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たとえばぼくの右側に②

 すぐに、中丸若葉の姿が思い浮かんだ。

「なるほど。それで呼びきたってわけですね、ぼくを」

「北島先生は、生徒たちに信頼されていますから」

「……え、ぼくが?」

 そんなことありません、と否定した流星は、別に謙遜している訳ではない。

 問題ばかり起こす彼らに慕われている実感など、わずかでも感じたことはなかったのだ。

「でも私が見る限り、森野先生よりは慕われていますよ。確実に」

「それは……否定しない、かな」

「言いますね」

 流星が思い浮かべたのは、森野指導教諭が原因で教室に入れなくなったという重森あゆみの姿だった。

 校舎に入っただけで、もう職員室の喧騒が聞こえてきた。

「認めないから! テル本人の口から聞くまで、絶対に認めないから!」

「だからな、おまえたちが認める必要なんて微塵もないと……おお、北島先生、早くこっちに」

 泣きわめく中丸若葉をなだめていた森野指導教諭は、流星の姿が見えるやすぐに手招いて自分の横に陣取らせた。

 流星と森野指導教諭。中丸若葉と重森あゆみ。

 対になって、向かい合う。

「りゅうせ……」

 中丸若葉が口元を震わせた。

 それを、きついまなざしで引き止めたのは、重森あゆみだ。

「だめ。所詮あいつも、向こう側の人間」

 森野指導教諭が、薄い笑みを浮かべて「あたりまえだろ」と、はき捨てた。

「北島先生は、おまえたちを指導する立場なのだからな」

 森野指導教諭は、流星に目線を投げ、何か言えとばかりに腕を小突いてくる。

「あの……うん。ここは職員室だし、たくさんの人がいるよね。たくさん聞きたいことがあるのは分かっているけど、ここではよそう。さあ、教室に戻ろう。あとから行くから」

 流星のことばに中丸若葉は泣きくずれ、重森あゆみは横を向いた。

 そこに末永校長がやってきて、森野指導教諭の耳に何事かささやく。

「分かりました」

 ふたりが校長室に入っていくのを目で追うと、森野指導教諭がぐるりと振り返った。

「北島先生、あんたも来て。いっしょに」

 流星は背筋を伸ばし、歩き出す。話を、聞かなければならない。



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