失敗は成功だ《弐》
レンとユグドラシルの攻防は始まった。互角の戦いとなった。しかし、この空間はユグドラシルの空間、やはりレンはだんだん不利になっていった。
戦っている間に、レンはあることに気が付いた。それは、いつもより体が動きやすいということだった。大きな大剣を持っているにも関わらず、それをナイフのように片手で操っていた。
そして、自分の力もわかった。
魔呪石は、レンの意志に答えていた。レンは、大剣に冷気を纏わせた。そして、ユグドラシルが操る木をきっていった。
「ほぉ、考えたな。樹は冷気に弱いという点を使ったか。フムフム、なかなかやるな。だが・・・・・・・・・・」
「恨むのならば、無知の己を恨め。」
ユグドラシルがそう唱えると、冷気により固まった樹が、氷を弾いた。
「この樹はな、世界樹なのだよ。世界樹は、炎を栄養とし、氷を力と変える!故に主がしたことは逆効果なのだ。」
樹の動きは活発化し、レンの下や周りから大量の樹が生えだした。レンはその生えだした樹に捕まった。
「くそ、!なんだよこれ、ビクともしない!」
レンは必死に逃げようとした。しかし、既に目の前にユグドラシルがいた。
「主はアホだな。折角、主の身体能力を三倍にしたと言うのに、主は逃げることに使わなかった。間違った選択をしたのだ。主は。」
そう言ってユグドラシルはゲス顔を決めていた。
・・・・・ そうか、だから動きやすかったのか。
レンはユグドラシルを前にして、疑問が解けたのだ。
「ああ、そうかい。だが何故トドメをささない?楽になると言うのに。」
レンはユグドラシルを挑発した。同時に自分の成れの果てに悲しみが湧き出でた。
「よくぞ聞いてくれた!我はな、お主を『これくしょん』にするのだ!永遠に飾ってやるぞ。喜べ。」
「へぇ、俺をコレクションにするのか、変態か?だがだ、お前のその計画に泥を塗らせてもらうぞ!」
レンがそう言うと、ユグドラシルに巨大な冷気を纏った石の塊が飛んできた。先程、レンがユグドラシルと戦っている間に、生成したものだった。
「気づいていないと思ったか?」
ユグドラシルはそう言うと塊の方向に体を向けた。そして手を前に出した。ただ、それだけの動作だった。塊は、勢いよく飛んでいたが、ユグドラシルがこの行動をした瞬間、塊は跡形もなく、塵と化した。
「そん・・・・・・・・・・な・・・・・なん・・・・・で?」
レンに絶望の色が浮かんだ。
「主は何か勘違いをしているな?ここは我が空間、我が支配しているのだ。その中にあるものなど、容易く壊せる。」
ユグドラシルは見下げた見かたで、レンを見た。
すると、レンを捕らえていた樹が増えていった。レンはそれに囲まれていった。
だんだん、手足の感覚が無くなっていた。
・・・・・・・・・・死ぬのか、ここで、俺は・・・・・・・・・・
レンは途切れかけていく意識の中、絶望を抱いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・ぃやだ・・・・・・・・・・いゃだ・・・・・・・・・・ぃゃだ・・・・・・・・・・いやだ・・・・・いやだ!
レンは絶望と同時に希望を抱いていた。希望は儚く、哀しみを叫んでいた。
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黒い空間で目覚めた。そこにはレン、いや、自称『語り部』のヤミバラがいた。ヤミバラは辺りを見渡した。
「ここは・・・・・・・・・・。」
そう言ってヤミバラは辺りを歩き出した。
すると、何かを感じたらしく、突然座り込んだ。
「・・・・・・・・・・レン。次に進んだんだね、だけど・・・・・・・・・・焦り過ぎたね。」
誰もいない方にヤミバラは喋りかけていた。
ヤミバラは笑顔であったが、同時に、皮肉の色を出していた。
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「我を手惑わせおって。だが、素晴らしかったぞ。お主の力。」
ユグドラシルはレンを囲んだ樹の前に立っていた。
パンッという音とともに、樹が、たった一本の樹が、折れたのだ。
「ほう、世界樹を切れたのか。腕は確かならしいな、どれ・・・・・・・・・・」
そう言ってユグドラシルは折れた樹を持とうとした。
世界樹を切れるのは、資格を持ったものだけ。資格を持てるのは本当に優れたものだけなのである。
ユグドラシルは折れた樹に触ろうとした。しかしその樹の異変に気がついた。樹は、なにやら黒い斑点があった。そしてその黒は時間とともにどんどん広がっていき、樹は黒に染まった。
「な、なんなんだこれは!腐敗では・・・・・ない・・・・・ならば何故!?」
ユグドラシルは樹を前にして、おののいた。
樹は音を出して割れた。
ユグドラシルはレンを捕まえた樹の方に視線を動かした。
レンを捕まえていた樹に変化はなかった。
しかし、少しづつ樹が『白く』なっていた。