表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/62

足の先まで数センチ③

 ハンドルグリップを強く握り、自転車を引いて歩く。

 細道を外れ、ようやくグラウンドが見えなくなると、一度だけ振り仰いでみたが、鬼佐が追ってくる気配はない。

 当然だ、と流星は震える息を吐き捨て、唾を飲み下す。

 再び橋を渡るとき、今度は達人成瀬が後ろを振り返った。

「実習ってさ、その……評価が付けられるんじゃないの?」

「……え、はい。たぶん」

 成瀬の言いたいことは、すぐに分かった。

 事前打合せをすっぽかした流星の心証は、最悪だろう。

「あとで、うまく電話を入れますよ」

 言いながら、肩をすくめる。

 本音を言えば、今さらながら教育実習することさえ、流星は迷い始めていた。

「うまく、ねえ」

 達人成瀬は急に立ち止まり、無精ひげのあるアゴをさすると、首をひねって欄干から身を乗り出した。

「どうしたんですか、UMAでも見つけたんですか」

 流星のからかいには反応せず、達人成瀬は辺りをうかがい、何かを探している様子だ。

「上か」

 弾かれたように顔を上げ、空中を見やった。

 つられた流星が目を向けるのと、「やめろ!」と達人成瀬が叫んだのは、同時だった。

 初めは自分が言われたのかと流星は思ったが、どうやらそれは違うらしい。

 橋の中央にできた人だかりが、同じように空中を見上げ、口々に「止めろ」だの「だめだ」などと叫んでいる。

 繁華街のほうの川辺には、ちょっとした商業ビルが建っていて、その六階ほどの窓辺から、若い男が身を乗り出しているのが見えた。

「まさか、飛び降りるつもり、とか」

 流星が驚いている間に、達人成瀬はてきぱき群集を統制して、若い男の説得を始めた。

 流星は、所在無さげに立ち尽くす。

 本音を言えば、流星は人に関わるのが得意ではない。

「このまま自分だけ帰ったら、成瀬は自分を軽蔑するだろうか」

 先ほど、男子高校生の奇異の目から救い出してくれたのと同じ口で、今後は「無責任だ」と流星を責めるのだろうか。

 群集が押し寄せてきて、杖代わりの自転車が倒れ掛かった。

 くるぶしが、焼けるように、痛む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ