ポケットいっぱいの勇気⑤
最後尾から見守るように付いていくと、皆なんとか彼女に脚本を書いてもらおうと、あれこれ言いつのっているのが聞こえてきた。
「じゃあ逆に、なんでできないのか理由を言ってよ」
「おれらみんな協力するぜ?」
優しげな声音を聞いていると、なかなかいいクラスなのではないかと思える。
「なんでいっつもポケットに両手を入れてるの。ほら、ウチの手を取って」
重森あゆみには、皆に心配されるのを嫌がるそぶりはない。
「ほら、手を出してよ。ポケットから。……そこに何かあるの? 魔法のポケットなの? だったらそこから勇気を掴んで、取り出して見せてよ」
そろりと出てきた重森あゆみの手を、しっかりと包み込んだのは中丸若葉だった。
「ウチに任せて」
教室に戻ると、前田輝臣が自席でふんぞり返って待っていた。けろりとした、平然とした態度だ。
これが勝手気ままに早退し、一晩じゅう行方不明だった者の態度なのだろうかと、流星はため息を取り落とす。
「テル!」
だれよりも早く教室に駆け込んだ中丸若葉は、重森あゆみの目の前で彼に腕をからませた。もたれかかるようにして、その身を預ける。
重森あゆみの唇が、きゅっと閉じられた。
チャイムが鳴り響き、行き場を探してうろたえる重森あゆみを呼んだのは、茶色の髪の日向アキラだった。
「重森、席はここ」
HRでも、前田輝臣は横暴な言動で皆を困らせ、自由気ままに振る舞っている。
皆笑っているが、昨日殴られた加賀谷だけは、時おり目の端で前田輝臣をにらむようなそぶりを見せた。
前田輝臣と同じバスケ部に所属する加賀谷は、背は抜群に高く存在感もある。前田輝臣に負けずおとらずの目立ちたがり屋で、やはり粗暴の印象だ。
今も、嫌がる日向アキラの首を押さえて、振り回して大はしゃぎしている。
その日向アキラは、決して気弱なタイプではないが、体格のいい加賀谷にはかなわない。自分の勝負できる場はどこか、いつでも探している気配がある。
日向アキラは制服の上に見覚えのあるジャージを羽織っていて、流星は彼が陸上部員なのだということを、初めて知った。
陸上部というと、これまで意識的に避けてきた鬼佐の姿を嫌でも思い浮かべてしまう。
鬼佐を思い出せば、陸上部の面々を連想させ、そうなると忌まわしい事故の記憶がよみがえってくる。流星は首を振った。
けがをした流星と、命さえ無くした級友。




