その時に聞こえたのは君の歌④
流星は、成瀬の大きな背中に目をやり、「でも」と声を張った。
「どうして、ぼくなんかを覚えていたんですか。ぼくはあなたと違って、全然目立つタイプじゃないですけど」
成瀬が首だけを、こちらに向けた。
「そうでもないよ」
彼の視線が自分の足元に向けられていると気づき、流星は自転車を押す腕に、力を込めた。
「まだ、足の調子は悪いんだね」
とっさに、完全にもたれかかるようにしていた自転車から、身を起こした。
「どうして知っているんですか」
ごめん、と前置いてから、成瀬は「地元だって言ったろ」と、やけに決まり悪そうにつぶやいた。
地元、と流星は繰り返す。
「なら……それなら、知っていても、おかしくないですよね。ぼくの事故のこと」
言いながら、流星は片足立ちになった。
成瀬の目が、再び地面すれすれまで落ちる。
「まぁ、その、原因も、ね」
まるで聞き逃して欲しいのかと思うほど、成瀬の声は小さかった。
流星は中学時代、事故にあった。
それも、ただの不注意で起こった事故ではない。
当時、踏み切りで大騒ぎをしていた複数の中学生グループの姿を、たくさんの人が目撃していた。
学生同士のケンカなどまるで珍しくもなかったが、たまたま通過したワンマン電車に流星がわずかに接触したことで、事は大きくなった。
電車は駅を前にして減速していた上に、騒ぎに気づいていた運転手も、かなり早い段階で急ブレーキをかけていた。
それでも、流星のほかにもうひとりケガをした人物が入院し、その後亡くなっていることから、当時はそれなりにニュースになったものだ。
事故なのか、それとも故意か。
流星、という一風変わった名前も、人びとの記憶に残りやすい一因だったのかも知れない。
もちろん、未成年である流星の名前は伏せられていたはずだが、人の噂話を止める術はない。あの頃、どこへ行くにも、流星は好奇の目にさらされたものだ。
だからこそ、同年代の成瀬が流星を覚えていても不思議ではない。
「くるぶしだよな、痛めたの。ずいぶんリハビリがんばったんじゃねえの?」
背中を向けたまま、成瀬は流星をねぎらった。