失敗は成功だ《参》
レンを囲んでいた樹は少しづつ白くなっていき、真っ白になった。ユグドラシルはその過程に見惚れていた。まるで、この世界のものとは思えないものだった。だが、ユグドラシルには何故かわからないが違和感のない恐怖が押し寄せてきた。ユグドラシルの本能はこれを壊すことを命じていた。しかし、ユグドラシルはこの本能を拒んだ。とても美しかったため、壊すことができなかったのである。
すると、どこからともなく、先程レンが使っていた大剣があらわれた。すると大剣は飛んでいき、白い塊の前で静止した。すると大剣が白い塊の周りを回り始めた。初めは遅かったが、時間が経つにつれ、早くなっていった。
「なんなのだ?小芝居か?」
そう言っていたユグドラシルは目を疑った。先程まで残像と思っていた剣が、なんと、六つになっていた。
「なんだ?分身か?まぁいい、どうせ破壊するものだからな!」
そう言ってユグドラシルは手を前に出した。ユグドラシルはイメージした。剣を、壊すイメージを。
だが、それは不可能となった。
何故なら、ユグドラシルの出した手は斬られていたのだから。
「う、うぐぁ!」
ユグドラシルの腕は吹き飛んだ。ユグドラシルには再生能力があったが、痛みは激しかった。
だが、ユグドラシルはそれには気が回らなかった。何故なら自分の腕を切り落とした剣が、不思議であったからだ。ユグドラシルも馬鹿ではなかった。自分の腕を切り落とした剣を壊すイメージをした。しかし、その剣は壊れなかった。まるで、別次元にあるかのように。
ユグドラシルはここに来て自分の本能に従うことにした。しかし、壊すことは無理と判断した。まず近づくことが無理であった。
なので、ユグドラシルはレンを封印することを決めた。まだ、あの殻は破られてない。破られない前に封印しなければならなかった。
ユグドラシルは陣を創り出した。その間、レンは何もしなかった。ずっと、自分の周りで剣を回していた。
ユグドラシルは陣を完成させ、発動させた。
ユグドラシルの下に陣が出た。するとレンの下にも陣がでた。すると、レンの周りを回っていた剣が、ユグドラシルに向かってきた。ユグドラシルは攻撃を覚悟したが、剣は、ユグドラシルに攻撃することなく、ただ、回り続けた。
ユグドラシルはこのチャンスを逃すまいと、陣の発動に全力を注いだ。すると、ユグドラシルはあることに気がついた。自分の力が、自分が思うよりもっと使われていたことを。
それは、剣が、ユグドラシルの力を吸い取っていたのだ。ユグドラシルは気にせず、陣に集中した。
もうすぐ発動というときに、剣は攻撃してきた。
ユグドラシルはその攻撃を無視して、いや、耐えながら発動に専念した。不思議なことにユグドラシルの再生能力は切られれば切られるほど再生が遅くなっていた。
「うぐっ・・・・・・・・・・。」
痛みは酷かったが、陣を発動させなければもっと酷いことになると確信していた。
ユグドラシルは全力を尽くした。
満を持した。
ユグドラシルは陣を発動させた。すると、白い塊の周りに陣が無数にできた。
「『神主間結界』・・・・・・・・・・この世に存在する封印術で最も優れた封印だ!」
すると、白い塊は陣によって囲まれ、動いていた剣は消えていった。封印は成功したのだ。
「はは、やったぞ。」
そう言ってユグドラシルは安堵の顔をした。
しかし、それは一瞬の安堵としかならなかった。白い塊はその封印を破った。いや、上書きした。封印自体を新しくし、それを解いたのだ。
「んな、ばかな!神でも壊せないものを・・・・・・・・・・。」
ユグドラシルは弱音を吐いていたが、再び陣を張ることを決意した。ユグドラシルはこれまでの全てを、封印に詰め込んだ。そう、何もかもを・・・・・・・・・・・・・・・
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もう、何時間やったのだろうか。流石にユグドラシルも疲れ切っていた。
ユグドラシルは全てを込めた封印で、レンの力を抑え込んだ。実際はレン自体を抑え込むはずだったが、力を抑え込むことしかできなかった。
白い塊の殻は壊れ、その中からレンが出てきた。レンは男の娘ではなかった。呪いを上書き解読したのだろう。
「全く・・・・・・・・・・手間をかけさせおって。」
ユグドラシルはそう言っていたが、実は結構ヤバイ状態だった。力は残っておらず、空間を保つことも困難になっていた。
「はは、ちょっと不味いかな・・・・・・・・・・これ。」
ユグドラシルはふらふらしながらレンの所へと歩いた。
ユグドラシルがレンの近くに来た時、レンは目覚めた。
「あり、ここは・・・・・・・・・・?」
「気付いたか。」
ユグドラシルは安堵の笑みをした。しかし、レンは辺りをキョロキョロしていた。
すると、レンの言葉から衝撃の言葉が飛び出した。
「あれ?ユグドラシルは?というかあんた誰?」
「おいおい、我が・・・・・・・・・・」
そう言おうとした瞬間、あることに気がついた。自分の視点が下がってることを、肌が白くなっていることを、頭が重くなっていることを・・・・・・・・・・・・・・・
ユグドラシルは思い出した。レンの力を封じ込めるために、全てを
出し切った。その時、何かの誤作動である呪いが発動した。『男の娘化』の呪いならまだ、よかった。なにせ、『美少女化』という、何故かこの呪いは、解くことが不可能なのである。
「う、う、ギャァァァァァァァァァァァア!」
「うわ!なに?どうしたの?なんか・・・・・・・・・・あったの?」
「いや。お主のせいなんだが・・・・・・・・・・」
「え?なんて?」
ユグドラシルは小声で文句を言ったが文句を垂れても仕方ないとわかっていた。
「なあ、あんた。長髪の男を見なかったか?」
「え、あ・・・・・・・・・・み、見なかったぞ!」
流石に、自分がユグドラシルなど、恥ずかしくて言えなかった。
「でさ、あんた誰?」
「ふぇ?」
ユグドラシルは想定外の、いや、想定していない質問に戸惑った。
「え、えーと・・・・・・・・・・・・・・・」
不味い、本当に不味い。えーと名前、名前・・・・・・・・・・名前・・・・・・・・・・なま・・・・・え。
「えーと、その、あの・・・・・・・・・・」
「ん?」
「ユシル・・・・・・・・・・ユシルだ!・・・・・・・・・・」
ユグドラシルは咄嗟に嘘をついた。
「へー、ユシルか・・・・・・・・・・へ・・・・・いい名前だな。」
「おぬ・・・・・・・・・・君、一瞬『変な』って言いかけよね?」
「お前、今さっき『お主』って言いかけたよね?よね?」
ユシルとレンはつまらない揚げ足の取り合いをしだした。
「まぁいい。お主、早くこの空間からでた方がいい。」
「そうだねユグドラシル。」
「ああ、そう・・・・・・・・・・え?」
「残念、気付いてないふりでした。気づかなかった?」
レンはニコニコしていた。
え?・・・・・・・・・・いや・・・・・え?じゃあ・・・・・あんな戸惑なくても・・・・・よかったのか・・・・・!?この・・・・・・・・・・我がバカのようじゃないか!
ユグドラシルは頭を抱えていたが、そんなこと露知らずレンは質問を続けた。
「で、どうやって出るの?」
「ああ、それはだな・・・・・・・・・・。」
その時、ユシルはふらついた。
力を消耗し過ぎたか・・・・・・・・・・!
今現在のユシルの力では出口を、つくることはできなかった。なので、ユシルは苦渋の選択をした。
「ッ!主と契約する!」
それは、レンとの契約であった。契約をすれば、契約者から力を受け取ることができるのだ。しかし、これはユシルにとっては屈辱であった。
「こんなことにならなければ・・・・・・・・・・!」
ユシルは自分を責めた。
「なに?どうしたの?」
「主と契約など・・・・・何故!」
「・・・・・・・・・・あのさ」
レンはユシルに話を持ちかけた。
「美少女は沢山いると思うぞ?俺の世界。」
レンは何となくボソッと呟いた。するとユシルはレンの両手をガシッと掴んだ。
「よし!契約だ!是非、契約しよう!」
人が変わったかのようにユシルはレンと契約をした。契約といっても対して難しいことではなく、自分の腕に、契約印が出るだけであった。
こいつ・・・・・・・・・・アホだな。
そんなことをレンは思っていた。
「よし!契約完了だ!いくぞ!」
そう言ってユシルは縮んでいた空間に無理矢理、出口を作った。
「さあ!ゆけ!我は後から行こう!」
そう言ってユシルはレンを出口に突き落とした。
「ギャァァァァァァァァァァァア!」
レンは悲鳴と共に空間をでた。すると辺りは薄暗かった。
尋常ではないほどの疲労感がレンを襲った。
「もう・・・・・・・・・・帰るか・・・・・・・・・・。」
そう言って病室に戻らず、自宅へと急いだ。