その時に聞こえたのは君の歌③
「……へえ、北島流星っていうのか」
成瀬の声が、わずかに上ずった。
その様子を用心深く観察していた流星は、妙な違和感を覚えて身じろぎする。
「いい名前。北の寒空に浮かぶ一等星って感じだね。うん、イメージどおり」
流星が何も言わないのをいいことに、成瀬は調子付いてさらに紙片を読み上げた。
「え? 明日から中学で教育実習やるの? って、教師希望? すげえ。……あっ、すみません。ちょっと騒いじゃって、はい」
後のことばは、落ちたカップを片づけにきた、店員に向けたものだった。
「返してください」
流星は、ひったくるように紙片を奪い返し、尻ポケットに突っ込んだ。
「なんで隠すのさ。教師志望なんて、立派じゃないか。うん、うん」
なぜかしきりにうなずいている成瀬を残し、流星はすばやく会計をすませた。
ボディバッグを背負い、店のすぐ前に止めていた自転車のカギを外す。
自転車には乗らず、そのまま引いて歩き出すと、すぐに成瀬が追いついてきた。
「ここさ、おれにとっても地元なんだよね」
車の流れに目をやりながら、成瀬がだれともなしに言う。
「今日はちょっとね、その、墓参りに来たんだよ」
まゆ根を寄せて、流星は立ち止まる。
「墓参り?」
成瀬は、流星の言外の質問を読み取り、「兄弟のさ」と付け加えた。
「弟さんですか、それとも、お兄さん?」
「ああ、いや、いいんだ。もう、ずいぶん前の話だから」
成瀬は目をそらしたままだ。
「それよりも、いい天気だねえ。五月晴れっていうのかな」
子どものように、くるくる風を受けて、成瀬は回った。
「おれ、昼間のバスでこっちに来たんだ。ほら、流星君と同じバスだよ。……本当はさ、そのときに見かけたんだ。これも何かの縁だと思ってさ、つい……」
成瀬は続けて、大学の構内でも何度か流星を見かけていた、と白状した。
「知らん顔して近づいたのは、謝る。でも、UMA研究会に入って欲しいのは、本当だよ。人手が足りなくてさ」
「でもぼくは、大学の構内であなたと会ったことはありません」
流星はひと息に言い切ると、反応を確かめるように、成瀬の顔を見上げた。
「まぁそれは」
待ってましたとばかりに、成瀬が笑みを作る。
「そっちが見たことないのは、当然だよ。休学して、二年くらい旅をしていたから。自転車でね、日本じゅうを。年上だけど、まぁ、同級生だ」
今度は先に、成瀬が歩き始めた。