最後の急カーブも綺麗に曲がっていくに違いない。優香は期待を胸いっぱいに抱いて、更に身を乗り出した。








 一瞬だった。






 何が起こったか、分からなかった。




 考えるいとまもないほど、短い出来事だった。




 バスに、困惑の声がぽろりと産まれる。




 バスは、急カーブを曲がりきれなかったのだ。





 曲がりきれなかったバスはガードレールをやすやすとぶち破っていき、こどもたちを乗せたまま、深いところに落ちていった。



 声にならない悲鳴と一緒に、体がどこかにぶちあたる。今まで体験したことの無い痛みが優香の全身にはしった。途端、目の前が真っ暗になる。それでも意識が微かにあった優香は、死に抗うように目を開けた。






 なんということだろうか。




 優香の目の前に広がった景色は、バスの中でもなく、本で読んだことがある地獄のような光景でもなく、ましてや天国のようなかんじでもなかった。




 周りは真っ白で、空は墨で塗ったように真っ黒だった。


 そして、目の前には黒く無機質な椅子が10脚置いてあった。




 状況が把握できず、優香が周りを見渡すと、なんと、バスの中にいた友達みんながいた。その皆も、優香のようにただ茫然とその場に立ち尽くしていた。

 いつもなら声をかけるだろうが、この受け入れがたい状況の中、正常に行動できる者なんて一人もいなかった。


 そうやって、誰もがきょろきょろと周りを見渡していると、どこかから声が聞こえてきた。


『こんにちは、小さなこどもたち。突然ですが、あなたたちは、病院で瀕死の状態です。だからその椅子に座ってください。座ったものは救われます。』


 唐突だった。しかし、そこに居る全員が「救われる」という言葉に安堵の声を漏らした。椅子に座れば、また楽しく生活できる。いつも通りが返ってくる。優香も自然と顔がほころぶ。



 だが、声はこう付け加えた。


『それだけではつまんないですね。……そうだ、音楽を流しましょう。まだ音楽が流れているのに座ったものは、私が殺します。


 あぁ。それでもつまんないですね。生き残れる人間はめんどくさいので一人にしましょう。そして、今ある10脚の椅子をお遊戯するたびに半数にしましょうか。それで最終的に生き残った人間が救われるのです。』



 安堵の声が一瞬にして批判や不満、そして悲しみの色に染まる。それと同時に怒りも込み上げてくる。あまりにも命を軽々しく扱っているのが小学6年生でもわかった。しかしその声は、声の主には届くことなく、


 あまりにも重く、理不尽な言葉が響きわたった。



『それでは、始めなさい。』







 声と共に、聞き覚えのあるクラシック音楽が流れ始めた。皆、なんとなくで椅子の周りを歩きはじめる。椅子取りゲームで遊んだ時のように。

 音楽は運動会で聞いたことがあるような曲であった。どんな曲名だっただろうか。思い出せない。



 こどもたちは椅子の周りをただ、円を描くように歩き続けた。これは夢なのだと思い、歩いていた。まだ、小学6年生だ。身体もこころもこどもの姿をしている年頃である。空っぽになった真っ白な頭は、考える余地などない。只々、飽和状態で歩く事しかできない。その光景は、決められた通りに動くおもちゃの兵隊の行進そのものだった。


 兵隊たちは自分を動かす音楽の名前の意味も知らない。いや、名前さえ知らない。そして、何の変哲もないその名前は、この空間に流れて、初めて違う意味を成す。



 優香は、お母さんの声を思い出した。以前、運動会の時にきいたおぼえがあった。あの曲の名前はなんていうの?と。なんとなく、記憶を遡っていく。まだ幼かったあの日の優しいお母さんの声を探して。


 たしか、たしか……そう、返答はこうだったはずだ。


『―――優香、これはね、



「天国と地獄」っていう名前なのよ―――』



 思い出した瞬間、音楽が止まった。静寂が足を動かす。優香は無意識に椅子めがけて走っていった。誰かにあたった気がしたが、そんな事に気付くわけがなかった。


 これは冗談なんかではないのだ。

 ましてや夢でも無かったのだ。


 誰が生き残って「天国」なのか、


 誰が座れずに死んで「地獄」なのか……



 それをお遊戯という名の仮面を被った審判で、決めていく物だったのだ……!


 優香は左から2番目の椅子に勢いよく座る。それから続々と椅子に座っていくこどもたちを横目に、ふと正面を見た。視界の中心に、床に座り込む女の子が映った。いや、「女の子」ではない。昨日、他愛も無い話をした友達だった。遊園地、楽しみだね~と言っていた、彼女のあの和やかな笑顔は今―――



 真っ青になって、こちらをじっと見つめていた。



 恨みも無い、憎しみも無い、ただ、無機質な視線。その視線が痛くなった優香は、「女の子」から視線をはずして、俯いた。


 控えめな悲鳴や怒声がふつふつと溢れだしてきた。こどもたちは、夢にいる半分、現実にいる半分で、十分に悲鳴を上げることができないのだ。そんな訳の分からない状態で、声を張り上げることなどできないのだから。

 次第に、椅子に座れたこどもたちの口から、言葉にならない嗚咽が漏れ始めた。困惑ともいえるその声は、自分がどうして友達に席を譲らずにここに座っているのか分からないといった、盲目の状態を訴えているようだった。ただ、生きたいという生物が持っている強い意志に動かされたということが、この年齢では分かるはずもない。


 優香もその一人だった。訳も分からず、閃いたことに従っただけだった。もうここらへんで覚めてもいいのではないだろうか。これが夢でないとしても、テレビでやっているドッキリ番組のネタバレのようなことがあってもいいのではないだろうか。

 もう、聞くのも見るのも嫌になってきた。優香はとにかく何かから逃げるように目を瞑った。


 暗い、黒い色が視界を支配する。そうして、ざわめきが耳に流れ出してきた。今度はそれを消すべく、優香は耳に手を伸ばした。



 優香の手が、頬のあたりまで来た頃、やっとざわめきが止んだ。それは一斉にして突然の事だった。優香は何事かと思い、視界を黒く染めていた瞼を思わずあけてしまう。


 その結果、現実をしっかりと見つめる事となった。




 まず、ざわめきの代わりに聞いたことの無い鈍い音が耳をこえて、脳みそにまで響いた。その音を例えるならば…………そう、ぎっしりと何かが詰まった重いものが、叩きつけられるような、不気味な音だ。


 次に、現実を見た視界の方だが、こちらは何とも言い難かった。よくわからない。何か真っ赤なものが舞っている。まるで、赤い絵の具をばらまいたような、そんな感じだった。そう言えば、先程の女の子がいない。真っ青な顔があったそこには、これもまた赤い絵の具を

 ばらまいたような景色が―――




 優香の頭の中で、音と映像が重なった。途端、鼻に生臭い香りが一気に押し寄せてくる。こうして、音、映像、臭いの三つが重なって、現実の情報を作り上げた。それを認識した優香は息を飲み、顔を手で覆う。


 最後には、椅子に座れたこどもたちの悲鳴がこの空間中に響き渡った。こどもたちめがけて、生あたたかい血がまるでシャワーのように降り注ぐ。暖かい気候だったものだから、半袖の服を着ていた子もいた。その露出された肌に血がべっとりと付着する。生々しい程、先程まで生きていたという証明の感触が、嫌というほど現実を押し付けた。




 そして、ただでさえ飽和状態で歩いていたおもちゃの兵隊たちは、これを機に壊れ始めたのだった。




 阿鼻叫喚のなか、突然、椅子が消えた。皆一斉に尻餅をついたが、痛みなど感じている余裕は無かった。そして、目の前に5脚の椅子が冷淡に置かれる。



 こどもたちは、その場で泣きじゃくり、叫んでいた。そうすることしかできなかった。目の前で友達が死んだのだ。いとも簡単に、一瞬で。まだ生も死もよく分からない年頃のこどもが、突然、命の脆さをこんな形で見せつけられる。狂わないはずがない。壊れないはずがない。


 いま、こどもたちを囲んでいるのは、酸化して色がくすんできた赤色と、冷たく佇む黒、そして、永遠と続く白であった。この三色は、いつもならこどもたちの楽しい光景に映えていたはずなのに、今となっては、決して逃げだせない恐怖のなかに閉じ込める、死の檻そのものになっていた。


 こどもたちの涙が枯れはじめたころ、その光景を嘲笑うかのように、また冷淡な声がした。


『なにをしているのですか。はやくお遊戯をはじめますよ。立ちなさい。立たない者は殺しますよ。』


 最後の一言に、皆は何かに憑かれたように立ち上がりだした。もう、びしょびしょになった袖や服で涙を拭いながら、おぼつかない足取りで体を支える。優香も、無意識に立ち上がっていた。頬には涙の乾いた感触が残っている。ずっと泣き叫んでいた喉は嗄れて、ひりひりと痛んだ。

 もう、このお遊戯というものをやるしかない。生きたいという優香の本能が、それを決心させた。



 どこからか、クスクスと楽しそうな笑い声が漏れる。その声は、あの冷淡な声にそっくりだった。




 また、あの音楽が流れ始めた。いままで、この音楽に動かされていたように感じていた。いや、実際そうだったのかもしれない。皆、現実と夢の狭間に漂って、なんとなく動いていたのだから。だが、いまははっきりと、自分を動かしているものの正体が音楽ではないと分かった。それは、生きたいという内部的なものだ。外部的な力であった「音楽」に対して、自分自身の心、本能から滲みだしてきた、「命を守る力」は内部的な力といえる。それが自分のネジを巻いているのだ。




 優香は、いままでしたこともない表情で椅子の周りをぐるぐると歩いていた。いつ音楽が止まるのかと、鬼気迫った顔つきになっていた。それはもう、見られたものではないくらいに。目だけをみたとしても、その獣のようにギラギラとした目は人間の目と言っていいのだろうか、というほどである。

 しかし、これは仕方の無いことだ。私たちが人間という『生物』である限り、誰もが生きたいという強い意志には逆らえないのだ。そう、生物は読んで字の如く、『生きるもの』なのだから。

 耳がいつもより研ぎ澄まされているのを感じる。皆の足音まで、まるで耳元でなっているかのように聞き取れるのだ。生き残った、自分以外の十人の死に抗う音が、軽快で残酷な音楽と共に、優香の神経を鋭敏にしていく。もう、十人もなんとなくうごくおもちゃの兵隊ではないのだ。おもちゃの体をぶち破って、獣の体がすべてを支配している。そこには今まで共に過ごした記憶など、ありはしなかった。



 ピンと張った糸のように張りつめた空気の中。その時はまた、突然やってきた。




 今度は先程よりもはやめに音楽が止まった。こどもたちは、その瞬間を逃さない。すぐに、5脚の椅子がこどもたちでうまった。しかし、反応にはどうしても個人差がある。少しでも遅かった者は弾きだされ、床に尻餅をつく。そのなかで優香は最初に椅子を確保できていた。それでも座ろうとしてくるこどもを精いっぱい追い払いながら、隣の椅子の争奪戦を聞いていた。優香の耳に、次々と様々な言葉が突き刺さっていく。



 ……わたしたち、ともだちでしょ!?



 お願いだから、席を譲ってよ!……



 ……家でお母さんが待っているんだ……!














 優香ちゃん!!!優香ちゃんは……



 “優しい子”だったよねぇ……!!!














『いやあああああああぁぁあああぁ!!!!!やめてぇぇぇえええええぇぇぇええええぇ!!!!!!』




 目の前にいた子が争奪戦の群れから弾かれた。いや、自分が弾いたのだ。同時に、隣の椅子からもひとり、弾かれた。こうして、5脚の椅子に、五人の生存者が座った。




 鈍い音が、五人の生存者の耳につんざく。


 真っ赤な血液が、優香の冷たくなった頬にべっとりとはりついた。暫くしてから、その生あたたかさが伝わってきて、体が冷えていくのを感じた。




 優香の目には、あの時突き飛ばして弾いた、こどもの顔がはっきりと焼き付いていた。その顔は、




 衝撃のあまり真っ青になった後、




 おめでとう、と言わんばかりの笑顔でいっぱいになっていた。




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