流れる星のように⑤
チャイムが鳴っても、女生徒は、その場に縫い止められたかのように動かない。
司書が戻るまで彼女の側にいるべきだろうか、と流星は考えた。
「どうぞ、行ってください」
女生徒のほうは、流星の存在さえ拒絶する。
どうしたものかと考えていると、勢いよくドアが開き、四つ葉のクローバーが左右に散った。
「やっと見つけたぁ♪」
騒々しく室内に入ってきたのは、司書ではなかった。
健康的に日焼けした顔でこちらを一瞥し、きゅるんっとスリッパを履いた足を踏み鳴らす。
「元気だねえ」
その溌剌としたしぐさに、思わず流星の顔もほころんだ。
「うん、元気っ! あのねえ、りゅうせー先生」
ここで初めて、この小さなつむじ風みたいな彼女が自分に用があるのだと気づく。
「迎えに来たよ? あのねあのね、今日のメニューは……八宝菜でぇす♪」
「え? あ、待って」
ぐいぐい腕を引かれて歩きながら、流星は手近にあった机にしがみついた。
「あ、そか。足痛いんだよね? じゃあ、もっとゆっくり歩くから、早く行こ」
「ゆっくり、早く?」
ごめん、と笑いながら、流星は彼女の胸のネームに目を落とした。
「えっと、中丸若葉さん。ぼく……いや、先生は、まだ教室には入れないんだ」
「なんで?」
「そういう決まりなんだよ」
「でも、ほかのふたりの先生は、昨日からクラスでいっしょに食べてるよー」
ずるいよー、とさらに腕を引く。
森野指導教諭は、流星が教室に現れたらなんと言うだろう。
「それに今は、司書の先生が戻るまでここにいなくちゃいけない」
中丸若葉はほおを膨らませながら、窓辺でたたずんでいる女生徒に目を向けた。
「あゆのこと? だったら大丈夫だよ」
「あゆ、さん、は教室に戻らないの」
中丸若葉が、ふふん、と鼻を鳴らす。
「あの子の名前は重森あゆみ。ってか、だめじゃん。りゅうせー先生ぇ。名前くらい覚えようよ。あゆは、うちのクラスだよ?」
クマのような森野指導教諭の顔が、思い浮かぶ。
「そうか。それじゃあ、……重森あゆみさん、えっと、いっしょに行こうか」
すばやく「だめ」と答えたのは、中丸若葉のほうだった。
「あゆはね、ここにいないと息が出来なくなるの」




